軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ⑩

その理由が「魔獣を見たいから」という個人的な趣味全開だったとしても、求められる立場に添う結果が出ているなら許容されるのがウォーレス領だからね。

とはいえ、無茶をすると周りが心配するんだよ。

いつも無茶を咎められまくっている私が言えたものじゃないけど、アスクレーくんも私と同じで、前例の無い“道なき道”を突っ走り始めたんじゃないかと心配になってくる。

「・・・お兄様。今日はどのぐらいの数を飲んだのですか?」

「90頭ぐらいかな。バンダースナッチで気絶したみたいだけど」

記憶を呼び起こすように宙へ視線を飛ばしたアスクレーくんは、サラッととんでもないことを口にした。

「・・・90!? すごいじゃないですか!!」

「そ、そうかな」

褒められてドヤるのではなく、アスクレーくんは照れくさそうに頬を染める。

何だ! このショタムーブ!?

いや、本当に凄いよ!

初日での最多記録じゃない!?

しかも、周りの人は成人間際の年長者か成人済みの大人ばかりなのに、大人顔負けの粘り腰を見せたのか!

そりゃあ、エターナさんがアスクレーくんの頑張りを褒めるわけだ!

私たちのやり取りにドネルクさんが首を傾げる。

「飲む、というのは?」

「・・・魔獣の血です」

簡潔に答えると、それだけでドネルクさんは本質に辿り着いた。

「ああ。祖母上に言っていた健康になるという例のヤツか。本当に効果があるんだな」

「・・・カレリーヌ様には“健康”と言いましたが、正確には体内保有魔力量が増えるんです。まだ何かを解明できたわけではありませんが、体内保有魔力量が増えると結果的に体が強くなるんじゃないかと」

現にセリーナお婆様の腰痛が完治したんだから、老齢で健康に不安を感じているらしいカレリーヌ様にも効果は有るはず。

そんな意味を込めた私の見解に、目を細めたドネルクさんが大きく頷く。

「改めて祖母上に奨めておこう」

「・・・お願いします」

長く会えていない家族の顔を見られればセリーナお婆様も喜んでくれるはず。

直孫のドネルクさんにカレリーヌ様への営業活動を業務委託していると、お母様の目が私へと向いた。

「アスクレーの護衛の方はどうなっている?」

護衛と明言するってことは、エウリさんたちエクラーダ組のことかな?

この場合、まだ任務に就いていないピーシス領の新人さんたちのことじゃないよね。

アスクレーくんが本気で森の奥へ付いてくるつもりなら、引き籠もりを卒業させたい私もアスクレーくんを手助けしてあげるべきだろう。

この場で問われているのは護衛の任務に就いているエウリさんたちなのだから、不安を払拭できればお母様は容認してくれる可能性が高い。

でも、この場合、エウリさんたちよりも高い信頼を勝ち取っているらしい人の名前を出汁に使わせて貰う方が、勝率が高くなるんじゃないかな。

「・・・今日は揃って魔力酔いを起こしたそうですが、エターナさんは遠征に間に合わせるつもりのようです」

「アイツも面白いヤツだな」

エターナさんが口にした言葉を伝えれば、お母様がニヤリと口角を引き上げる。

お母様の表情にマルキオお爺様が訝しげな目を向ける。

「許可するつもりか?」

「構わんだろう。ガルダさえ対処できれば、ナーガ川周辺にそこまで強い魔獣は出ない」

私の思惑通り味方になってくれたお母様の後を引き継いで、お父様が肩を竦める。

「数が出る”弱い魔獣”は居るがな」

「弱い魔獣というと?」

ドネルクさんの問いにお父様が具体例を挙げる。

「地上だと主にはラクネだな。バジリスクも出るし、まとめて始末しようとすればガルダを呼び寄せる結果になる」

「奇襲性の高い魔獣ばかりか。そいつは厄介そうだ」

深刻そうに眉根を寄せるドネルクさんとは対照的に、お母様がヒラヒラと手首を振る。

「どこから来るのが分かっていれば、大した脅威にはならんぞ」

「それが分からんから脅威―――、分かるのか?」

反論し掛けたドネルクさんが、発言の途中で首を傾げた。

それってアクティブソナーのことだよね?

驚くドネルクさんにお母様が悪ガキのような笑みを向ける。

「面白い術式だぞ? 魔力を捉えて身を隠している者を知覚できる」

「王都で起こったような事件を阻止できると?」

ドネルクさんが返した反応に私の首が傾ぐ。

王都の? 事件って、アゼリアさんを負傷させたバルトロイさん暗殺未遂事件のこと?

お母様が明確に頷く。

「可能だろうな。魔法道具も魔石の魔力を使用している以上、間違いなく探知できる」

「・・・あっ。なるほど」

理屈上、お母様の見解は正しい。

お母様もドネルクさんも凄いな。

私は、そこまで思い至らなかったよ。

これが実務に携わってきた人たちの肌感覚か。

手元にハサミが有ったところで、私のようにハサミの使い方が分かっていなければ思い至らない。

お母様もドネルクさんも悪事を阻止して取り締まる側だった人たちだものね。

肌感覚として問題への対処に何が有効かを知っているからこそ、有効な使い方に思い至るんだな。