軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑩

ルナリアの身体を受け止めて支えた私の平衡感覚も狂って、頭がぐるぐるしている。

まだ足元がふらふらしているルナリアの後ろに周って、今度はルナリアの背中を支える。

「・・・いい? 今、倒れようとする土のルナリアを風の私が押し戻してるよね」

「うん」

2人でしゃがみ込んで、私は指先で地面に簡単な絵を描く。

2人の棒人間が手を繋いでいて、それぞれの頭上に外側へ向かって矢印マーク。

「・・・最初のは、遠心力と遠心力で引っ張り合って、釣り合ってたんだけどね」

「ふむふむ」

片方の棒人間を消して、残った棒人間の背中を、新たな棒人間が押している絵。

新たな棒人間の頭上に、残った矢印と向かい合う方向の矢印マークを新たに描く。

「・・・今度のカッターでは、研磨剤の土が遠心力で外側へ飛んで行こうとするから、さっき私がルナリアの背中を支えたように、内側へ押し込む力で遠心力と釣り合わせて欲しいんだよ」

「風を内側に押し込むのね?」

「・・・うん」

棒人間たちを消して、今度は、ぐるぐるの渦巻きを描く。

「・・・カッターの風って、こうやってぐるぐる回っているときに、風を内側へ向けて固めていない?」

「意識していなかったけれど、やってるかも」

「・・・それ。今までも、私たちは、やってはいたんだよ。それを、もっと強く意識して」

「そうしないと、上手く行かないのね?」

「・・・そう。土が水を含んでいて水の重さの分も遠心力が強くなるから、内側へ押し込む力も強くしないと失敗する」

「分かったわ。意識してみる」

「・・・じゃあ、やってみようか」

「うん!」

立ち上がったルナリアがカッターを発動したのを確認して、私も宙に水の球を生み出す。

私の水のイメージは蒸留器の気化アルコール成分を液体に還元するように、周囲の空間に漂う水蒸気の水粒子を結合させて液体に戻す感じ。

何気にルナリアって器用なんだよね。

私のお手本を見た後だからかバケツ型にカッターを変形させるのもスムーズだし、完全に無詠唱で魔法を発動することにも馴染んでる。

「・・・入れるよ」

「うん」

風に弾かれてしまわないように注意しながら、水道水のイメージで水球の底を細長く落としてルナリアのカッターに水を注ぐ。

水が弾かれて私たちがずぶ濡れになることもなく、スッと白濁色が茶色に変わり始めたので、安心して残りの水を注ぎきった。

「確かに重いかも」

「・・・風の速度を上げると、もっと重くなるから、頑張って抑え込んで」

「大丈夫そう。見てて」

「・・・うん」

万が一にも魔法が失敗したときには危険な範囲からルナリアを引きずり出すつもりで、私は数歩だけ後ろへ下がってルナリアの背後に控える。

ついさっき、私も失敗したばかりだからね。

どんなに小さな変化も予兆も見逃さないように、全神経を集中する。

そうしている内にも、ルナリアは魔石から押し出した魔力をどんどん注ぎ込み、風を加速していく。

いつの間にか、オーディエンスが静まっている。

「うう・・・、やっぱり重い」

これ以上は辛いと判断したのか、ルナリアが甲冑に向けて腕を振るった。

シュウウウウウウウ! と、擦過音が上がり、カッターの刃が甲冑に食い込み始める。

「うぐううううう・・・っ」

負担が大きいのか、苦しそうにルナリアが唸る。

風の速度が遅めなのか、ちょっと斬れる速度が遅いね。

「・・・ちゃんと斬れてるよ。がんばれ」

「うん・・・! がんばる・・・っ!」

爆発しないだろうかと固唾を飲んでいたオーディエンスがザワつき始めた。

「うおおおお! ルナリア! 根性を見せろおおお!」

我慢できなくなったらしいハインズ様が雄叫びを上げ、他のオーディエンスからも声援が飛び始める。

「んむううううううっ!! ―――っはあ!」

シュカアアアン! と、刃が甲冑を通り抜けて手応えが軽くなった瞬間、やり遂げたと安心したルナリアが気を抜いた。

カッターを形作っていた魔力が拡散する気配―――、ゾクリと背筋に寒気を感じた。

「・・・危ない!」

バッとカッターが崩壊する寸前、咄嗟にルナリアのドレスの背中を掴んで、私は思い切り後ろへ倒れ込む。

一瞬、遅れて、オーディエンスからも悲鳴のような雄叫びが上がっている。

縺れ合って地面を転がった私たちの上へ、ぱらぱらと細かな土くれが降り注いだ。

魔力の供給を断たれて魔法の行使が取り消されても、風に乗って高速旋回する研磨剤に与えられた運動エネルギーが消失するわけではない。

遠心力を抑え込んでいた魔力が突然失われれば、解き放たれた運動エネルギーが慣性で一気に拡散するのは道理だったね。

失敗したなあ・・・。

甲冑を切断することばかり教えて、他の面に見落としが有ったと言わざるを得ない。

物理現象の基礎の考え方を、もっと教えて行かないと、不慮の事故が起こりかねないと反省する。

「あ痛たたた」

「・・・無事?」

「うん。大丈夫だと思うわ」

きっと、お師様が魔法で守ってくれていたと思うしね。

「「「「「うおおおおおお!! ルナリア様、万歳―――っ!!」」」」」

むくりと体を起こした私たちに、土くれに代わって、再び、悲鳴から歓声へと変わった図太い声が、あちこちから降り注ぐ。

反省点は反省点。でも、今は。

「・・・おめでとう。やりきったね」

「成功・・・したのよね?」

「・・・そうみたいだよ」

もう、訓練場を取り囲む騎士様たちや兵士さんたちは、お嬢様スゲー! と、お祭り騒ぎになっている。

みんなのアイドル、ルナリアちゃん、 生還(サバイブ) 。そんな感じ?

「ルナリアあああ! 無事かあああ!」

重たい地響きを立てて、ハインズ様が突進してくる。

すっくと立ち上がったルナリアは、ぺったんこの胸を張り、両手を腰に当てて反り返る。

髪はくちゃくちゃになっているけれど、自己申告通り、どこにもケガをした様子は無い。

「ええ! わたしは無事よ、お爺様!」

「よくやったあああああああ!! あっ」

「ふぇっ!? ぎゃあああああああ!!」

私も立ち上がるのに目を離していたんだれけど、ハインズ様の、「あっ」という間の抜けた声に目を向けると、両手を高く挙げたハインズ様が頭上を見上げていて、その5メートルぐらい上空を、恐怖で凍り付いたルナリアが目を見開いて大の字で飛んでいた。

上昇していくルナリアを見上げるみんなの顔も、一斉に上へと向いていく。

ああ、これ、高い高い、をしようとして、すっぽ抜けちゃったんだね。

ハインズ様は背が高くて2メートルぐらい有るから、地上7メートルぐらいかなあ。

命綱なしで上空7メートルの世界を飛行したルナリアは、その後、無事に地上へと 生還(タッチダウン) し、青筋を立てて怒るハロルド様の前で、ハインズ様が巨体を縮こまらせて叱られていた。

片や、べそを掻くルナリアの頭をぐりぐりと撫でながらお師様は大爆笑していた。