軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㊴

「・・・お帰りなさい。アスクレーお兄様」

「お帰り! アスクレー!」

「ふぃ、フィオレ・・・? ルナリア様・・・?」

フワリと地上への 着陸(タッチダウン) を決めたアスクレーくんが、生まれたての仔ジカのように膝をガクガクさせながらも座り込まないように耐えている。

事前情報無しの人生初フライトで腰を抜かさないなんて、なかなかヤルじゃん。

インドア派で線の細いタイプだと思ってたけど、ちょっと見直しちゃった。

よほど心拍数が上がっているらしいアスクレーくんが怪訝な表情で胸を押さえながら、顔を振り向けているルナリアと私を見比べる。

「た、ただいま・・・。もしかして、今のは?」

「・・・そう! それは私です! ―――、間違えた! 私の仕業です!」

隠したところで、どうせ直ぐにバレるだろうし、堂々と開き直る。

「どうやって? というのは後で良いとして、念のために訊いておくけど、どうしてあんなことを?」

モコモコと動いている爆速増殖中の小山も気になるみたいで、アスクレーくんの視線がチラチラと私たちの背後へと向いているけど、モコモコ小山よりも初フライトに至った経緯の方が気になるようだった。

アスクレーくんの質問は、なぜ私がアスクレーくんを拉致ったか、だよね。

「・・・私に気付かずに行っちゃおうとしたから?」

「僕に会いたかったの?」

意外そうにアスクレーくんが目を丸くする。

「・・・そりゃあ、1ヶ月もお兄様のお顔を見ていませんでしたし」

「そ、そっか」

アスクレーくんが照れくさそうに頬を指先で掻く。

ん? なんぞ? この反応。

よく分からない反応が返ってきて解析が終わっていないところへ、ズドドドドド! と蹄の音を響かせて騎馬の一団が追い付いてきた。

揃いの甲冑に身を包んでいることから正式な身分を持つ騎士様たちだろうことは推察できる。

「アスクレー様―――ッ!!」

血相を変えた騎士様たちが私たちの手前で手綱を引いて急制動を掛ける。

警戒したピーシーズが私たちと馬群の間にサッと割り込んで壁を作った。

騎馬の一団は見事な操作でピーシーズと接触する前に停止する。

「ご無事ですか!?」

「ああ。大丈夫だよ」

馬上から掛けられた声に、ピーシーズの隙間からヒョコッと顔を覘かせてアスクレーくんが答える。

「何だったのですか、今のは!?」

「フィオレが僕に会いたかっただけだったみたいだよ」

「は?」

否定するほどでも無いんだけど、そう「会いたかった」を強調されると、そうだっけ? と首を傾げたくなるね。

まあ先ず、顔を合わさないことには円満な人間関係なんて築けっこないんだから、「会いたかった」と表現するのも間違ってはいないのか。

驚きはしたようだけど、ちゃんと受け答えするアスクレーくんの無事な姿に騎士様たちも恐慌状態は脱したみたい。

ウォーレス領軍のものとは少し意匠が違う、お揃いの甲冑を着た騎士様たちの視線が私へ向く。

「フィオレ様・・・? こちらが?」

「・・・作業中で手が放せなくて済みません。フィオレ・ピーシスです」

おっと。私のことを知ってるのか。

さすがに他所様で悪い評判が立つのはよろしく無いだろうということで、ニコッと笑って余所行きの話し方を意識する。

そりゃあ次男坊とはいえ大事なお坊ちゃまの許婚だもの、騎士様たちが私のことを知らないわけ無いよね。

一先ず警戒心は解けたようだし良かった良かった。

騎士様たちが目を丸くしているところへ、モコ作業継続中で顔だけを振り向けているルナリアが作業を続けながら器用に反り返る。

「わたしがルナリア・ウォーレスよ!」

「ややっ! コレは失礼を!」

ハッと我に返った騎士様たちが慌てて下馬して私たちに向かって片膝を突く。

ちょっと大袈裟な反応かと思ったけど、そう言えば私たちって公爵家と伯爵家の当代当主だったね。

ルナリアはちゃんと立場を弁えた態度を意識してるのだろうから、私も気を付けなきゃ。

「我らはファーレンガルト家騎士団にてございます」

「アスクレーの護衛で来たのね! お疲れさま!」

「はっ。有り難きお言葉」

騎士様たちの名乗りにルナリアが当然のように労い、恐縮した騎士様たちが頭を下げる。

こういうところもルナリアって、ちゃんとしてるんだよね。

付け焼き刃の私も気を付けてはいるけど、それでも労うのを忘れるときが有る。

常識的なやり取りで落ち着きを取り戻したらしい騎士様たちの思考もお仕事モードに復帰したらしい。

騎士様たちの目が被害者へと向いた。

「それで、アスクレー様。先ほどのアレは?」

「フィオレがね。僕に会いたかったんだってさ」

「そ、そうですか」

そこで私の「会いたかった」を重ねて強調するんだ?

護衛対象が空を飛んで拉致されるという非常識の原因を問うた騎士様たちに、私の想像よりも懐が深かったらしいアスクレーくんが何やらモジモジと返した。

騎士様たちも困惑してるよ?

私もちょっと困惑してるし。

これは一体? と思わなくもないけど、キュピーン! と天啓のようなものが私の脳に下りてきた。

折角、ルナリアと騎士様たちの尽力で常識路線へと修正されたはずなのに、アスクレーくんによって非常識は闇から闇へと葬られようとしている?

ならば、全力でアスクレーくんに乗っかるしか無いだろう。

他所様の人の前でやり過ぎたと思うしね。