軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9:規格外の婚約者

オズワルドは常に忙しいらしく、あちこち飛び回っていて二、三日不在も多い。婚約者を放っておくのが心苦しくて頼んでいるのか、サイデルフィア家によくカイマールが訪れていた。そして彼は昼間から酒を所望し、相手をするアミィはハーブティで茶会もどきをする。

「まあ、ソロイド様のお孫さんはまだお小さいのですね」

「ああ、俺の結婚が遅かったしな」

アミィにとっては正直オズワルドと過ごすより心躍る時間だ。トパーズの死後の彼を知る事が出来てとても楽しい。

彼の息子はかつてのカイマールと同じように国軍にいるそうだ。王都暮らしでこちらには滅多に帰ってこない。

「俺の嫁はこっちの出身だからここに住むのに抵抗はないけど、長男は上司の娘といい仲になって結婚しちまった。王都育ちの嫁をこちらに連れてくるのを嫌がってる。だから家督は辺境軍国境部隊にいる次男に継がした方がいいんじゃないかとも考えてるんだ」

「……そのような事、私などに話してよろしいのですか?」

昔から彼は口が軽い。酒が入ると尚更。

「君は辺境伯夫人だぞ? 親戚の内情は知っておくべきだ」

そうだった。どんなに酔っても漏らすべきではないものの分別はつく人だった。

「まだ婚約者の段階だというのに……」

「今更婚約破棄はないだろ。“嬢ちゃん”呼びも変だし、これからアミリシア夫人と呼ぶぜ」

「当主様を“オズ”呼びなのに、おかしくないですか?」

「え?」

きょとんとした顔が存外お可愛らしい……と、アミィが思った次の瞬間には「それもそうか!」と豪快に笑う。

「じゃあ“オズ”とお揃いで“アミィ”でいいな!」

「お揃いって……」

アミィもつられて笑うのだった。

「カイマールおじさん、いつの間にアミィとそんなに親しくなったんですか?」

商談で他領に出かけて留守をしていた五日間の間に、大叔父と婚約者の距離がずいぶん近くなっている事に、オズワルドは気がついた。

互いの呼び名が“アミィ” “カイマール様”に変化している。

「なんだ、オズ! 悋気たぁ若いねえ! こんな年寄りに嫉妬してどうするよ」

カイマールはからかって笑う。

「おじさんは年寄りじゃないです!」

大叔父を尊敬しているオズワルドはまずそこを否定する。

「大型魔獣を単騎で倒せる者を年寄り扱いしません」

「それは有難いんだが最近は討伐後に腰も足も痛くてよう。結構キツイんだわ」

「だから! 一人で突っ走るなと言ってるんです! 部下と連携してください!」

「……一人の方が勝手がいいんだよ」

「だ・か・ら! 若手を育ててくださいといつも言っているんです! それが指導者の仕事ですよ、わかってますか!?」

若きサイデルフィア領主は容赦ない。カイマールが渋々「……はい」と答えたのでアミィは目を丸くする。

案外オズワルトは辺境伯として、領地を上手く纏めているようだ。

「で、二人して何をこそこそやってるんですか」

帰宅後、半ばカイマール専用となっている客間にアミィがいると聞いたオズワルドは、そちらに向かう。

二人は客間のローテーブルに地図を広げ、何やら話し込んでいた。

「アミィがサイデルフィア領を知りたいって言うから、まず俺の管轄の湿原森あたりを説明してたんだ」

「さすがに国境やオズ様の直轄地の地図は軍事的に大事ですから、カイマール様にお願いはしません。安心してください」

辺境軍保有の地図は国境砦の、大将である自分の執務室に保管している。この城の自分の執務室の金庫の中にもある。地図の価値をアミィが理解しているのもちょっと驚きだ。

そして国に提出している地図みたいな農地、砦、湿原森、山川、橋、公共施設などをざっくりと記載した物ではなく、ピンポイントで湿原森の地図とはどういうつもりだろう。

「それって……魔物の分布図じゃないか」

ソロイド子爵家の地図だから、それを当主が見せるのなら別に構わないのだけれど、アミィが見たがる意味が分からない。

「ええ、王都近郊で魔物退治の経験は何度かあるのですが、こちらの魔物はどう違うのかと思いまして」

「魔物退治!?」

オズワルドは大声を出してしまった。

「君、街で商人の手伝いとかの仕事をしていたんじゃないのか!?」

「それも頼まれたら受けていましたが、最近は主に狩人として活動していました」

(いや、職業は伯爵令嬢だろ!?)

そんな突っ込みは無意味なので、オズワルドは口を閉ざす。

「オズ、アミィの弓を見せてもらえよ。使い込まれた本物だぜ」

「数少ない嫁入り道具のひとつです」

「嫁入り道具だって? 嘘だろ!?」

アミィははにかんでいるが、はにかむ要素はないとオズワルドは思う。しかしどこまでも想像の斜め上をいく婚約者だ。

(どこで弓なんか習ったんだよ……ってか狩人って……)

「後で部屋に行く。見せてくれ」

ドン引きしたが興味の方が 勝(まさ) った。

昼食後、カイマールは地図を残して帰り、オズワルドは辺境伯夫人の部屋で弓を見せてもらった。

「これが狩り用の弓なのか。兵士用より小さいな。でも丈夫そうだ」

アミィは得意分野の話だからか、にこにこしながら「結局は手入れなんですよね。それより矢の方を見てください」とチェストの中から取り出す。

「矢尻が平べったいでしょう? 出血を多くするためです。兵士用みたいに鎧を貫通するような仕様じゃないから安価です」

(いや、笑顔で説明されても……)

「出来ればこちらで魔物討伐隊に加えていただけたら嬉しいのですが」

「待て待て待て! それはカイマールおじさんの部下になるって意味だぞ!?」

「そうなりますかね。何か問題ありますか?」

「ありまくりだとも! 辺境伯夫人が魔物狩りをするなんておかしいだろ!」

「オズ様のお母様もお祖母様も戦場に立ったとお聞きしましたが」

「それは辺境伯不在時に代理としてだ! それも数度しかない! 大体それ以前の夫人たちは前線に立つ事なんてなかった! 部下の騎士団長らの進言に許可を与えていただけだ!」

「私は戦えるのでそれを活かしてもらいたいのです。湿原森の巨大魔猪も倒せそうな気がします」

「気がするだけかよ!」

短時間で突っ込みが冴えてきた。

凛々しい顔で訴えるアミィの本心だと分かるオズワルドは、眉間に皺を寄せて額を押さえた。

「まずは王都での結婚式の事を考えてくれ。その大行事を終えてから話し合おう」

オズワルドは取り敢えず問題を先送りにした。