軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ⑫

「・・・自分たちの手で集めるしか無い?」

「そうなるな」

私の確認に、難しい表情でお父様が頷く。

難しい表情なのはお爺様たちもだ。

「しかし、“嘆きの迷宮”まで遠征するとなれば片道で1週間は掛かろう。カリークの動きがきな臭い現状では遠征に兵は出せんぞ」

「ナーガ川上流へ兵を出すのとはわけが違う」

ハインズお爺様の判断にマルキオお爺様も深く頷く。

「もっと近ければ良いのにね!」

「・・・うん」

ルナリアの素直な反応に同意する。

気軽に行って帰れる場所に手頃なダンジョンが有れば、ヒマさえ有れば魔石を採りに行くのにね。

採掘場もダンジョン化が疑われるけど、採掘場で採れる魔石は上質すぎて畑に埋めてしまうには勿体ない。

金貨を畑に撒くような感覚だと聞いてしまっては、さすがに私も諦めるよ。

スライム畑に必要なのは、もっと商品価値が低い大量の魔石なんだから。

ルナリアの感想にハインズお爺様はうんざりした表情を隠さない。

「近場に迷宮なんぞが有っては、それはそれで、おちおちしておられんのだがなぁ」

「ならば、ナーガ川南岸の森へ渡るか?」

片眉を器用に上げたお母様が、からかうように口角を引き上げた。

「それも手だが、カリークを刺激し兼ねんぞ」

「得られるものがクズ魔石では割に合わんな」

溜息雑じりのお父様の指摘に、お母様もアッサリと提案を引っ込める。

今の、冗談だったんだな。

実現性が高すぎて冗談に聞こえなかったけど。

魔石を採りに行って良いなら、行くのに。

アスクレーくんじゃないけど、北岸側の森とどう違うのか興味も有る。

食べられそうな魔獣が焼き鳥の他にも居るなら食べてみたいし。

「どのみち奴らは野心を隠さぬ。今さらではないか?」

「最悪の場合は、だな。もう少し知恵を絞った上で判断したい」

ご近所ダンジョンよりも南岸の森へ渡る方がマシだと考えたのか、ハインズお爺様はお母様の冗談を意外と前向きに捉えたみたいだけど、お父様は嫌そうに首を振った。

「そうだな。南岸へ渡らずに済むなら、その方が良かろう」

苦笑しつつマルキオお爺様が纏めた。

私としてはハインズお爺様に賛成かなあ。

迷惑なお隣さんは採掘場も諦めて居なさそうだし、きっとまた来るんだろう。

どうせ来るなら気にするだけ無駄じゃないだろうか。

“隣の芝は青く見える”というもので、向こうが採掘場を美味しそうだと考えるように、私の目にも川向こうの森が美味しそうに映っている。

「・・・南岸の森かぁ」

「 小鬼(ゴブリン) や 角兎(レプス) に 屍蜘蛛(ラクネ) 、 化茸(マタンゴ) も出るのよね?」

私の呟きにルナリアが知識を披瀝して、あんまり興味無さそうだったアスクレーくんがキュピーンと目を光らせた。

アスクレーくんの魔獣オタクは昨日の時点でお母様たちの耳に入っているから、アスクレーくんの反応にお母様が面白そうな目を向けている。

「 魔梟(ガルダ) もだな。ガルダの他は小物ばかりだが、とにかく数が多くて面倒くさいのが南岸の森だ」

「渡河で 雷蜻蛉(ドラゴンフライ) に馬を傷められても敵わんし、面倒なだけで渡りたくないのが本音だな」

アスクレーくんに聞かせて学ばせるようなお母様の補足に、目を細めたお父様も重ねて補足する。

これって、暴走したアスクレーくんがナーガ川へ突撃しないように釘を刺したんだろね。

それにしても、川を渡るとドラゴンフライが原因で馬を傷める?

それって脚かな?

まだ見たこと無いけど、ドラゴンフライってトンボだよね?

トンボ? ああ。

「・・・そっか。水中には幼虫が居るんだった」

アレだ。小川に居た若虫。

聞いたところによると、ナーガ川の本流にはアレの馬鹿デッカいヤツが群れをなして棲んでいるらしい。

ナーガ川の上流で渡河したカリーク軍が、100人単位でアレに食われたんだっけ?

わたしが小川でカゴ罠のエサに使っていたのは体長5センチメートルほどの幼虫だったから、本流に棲んでいる幼虫が人や馬を襲うほどにデカいのであれば、普通の昆虫のように1年で生涯を終えるタイプではなく、 蝉(セミ) のように寿命が長いタイプなのだろうね。

幼虫の形状としては“ 蜻蛉の幼虫(ヤゴ) ”みたいだったけど、ヤゴだってオニヤンマは羽化するまで数年間を水中で過ごす。

ヤゴも肉食で獰猛な捕食者だもんなあ。

馬鹿デッカいアレがヤゴと同じような生態を持っているのなら、川を渡る人や馬を襲うのも頷ける。

恐らく、水中の生態系の頂点なんじゃないかな。

「ま。代案を考えねばならんが今すぐに必要なわけでも無い」

結論を出したらしいお父様が肩を竦める。

棚上げしたか。

そりゃそうだよね。

すべき仕事は山積しているし、本当にクズ魔石が必要になるまで、まだ3ヶ月間も有る。

まだ考える時間は残されてるし、優先的に行うべきタスクに引き上げられれば、当然、注力するだけだ。

堆肥が発酵するまではジタバタしても仕方がないんだし、焦ったところで何が出来るわけでも無い。

お母様がお行儀悪く、手にしたフォークで私たちを指した。

「今は目の前の務めに集中しろ」

「「はーい」」

朝食をお腹に詰め込んで席を立つと、エゼリアさんたちも一緒に腰を上げた。