軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ㊵

確か、ワイスさんだっけ?

王様がそう呼んでたよね。

バルトロイさんが魔法術士団団長を辞めて特務魔法術師になっちゃったから、今はワイスさんが魔法術士団団長になったんだっけ。

「生活術式と呼ばれる基礎術式を使える者は確かに多い。だが、自衛行為が可能な術式を行使出来る―――、所謂、魔法術師と呼べる者は、そう多くないのだぞ」

「・・・そうなんですか?」

自衛行為って戦闘行為って意味だよね?

これは言葉遊びじゃなく考え方だろうなあ。

お母様も「侵略戦争は許さない」って言ってたから、たぶん、バルトロイさんもお母様と思想が同じなんだな。

バルトロイさんも「防衛はするけど攻め込むのはダメ」って言うんだろう。

恐らくだけど、学者肌のワイスさんも同じように「ダメ」って言いそう。

ただ、どこかの島国を蝕んでいたような無知や無関心や無責任で“専守防衛”なんて現実離れした空想を信じているわけでもなく、お金儲けの政治活動で安っぽい理想論を振り回しているわけでもないのは分かる。

川ひとつを挟んだ目の前に侵略者が居て自身や家族の命が危険に晒されているのに、”ご高尚な美徳”でお気持ち表明の寝言を言うような人たちじゃないからね。

その思想の根源が何かは分からないけど、バルトロイさんもワイスさんもお母様とは違うベクトルで同じことを言う。

これって何だろうね?

国際政治的な観点で「侵略戦争はしない」と言っているのではなく、心情的なものが有るように感じる。

「・・・ふむ・・・?」

お母様は常に戦争に備えているウォーレス領で生まれ育った人だから戦争に否定的な考えは持っていないし、東部地域の中心的存在である公爵家次期当主のバルトロイさんも防衛戦争には否定的ではない。

ワイスさんのことは全く知らないに等しいけど、似たり寄ったりな気がする。

てことは、「自分からは攻め込みに行かない」というのが魔法術師の一般的な思想なのだろう。

あれ? 思想?

私が魔法を習いたいって言ったときに、お母様は嬉しそうだったよね。

バルトロイさんはルナリアと私に「期待してる」とプレッシャーを掛けてきたよね?

ワイスさんにも「期待してる」って言われなかったっけ。

頭の中で脱線している私にバルトロイさんが真っ直ぐな目を向けてくる。

「王国全土で厳密な調査が行われたことはないが、各領の領軍に所属している魔法術師の数がどの程度か聞いたことは有るか?」

「・・・いいえ」

「わたしも聞いたことないわね」

私と一緒にルナリアも首を振る。

領軍に所属ってことは戦闘行為が可能な「魔法術師と呼べるレベルの魔法を使える人数」って意味かな?

こっちの世界に来てから、統計データ的なものって見たことが無いんだよね。

同じ国内でも派閥同士で敵対関係に有ったわけだから、戦略的な情報保全で統計を取っていないんだと考えていたけど、統計データが有るんだ?

「王宮で把握している総数は1千人に満たないのだ。その内、200人ほどが王都の魔法術士団に所属し、各領では最も報告者数が多いウォーレス領でも200人を少し超える程度しか居なかった」

「・・・王都とウォーレス領だけで半数弱?」

思ったよりも遙かに少ない数字が出て来て驚いた。

驚いたけど、「ピーシス領は特に輩出する魔法術師の数が飛び抜けて多い」って話は聞いたことが有ったよね。

「ウォーレス領が魔法術師を増やしている現状ならば、王都とウォーレス領だけで半数を超えてくるのだろうな。王国全体の現状としては数人の魔法術師を抱えているだけの領地も多いのだよ」

「・・・そんなに少ないんだ」

大陸有数の強国と言われているリテルダニア王国でさえ、魔法術師の実情はそんなものだったんだ?

私たちの周りに魔法術師が多かっただけだと言われても、私たちに真偽は分からないし反論のしようがない。

反論したいわけじゃないけど、どう飲み込めば良いものか判断が付かない。

でも、そこまで人数が少ないとなれば、魔法術師という存在の価値を見直す必要が有るのかも。

「普通の領地では魔法術師は切り札であり、領主の参謀を務め得る知恵袋でもある。ウォーレス領のように最前線で剣を片手に斬り込んで行ったりはしないものだからな」

「「なるほど・・・」」

ルナリアと私の声が重なる。

そりゃそうだ。バルトロイさんはお母様やマルキオお爺様を指して言ったんだろうけど、よくよく考えてみれば、私の知る魔法術師って知識層が多いんだよね。

ピーシーズだってウォーレス血統の末裔で、ピーシス家の傍系出身者ばかりだし。

古くから続く家系には、その家系が口伝なり文献なり、家訓の形で伝えてきた知識の蓄積が有るものだ。

変わり種って意味では私や不遇な環境で育ったオーリアちゃんだけど、私は日本で学んだ知識を持ってるから存在自体がイレギュラーだろう。

オーリアちゃんの場合は戦死したお父さんが領軍の兵士だったと聞いているし、育ての親になった孤児院の院長を務めているエルザさんはシェリアお婆様の元側近で、魔法に造詣が有ったはず。

みんな学べる環境に有ったわけだ。

私の理解が正しいのかは分からないけど、バルトロイさんは魔法術師が稀少な人材だと言いたいんだろうね。

人間がオギャアと泣いて戦場に出られるくらい育つまで、当然のことながら長い年月が必要になる。

知識と想像力と体内保有魔力が必要な魔法術師ともなれば、なおさら成長するまでの年月が掛かる。

しかも体内保有魔力量は生来の資質で決まると考えられていた様子だし。

そうそう簡単に稀少な人材を死なせるわけには行かない、という意味なのか、それとも、魔法術師が戦場で人間兵器扱いをされるにしても工業製品的な兵器を消費するような使い捨ては出来ない、という意味―――、いや、たぶん、そうじゃないな。

私の想像を含めてだけど、みんながみんな同じように「攻め込むのはダメ」という思想を持っているのは、「魔法術師を兵器的な消耗品にしたくない」って人間的な心情が根底に有るんじゃないのかな?

だって、そういった思想を持つ人たちの全員が、ご自身が魔法術師だもの。

もしかすると、強大な力を持つ魔法術師が驕り高ぶって「ヒャッハー! 侵略だー!」とか暴走しないように、って戒めかも知れないけど。