軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「なあ、ロシェット嬢の実習の班、大丈夫なのか?」

本日の野菜スイーツの試作品――緑、黄、赤と、カラフルで見た目も可愛い焼きドーナツをステファノは受け取ると、アレクシアの目下の懸念事項を口にする。もらってすぐにドーナツを頬張るその背後に、ふさっとした尻尾が喜びにぶんぶんと振られている幻が見えた。

これだから、冷たくあしらえない。

――だから、警戒なさった方がよろしいのでは?

――俺、ロシェット嬢のこと、信頼してるからさ。

再度苦言を呈した際、さらりと返された。

距離を取るどころか餌付けの効果はバツグンで、ステファノはすっかりアレクシアに懐いている。近づいてくるなー! と思うのに、邪険にすると耳をぺしょりと下げ、しょげる大型犬のような姿に、非情に徹しようと決めた心が折れた。

結論。朗らかで、謀りとは無縁の男には絆されやすい。計算してやっていないのだから、白旗を揚げるしかなくなる。野菜入りのスイーツも、本来はマリッサに指示して渡すだけのつもりでいた。

――直接礼も言いたいし、俺だって感想を言いながら食べたい!

――うまいもんを、一人で食べんの淋しいじゃん。

――俺がいると、じゃまか?

以前と同じように、中庭でジェイニーとアリアーナと試作品を食べていると、ステファノに直談判される。断ろうと思いつつも、向けられた眼差しに負け――だって、ステファノも攻略対象者だから顔が良いんだもんっ! と、アレクシアは心の中で叫び、つい同席の許可を出してしまった。

今のこの状況になのか、投げかけられた台詞になのか、アレクシアは軽いため息がこぼれる。

「……大丈夫だと、信じたいですわね」

希望しか、口にできない。

実習の班編成に関しては、やはり他の者から見ても、不安があるのだと再認識させられた。

「ガラッシ様も、おかしいと思われますわよね? わたくし、抗議しましたのよ」

「抗議?」

「ええ」

班が発表になった、直後のことだ。

アレクシアと同じ班に名を連ねる者たちの名を見て、ジェイニーは即座に教師の下へと行った。本当に、この班編成で大丈夫だと思っているのか、何か手違いがあったのではないかと。

今回の演習は、連携を学ぶものであり、誰かを守りながら戦う訓練でもある。要は、後方にいるアレクシアのような高位貴族の令嬢はお飾りだ。だからこそ、本来なら他のメンバーだけでも課題がクリアできるような編成になるのが正しい。

けれど実際は、微妙なラインだ。

アレクシアの班の男子生徒は三人。伯爵令息のデイブ・ウィナーは、未熟さはあるが騎士として将来有望と言われている。唯一、妥当な人選と言えた。

子爵令息のトリスタン・ダーヴィンは、騎士を志望してはいるが努力が必須な腕前だ。同じく子爵令息のワード・ホーカーは、それなりに魔法の腕を持っている。本当に、それなりとしか言えない。

アレクシア以外の女子生徒は一人。リサは平民であるにも関わらず魔法が使える。それに加えわずかながら神聖力もあるのだが、貴族に比べたら両方とも微々たる物と言えた。

(お飾りの公爵令嬢がいる、班編成じゃないのよね)

戦力が、心許ない。仮にアレクシアが積極的に参戦するとして、魔法に長けていると評されているのなら、あながち間違った班編成とは言えない。

けれど実際のアレクシアは、真逆の評価がされている。だからこその、自他共に認めるお飾りだ。それを考慮すると、騎士の強さが際立つ編成でなければ、リサの代わりにジェイニーくらい実力のある者が望ましかった。

「先生は、確かにおかしい気がする、とおっしゃって、確認するとおっしゃったのですが、結局そのままですの」

思いがけず公爵令嬢と同じ班になった当人たちも、困惑し、ひどく恐縮している。打ち合わせの際も、怪我一つないよう身を挺してでもお守りしますなどと言われ、アレクシアの方が申し訳ない気持ちになった。逆の立場だったら、プレッシャーで胃に穴が空きそうだ。

「俺がトリスタンあたりと替わったら、ちょうど良さそうなんだけどなぁ」

ステファノの班も、戦力がステファノありきになっている。微妙な実力のトリスタンと交代すると、今度はそちらの班が課題をクリアできない可能性があった。

「殿下の班も、戦力が微妙なんだよな」

へぇ、とアレクシアは頷く。

確認していないので、どんな班編成なのか知らない。

「殿下を主戦力とするならアリだけど。実際、剣の腕も、魔法の腕も確かだしな。けど、護られる側にいなければいけない王族を、戦力に数えるか? フツー」

「そうですわよね」

「わざと試練を与え、みんなで苦難を乗り越えて、とかそんな考えなんでしょうかね?」

何気ないアリアーナの台詞に、アレクシアはハッとさせられる。今の教師陣は無能なのかな!? と、考えていたことを反省した。

「ありえなくはないな」

ステファノも、納得する。安全対策がされている学園の実習だからこそ、ギリギリの戦力は、緊張感を持って経験を積むにはいいアイディアなのかもしれない。魔が強くなる頃合いなのだから、高位貴族でも甘えるなということだ。

「授業の一環ですものね。危険がないからこの編成なのでしょうね」

「それなら、いいのですけど……」

ジェイニーの憂いは、完全には晴れない。

アレクシアを思ってのことなので、頭を撫でたくなって困った。

「なあ、今回の菓子もうまいな」

アリアーナの台詞で納得したステファノの意識は、焼きドーナツに向かう。

前回の緑鮮やかなパウンドケーキは、野菜が使用されていると知っているので恐る恐る、という感じで口にしていたが、二口以降は躊躇なく食べていた。

今回は、警戒すらしていない。

「ええ、とてもおいしいですわ」

「色とりどりで見た目もかわいいし、すごいですね」

「皆様のお口に合ったようでよかったですわ」

(すっかり馴染んでるなあ)

使われている野菜を予想し合い、感想を言い合っている。女性三人の中に男性が一人混ざっているとは思えない、和気藹々な光景だ。

(どっちかを狙ってる可能性とか、ある?)

ひそかに、アレクシアはそわっとする。人の恋模様を眺めるのは楽しい。

特に、両片想いは大好物だ。

もどかしさに心の中でじたばたしながら、微笑ましく見守りたくなる。ただ現在のステファノは、誰にも恋心を持っていないように見えた。視線に、熱がない。

強いて言うなら、時々エリックに熱い視線を向けている。脳筋なので、どうせ手合わせがしたい、とか考えているのだろうけれど。

(ほんと、素直すぎるのよねぇ)

裏表がないのは、人として好ましい。

けれど望みを、手の内を、簡単に見せるなど迂闊と言える。切り札として使えるとわかれば、アレクシアはそう簡単にそのカードを切らない。後々、交渉材料に使えるからだ。

(悪役令嬢なので、使える物は使うんですよ)

悪い顔での高笑いは、脳内イメージだけにしておいた。

高笑いは、案外難しい。

「多めに持ってきたので、皆様お土産にお持ちくださいね」

各々が礼を口にするのに、アレクシアは頷く。

色々順調だ。

実技演習が終われば、国王への謁見と、夏期休暇を待つだけ――なんてその時は呑気なことを考えていたが、実習当日となり、内容がここまで変更されるなど想定外なんですが!? と、アレクシアは鬱蒼と立ち並ぶ木々を前に心の中で叫んだ。