軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ㉚

「・・・思ってたよりも長かったなあ」

「あの尻尾、城壁を跨げるの?」

レティアの町の城壁は高さ15メートル。

普通に考えて、手足を多少伸ばして城壁を超えたところで100メートルも有る尻尾は城壁に干渉する。

身長50メートルの本体に対して尻尾の長さが100メートル。

付け根側から先端側に向かって細くなって行っているとはいえ、尻尾だけでも100トンぐらいの重量が有るんじゃないの?

それを城壁に干渉しないように持ち上げられる?

釣り竿の先っぽに鉄アレイを付けて持ち上げようとすれば、とんでもない荷重が掛かるものだ。

下手をすれば釣り竿の方がポッキリと折れる。

しかも、折れた竿は城壁の上に落ちて城壁を押し潰すだろう。

「・・・やっぱ無理かなあ」

「城壁を壊したら叱られるわよ?」

だよねぇ。半日は正座させられる未来しか見えない。

イメージを具現化する魔法というものの性質上、「無理かな?」と思ってしまうと無理になる気がするし。

それでも城壁は超えなきゃいけない。

だったら、どうするか。

「・・・ええい。吸収しちゃえ」

バランス維持に意識を集中しつつ、尻尾を“獰猛くん”本体に吸い込んでいく。

釣り糸がリールに巻き取られるようにズルズルと尻尾が縮んでいく。

吸収した尻尾分の体積はどこへ行くのか? 両足だよ。

尻尾が縮むほどにグググと両足が伸びて“獰猛くん”の背丈を高くする。

「な、何!?」

「・・・ヘーキヘーキ。成長期、成長期」

ルナリアが動揺したを見せるけど、目を瞑っていればすぐに終わるからね。

寸胴短足の両足が伸びれば人体の形状に近くなって、ダイダラ何とかみたいなフォルムの巨人になる。

ボッチとか言うな! 私はボッチを卒業したんだよ!

エレベーターで上昇するように“獰猛くん”の背丈が高くなるほど、私たちの目線も急激に高くなる。

今の股下は30メートルぐらい有るんじゃないかな。

足の長さが2倍以上になったなら、身長は80メートル近いんじゃないだろうか。

特撮放射能大怪獣だって成長して高身長化するんだから、“獰猛くん”だって成長期を迎えてもおかしくない。

転けてひっくり返る前に右足を大きく上げて城壁を跨ぐ。

グラリと大きく揺れたことで私の首っ玉に抱き付いているルナリアの腕に力が入る。

ズシン! と、右足が城壁外の原野を踏んだ。

「こ、超えたわ!」

「・・・超えたねえ」

ずっと目を開けてたんだ? 偉い偉い。

でも、まだ右足だけで城壁を跨いだ状態だからね?

眼下を見下ろせば、城壁の歩廊に兵士さんたちが集まっていて、呆気に取られた顔で股下から“獰猛くん”を見上げている。

ちょっ! 乙女の股下を見上げないでくれるかな!

日本だったら事案で防犯ブザーの紐を引っ張られてるよ!?

これまでも股下から見上げられていたけど、地上の50メートルの距離で見上げられるのと、城壁の上から見上げられるのとでは距離感が違う。

見上げている人たちの表情がハッキリと見える距離なだけに、妙に恥ずかしくなってくる。

羞恥心を刺激されるので、サッサと渡ってしまえ。

右足側に重心を乗せて左足を持ち上げる。

バラバラと降ってくる土砂を避けようと城壁の上で兵士さんたちが逃げ惑っている。

ほらぁ。乙女の股下を覘きに近付いてくるから土砂の雨に降られるんだよ。

ズシン! と、左足も城壁外の原野を踏んで、ホッと息を吐く。

大難関、突破!

多少は散らかしちゃったけど、城壁も壊さずに済んだ!

ホッとしたのも束の間、二足歩行に戻った巨人はさらに高身長になって制御の難易度が暴騰する。

フワ~っと宙を滑るような加速度を感じ取ったルナリアが血相を変えた。

「倒れる倒れる倒れる!!」

「・・・ヤバイヤバイヤバイ!!」

背中側へと倒れようとする位置エネルギーを、2歩3歩と足を後退させることで踏み留まらせる。

コンニャク板を僅かに前傾させると、今度は前方へ倒れて行こうとする。

そうはさせないぞ!

「・・・あ、足を短く戻して、と・・・ヨシ!!」

高速エレベーターで下降するような軽い玉ヒュンを股間に感じ取りながら、イメージを城壁を超える前の状態へと戻す。

アレって下降の位置エネルギー減少でお腹の中に詰まっている内臓が浮き上がるのを、背筋にゾクゾク来るような悪寒として感じるんだっけ?

待て待て! 今は玉ヒュンを科学している場合じゃない!

急激に短足へ戻ると同時に余った体積はお尻に戻して突出させる。

ドシン! と尻尾が着地すると同時にブレーキが掛かって、前進速度が落ちるのと反比例して安定度が増す。

「「ふぅ・・・」」

ルナリアと2人で安堵の溜息を吐きつつ前方を見据える。

慰霊碑前は目と鼻の先だ。

滅多に来ることのない東面の城壁に沿って北上すると、ご飯をチンするよりも早く慰霊碑前に到着した。

万一、倒壊したときの危険性に配慮すると、街道に“獰猛くん”は近付けられない。

そうすると、慰霊碑と城壁の間しか置いておくスペースがなくなるんだけど、ちょっと城壁に近すぎるよね。

近い内に再び移動させる必要性を感じながら、どう待機させるかを考える。

「これ、そのまま置いておくと、また倒れない?」

「・・・じゃあ、座らせるか」

バランスを崩してひっくり返らないように気を付けながら“獰猛くん”を正座させる。

尻尾が長いままだと邪魔だから両足に体積を移動させれば、長くなった足での正座は安定度が増した。

西方諸国を威嚇するように西を向いて正座した“獰猛くん”は、相変わらず「ガオー!」と両腕を振り上げたままで、聖地に向かって道端で礼拝してる一神教徒みたいだけど、まあ良っか。

上体を二つ折りにしてお辞儀しなければ路上礼拝にはならないだろう。