軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ⑰

あの巨大スライムは、畑に埋めてあるサイズの魔石を怖れていないのだろうね。

そのことについては、結果論として、ほぼほぼ答えが出ていると言って良い。

何が原因でどんな理屈なのかは分からないけど、今までの常識が通用していないのは確かだ。

推論から大雑把に結論しようとした私よりも、思案顔のイディアさんは慎重に言葉を選ぼうとしているようだ。

「分かりません。あくまで可能性ですが、スライムも魔獣ですから個体の大きさが強さと比例すると考えるのが自然でしょう」

フムフム。ずっと“魔の森”の畔で暮らしてきたイディアさんもそう考えたか。

元が”弱い魔獣”だとしても、個体の大きさが他の魔獣を凌駕したなら、それはもう「弱い魔獣」とは言えなくなるのだろう。

「・・・魔石が採れた魔獣よりも強い個体はスライムでも魔石を怖れない、ってことで良いかな?」

「私はそう考えます」

念のため、質問の形で私の考えを伝えれば、イディアさんはハッキリと頷いた。

私たちの意見が一致を見たところへ農家さんが困惑に顔を曇らせる。

「儂らは何十年も農家をしとりますが、こんなことは初めてです」

「・・・普段と何か変わったことは?」

そう言えば、農家さんたちに状況を確認するのを忘れてた。

農家さんたちの顔を見回せば、みんな一様に首を振る。

「いいえ。特には」

「放牧地の馬糞を回収してきたぐらいです」

あっ。

農家さんの一人が口にした言葉にハッとした。

「・・・馬糞? もしかして、馬糞を追ってきた?」

「「「「「ええっ?」」」」」

私も驚いてるけど、農家さんたちはもっと驚いているようだ。

そりゃあ、何十年間も何の問題も起きなかったことが今になって問題化するなんて、驚いて当然だろう。

偶然か、何かの巡る合わせか、たまたま今まで被害が出ていなかった可能性は有るし、出ている被害に誰も気付いて居なかった可能性も有る。

被害を発見しても原因が分からず、被害そのものが忘れ去られていた可能性だって有る。

でも、他に心当たりが無いのなら、先ずはそこから疑ってみるべきだ。

「・・・どのぐらい回収してきたの?」

「荷馬車1台に一杯です」

困惑から抜け出せずとも農家さんの一人が答えてくれた。

他の農家さんたちも、その通りだと頷いている。

結構な量が放置されてたんだね。

思えば当たり前か。

ウォーレス領には万単位の馬が居て、常に草を食み、馬糞を生産している。

それはきっと、とんでもない量なのだろうと簡単に想像が付く。

一部は堆肥として利用されていたとしても、使い切れないからと残りを放置していたらしいことはお父様から聞いた。

今日、回収してきた馬糞だって、全体量からすればほんの一部だろう。

「馬糞でしょ? そんなのを追ってくるなんてこと有るの?」

推論を組み立てようとしている私に、嫌そうに眉を寄せたルナリアが訊いてくる。

そう思うよね?

そういうものなのかと、あんまり深く考えたことは無かったけど、ヒントは身近に有ったんだよね。

「・・・よくよく考えてみれば、おトイレの底に居るスライムも、閉じ込めているわけでも無いのにおトイレから出て来ないよね? 排泄物がスライムの好むエサだとすれば?」

「うええええっ!?」

盛大に顔を顰めたルナリアが嫌そうな声を上げる。

いつの時代からおトイレにスライムが使われているのか知らないけど、そういう習性だと看破した人が居たんだろう。

「無害なものだから」と「おトイレで魔獣を飼う」ことに慣れきって、みんながスライムの習性を忘れたんだとしたら?

有り得るだろうなあ。

常識になってしまって理由や由来が忘れ去られたものなんて、日本文化の中に限っても山ほど有った。

でも、あんなに大きく成長するものなんだ?

地球にもそんな生物が居なかったっけ?

ゾウガメ? いや。ゾウだっけ。

魚は一生成長し続ける種が結構居るんだったかな。

一般的な陸上動物は成長期が終わると成長が止まるけど、成長期が終わるよりも寿命の方が先に来る動物は確かに存在した。

スライムも同じだとすれば巨大化することは有り得るんじゃないかな。

体が大きければ食べる量も多いだろう。

あれだけの大きさだ。

今まで放牧地に放置してきた馬糞を奪われてエサが足りなくなったなら、エサの臭いを追ってきたとかエサの有る場所を探して迷い込んだとか、そんな可能性は高いんじゃないだろうか。

私の推論にイディアさんが首を振る。

「スライムも魔獣ですよ? 分かっている生態なんて、殆どありません」

だよねー。

ひとつ一つ検証していくしか無いだろう。

先ずは農家さんたちから聞き取りを進めよう。

「・・・回収してきた馬糞って、どこに有るの?」

「あちらに建てて貰った発酵小屋に―――」

指し示そうと腕を上げた農家のオジサンの声が、別の声に掻き消された。

「おおーい!! 小屋の馬糞もヤラれてる!!」

「うっそぉ・・・。ホントに馬糞が原因?」

愕然としたルナリアの声は、ほとんど私の耳には入っていなかった。