軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ⑦

「もぉ―――ッ!」

「・・・げふぅっ!?」

お腹の辺りをガシッと抱きしめられてアンリカさんに持ち上げられた。

肋骨がミシッと軋んだ気がする。

触角ヘビの締め付け攻撃を上回るもの凄い力で締め上げられて、肺の中の空気が押し出される。

何てったっけ、コレ!?

ベアハッグだっけ!?

そんなこと思い出してる場合じゃない!

「・・・あばばばばばっ!」

さらには、両足が完全に宙へ浮いていて逃げることも出来ないところへ、グリグリグリッとセリーナお婆様みたいな高速頬ずりまで付いてくるものだから、右へ左へ首が振り回されて頭の中が真っ白に漂白される。

ヤバイ。落ちそう。ていうか、吐きそう。

「フィオレ様ったら! ありがとうございます!」

「・・・あ、アンリカさん・・・、苦し」

ペチペチと背中をタップしていると、いよいよ気が遠くなってきた辺りで、ようやく気が済んだらしいアンリカさんが私を解放してくれた。

「・・・あ、危なかった・・・」

ゼーゼーと両膝に手を突いて呼吸を整える。

脳筋の本能のままに喜んでくれたのだろうけど、感情表現が激しすぎる!

お仕事を離れるとアンリカさんはこんな感じなのか。

今さらだけど、この感情表現を喜怒哀楽で丸ごと向けられるバルトロイ様、大丈夫かな?

いやいや。お母様と並んで王国を代表する最強の魔法術師なんだから、大丈夫だと信じよう。

私はみんなを信じると決めたんだから。

そう! 決めたんだから!

ちょっとだけ現実逃避が入ってるのは否めないけど、これは決して思考放棄では無い、・・・はずだ!

もしや、昔からこんな感じでアンリカさんが加減を知らないから、その過酷な環境に順応して脳筋化した結果、完成したのがアリアナさん!?

弟のアイオスくんも立派な脳筋に育ってるものね!

生命の神秘と人間の環境順応力の不思議を垣間見た気がして、戦慄しているところへお父様の声が掛かった。

「そう言えば、フィオレ。堆肥を領民に作らせると聞いたが?」

「・・・そ、そうです。放牧地で放置している馬糞と建設現場から出る木屑を、農家さんたちに集めさせます」

お父様に堆肥の話を伝えてくれたのはミセラさんたちかな?

なお、軍馬生産が主要産業の1つであるウォーレス家において、食料生産にも関わる馬糞の話が食事時に出てもNGではない。

その証拠に生粋の上級貴族であるセリーナお婆様も平然とティーカップを傾けていて、私たちの会話に関心を持って目を向けてきている。

私の報告にお父様が頷く。

「利用していない分の馬糞か。領民が回収に来ると領軍に伝えておこう」

「・・・継続的に生産して貰いますので、完成した堆肥を買い取れればと」

「開墾する農地に使うんだな?」

お父様の確認に深く頷いて返す。

「・・・はい。それと、スライムに食われていない森の土も堆肥として採取させますから、森の木の伐採も始めようかと」

「どこの木を伐るか決まっているのか?」

お父様が確認したいのは伐採作業の予定範囲のことだろうね。

頭の中に北門周辺の地図を思い浮かべる。

慰霊碑の背中側の森を切り拓いてしまうと、万一、ナーガ川を渡ってカリーク公王国が攻め込んできたときに北門側まで回り込まれかねない。

歩兵や騎馬は阻害できないにしても、輜重部隊の荷馬車を通さないために植林までしているぐらいだから、そっちの森に手を付けるのはダメだ。

だったら、やっぱりナーガ川から離れた側の森にしておくのが正解なのだろう。

「・・・採掘場へ向かう道路を挟んだ慰霊碑の向かい側のつもりですが、構いませんか?」

「あの辺りなら良かろう」

私の再確認にお父様が頷く。

手にしていたティーカップをお母様がソーサーに置く。

「街道側から伐って行くんだな?」

「・・・はい。住居建設でも木材の備蓄を消費したんですよね? 伐り出した木材は城壁内に搬入すれば良いですか?」

お母様に頷いて返しつつお父様に確認を取る。

用途の広い木材もまた戦略物資だからね。

必要が有って備蓄していた木材を消費したのだから、消費の原因を作った私が補充するのが筋というものだろう。

なんてことを考えていたらお婆様たちからストップが掛かった。

「待ちなさい。貴女は他にも進めるべき仕事が有るでしょう?」

「木材なんて直ぐに傷むものでも無いのだから、工兵部隊と輜重部隊に余裕が出来てから運搬させるわ。そのまま伐採跡に置いておいて構わないわよ」

「・・・あ。はい。分かりました」

輜重部隊に、じゃなく、工兵部隊もか。

工兵部隊の魔法術師さんたちが過労死しそう。

運搬する前に何か木材に加工が必要ってことかな?

採掘場みたいに丸太の長さそのままを使用するんじゃなければ、適当な長さにカットして運びやすくする、とかは有りそう?

採掘場でも決まった長さに丸太を加工してあったものね。

出来るだけ工兵部隊の仕事を減らせるように、枝を落として丸太にしたら搬出しやすい場所に積んでおくかな。

丸太を集める作業は魔力の手の訓練にもなるし。

予定作業そのものには問題が無いと判断したのか、お父様が私へ視線を戻してきた。