作品タイトル不明
初めての出征 ⑱
「・・・・・」
「ちょっとフィオレ?」
引き下がっていく男性たちの後ろ姿を見送っていると、スススと隣に寄ってきたルナリアに肘でツンツンと突っ突かれる。
「・・・なに?」
「これ、どうするの?」
「・・・これ? ―――、うっ!!」
ルナリアに目線で示された先には、私たちの方に向かって―――、いや。私に向かって祈りの姿勢を取っている人々の姿が有った。
誤魔化そうとしても誤魔化しきれないだろうし、認めたくなくても認めざるを得ない。
さっきまで“獰猛くん”に向かって祈っていた群衆が私に向かって祈ってるんだよ!
なに祈ってんの!?
「・・・くっ・・・! か、帰るよ!」
「何かひと言言ってあげた方が良いんじゃないの?」
ひと言!? 私が言うの!?
じゃあ、「解散」で! と、言えれば良いんだけど、私に向けられている群衆の目は狂信的とまでは行かなくても、かなりの熱を帯びたものだ。
迂闊なことは言えない。というか、この狂信的なものを感じさせる熱が失望や絶望から反発に変わったときが恐ろしい!
私は 煽動者(アジテーター) でも宗教指導者でもないんだから!
拙い拙い拙い! なんでこうなった!?
私を崇拝対象にするのなんて止めてよ!?
ひと言言ってやれ、なんて言われたら、本当に私からのひと言を待たれている気がしてくる!
まさか、本当に待ってるわけじゃないよね!?
「・・・うぐぐっ・・・!」
「ほらほら」
ニマニマしたルナリアがツンツンしてくる。
からかわれてるのは分かってるけど、ほんとコレ、どうすれば良いの!?
いよいよ、人々の目に浮かんでいるのが期待感のように思えてきた!
誰かに期待を 擦(なす) り付けられれば良いけど、擦り付けられそうな人が思い浮かばない!
きっと擦り付けられた人も迷惑するじゃん!
テンパっている私の頭は良案を思い付いてくれない!
頑張れ! 私の脳細胞! 何か思い付け!
あっ。人? 人じゃなければ擦り付けられるんじゃ!?
ヨシ! これだ!
「・・・み、みんな、精霊様への感謝を忘れずに、毎日を大切に生きるんだよ!」
みんなに聞こえるように叫んだら、ドヨッと群衆が 響(どよ) めいた。
全部、精霊様のお陰! 精霊様、バンザイ!
祈るなら精霊様をどうぞ! ていうか、精霊様を信仰しろ!
私に向かって祈るんじゃない!
全力で目に力を籠めて、「精霊様~! 精霊様~!」と念力を放つ。
行け! 私の念力!
みんなの脳を精霊信仰で塗り潰してしまえ!
「精霊様・・・」
「精霊様」
あちこちから呟き声が上がって、上手く行ったかと安心したのも一瞬のことで、心の中で精霊と連呼しすぎたのか、私の胸の中でヤツらがモゾッと蠢いた。
拙い! やり過ぎた!?
ヤツらとは、もちろん「推定・精霊様」たちだ。
「呼んだ?」って感じ? 呼んでないから!
「・・・ちょっ、今は大人しくしてて・・・!」
自分の平たい胸を見下ろして声を潜めるけど、モゾモゾは治まらない。
治まるどころかモゾモゾはどんどん大きくなって私の中に収まらなくなっていく。
唐突にブワッと強い風が吹いた。
「きゃっ!」
「・・・うっぷ・・・!」
髪がはためくほどの風が通り過ぎてルナリアも私も目を瞑った。
ほんの数秒。
一陣の風が吹き抜けて瞼を開けば、跪いた人々が呆然と宙を見上げていた。
「・・・うわ。ヤッバ・・・」
風に舞い上げられた枯れ葉や塵と共に正体不明の小さな淡い光の粒が舞っている。
何てことしてくれるんだお前らは・・・。
ディディエさんたちやエターナさんが煽動したときに吹き込みまくった光景が、衆人環視のド真ん中で再現されてしまっていた。
私に住み着いている精霊を罵ったところで、起こってしまったことは無かったことには出来ない。
ヤバいヤバいヤバい!
このままじゃ宗教指導者に祭り上げられちゃう!
ど、どうすれば良い!?
どうするもこうするもないじゃん! こんなの私の手には負えない!
ええい! こんなところに居られるか!
「・・・て、撤収―――ッ!!」
「えっ!?」
「「「「「あ。はっ!」」」」」
みんな驚いてる場合じゃないよ!
私一人でも逃亡するつもりで鞍へよじ登ると、ルナリアもピーシーズも慌てて馬に跨がった。
転進? 戦略的撤退? ただの敗退だよ!
負けを認めて逃げ帰って何が悪い!
こんなことなら、ルナリアが言い出した「ひと言」や期待の目なんてプレッシャーを見なかったことにした方が良かったじゃん!
引き際を間違えた私が悪いんだけどさあ!
こりゃあ無理だ! “獰猛くん”のランドマーク化は避けられそうにない!
もう、どうにかしてお母様たちを説き伏せて“獰猛くん”を新領地へ引っ越しさせるしか、私の心の平穏を維持する手段がない!