軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ⑮

「ご無事の到着に安堵いたしましたわ」

「なに。これでも王国有数の魔法術師では有るのだから、心配には及ばん」

ニッコリと微笑むアンリカさんに強者の余裕を見せてバルトロイさんが答える。

ところが、その余裕は自らが選んだ婚約者によって薄氷のごときものだと証明されることになる。

「あら。愛おしい人の身を案じるのは当然のことでしてよ?」

「む。そ、そうか。そういうものなのだな」

言葉に険や棘が有るわけでもなく、諭すような口振りでバルトロイさんの余裕に小さな動揺を生じさせたアンリカさんは、畳み掛けるように揺さぶりを掛けに行く。

甲冑やメイド服に較べて体のラインが出やすい乗馬服姿のアンリカさんは、大きな胸を強調するように腕を組み、困ったように首を傾げて頬に手を当ててみせる。

「それで、いつ到着されるのかと居ても立っても居られず町へ出てみれば、小さな女の子にご執心なのですから・・・」

「い、いや! 私は見慣れない術式の痕跡が気になっただけで、決して子供に懸想したわけではないぞ!?」

ロリコン疑惑という常識人のモラルに刺さる揺さぶりに、嵌められたバルトロイさんが動揺も露わに誤解を解きに掛かる。

アンリカさんといえば、強くて賢くて美人な女性が多いとされるウォーレス領でも非常に有名な目立つ人だからね。

そんな高嶺の花を射止めたと各方面から見られているところへ、そのアンリカさん本人からロリコン疑惑を向けられたとなれば、バルトロイさんだって慌てるだろう。

そもそも誤解なんてしていないアンリカさんは、わざとらしい胡乱な目をバルトロイさんに向けてみせる。

「本当ですか~? 私はてっきりお義父様も交えての話し合いが必要になるのかと」

「本当だとも! 精霊に誓って!」

強い! と確信した。

いや。アンリカさんが強い人だなんてことは元から知ってるけどね。

バルトロイさんは力強く断言したけど、言い訳がましくなっている時点でアンリカさんの勝ちじゃないかな。

この瞬間、この2人の力関係が決定した気がする。

「そうですか? お義父様たちが首を長くしてお待ちですから領主館へ参りましょう」

「う、うむ! 私のような若輩者がハインズ卿をお待たせするのは心苦しいからな!」

慰霊碑や“獰猛くん”どころでは無くなったバルトロイさんがアンリカさんに誘われて北門へ向かう意志を表明した。

そこでようやく外套に身を包んだ人たちが遠巻きにしていたことに気付く。

手綱を引いて馬を連れた人たちはバルトロイさんの部下らしく、外套の下に剣を佩いていることと体躯の分厚さから騎士様であろうことが察せられた。

今回は公務でウォーレス領まで来ているわけじゃないから、あれはクローゼリス領の騎士様たちだろうね。

「では、私がご案内いたしますわ」

「よろしく頼む!」

アンリカさんらしい明るく華やかな笑みを向けられたバルトロイさんの意識から、何やら知っていそうな小娘のことや変な巨像のことは綺麗に抜け落ちた模様。

まるで猛獣使いだよね。

女としての実力の違いを見せつけられて、ルナリアと2人で、スッゲェ~、と感心していると、アンリカさんの笑みは私たちにも向けられた。

「お二人も、お姉様が帰りをお待ちですよ」

「「あっ、はい」」

姉弟姉妹の長女で有るアンリカさんが「お姉様」と呼ぶ相手なんて、お母様しかいない。

私たちの返事を確認したアンリカさんはバルトロイさんたちを伴って引き揚げていく。

わざわざ「お母様が待ってる」と言い残すってことは、領主館で何か有った、というわけでなく、そろそろ仕事が終わるだろうとお母様に頼まれて私たちを迎えに来てくれたのかな。

こうやって「言い回しで悟れ」というのが社交教育らしいので、もしかすると、セリーナお婆様がアンリカさんを迎えに寄越したのかも。

たぶんお母様だろうけどね。

「叔母様が来てくれて助かったわね」

「・・・ほんと、どう答えれば良いのかと冷や汗をかいたよ」

バルトロイさんが聞きたがるだろう魔法の情報をアンリカさんの手札に使うと聞いてしまっている以上、私が喋ることでアンリカさんの手札を減らしたくないからね。

そのアンリカさんがバルトロイさんを回収して行ったのだから、上手くコントロールしてくれるんだろう。

だったら私は、迂闊にバルトロイさんと二人きりだとか、逃げられない状況を避ければ良いのかな。

改めて安堵の溜息を落としていたら、ツッコミ要員と化したルナリアに目線で示された。

「まあ、この騒ぎについては何も解決していないんだけどね」

「・・・そう言えばそうだった」

ルナリアの視線の先を追ってみれば、バルトロイさんとのやり取りは“獰猛くん”を拝んでいた領民たちの視線を集めていたみたいだね。

ふむ・・・。

どうせ“獰猛くん”は近々壊すのだし、人が集まるのも今だけだ。

状況は確認したし、この場に居ても意味は無さそうだし、私たちも領主館へ帰るかな。

「・・・撤収しよっか」

「そうね! みんな帰るわよ!」

「「「「「はっ!」」」」」

ルナリアに声を掛ければ、警戒中だったピーシーズがルナリアの号令に応える。

バルトロイさんの件で気分的に疲れていたのか、これでようやく今日の仕事も終わりだと感じてしまって私がホッと息を吐いたときだった。

「フィオレ様!」

「・・・えっ?」

不意に名前を呼ばれて声がした方へと顔を振り向ければ、エクラーダ系の人たちが近付いてきた。

馬に跨がり掛けていたピーシーズが慌てて戻ってくる。