軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㊳

複製作業の体感を維持したまま通路を挟んだ反対側を眺め見れば、3階建てのマンションというか団地というか、四角い箱形の建物が立ち並んでいて、加工済みらしい木材部品を抱えた老若男女が忙しく建物に出入りしている。

トンカントンカンと聞こえてくる賑やかな音に釣られて目を向ければ、建物同士の谷間では大工道具を手にした沢山の人たちが木材に集っていて、木材部品を量産しているっぽい。

どこかから運んで積み上げてある木材は薄い板状に加工済みのものみたいで、1人でヒョイと持ち上げられるほど軽いもののようだ。

ノコギリを持った人が決まった大きさに木材を加工して、手の空いている人が切断された木材部品を回収してトンカチを振るっている人のところへと運んでいく。

作業を分担すると工兵部隊の兵士さんは言っていたけど、こういうことか。

単純作業に細分化して、工場作業みたいにそれぞれが決まった工程だけを分業するんだね。

屋外で木材を加工して組み立てた戸板は、みんなで住戸に運び込んで取り付けるのかな?

もう一度建物に目を戻せば、垂直な壁面に四角く空いた窓で木材部品の組み付け作業が行われていて、窓ガラスのない「フタ」って感じの戸板が填め込まれている。

あの戸板を閉めると室内は真っ暗になると思うから、戸板が閉まっている部屋は完成ってことなんだろうか?

すごいね。数時間で部屋が完成しちゃうんだ?

周囲の建物を見渡してみれば、戸板が閉まった窓がそれなりに見受けられる。

あれだけの数がもう完成済?

いくら仮設住宅だとしても、日本の建設現場では一戸建て1棟を建てるにも数ヶ月間掛かってたのに、到底考えられないハイペースだよね。

工場制手工業の分業体制にしても早い。

気になるなあ・・・。

何がどうなって、そんなことが可能なのか、後で室内を見せて貰おうっと。

私と同じように余所見できるぐらいに慣れたルナリアが、後ろへ首を振り向けて声を上げた。

「あっ。アスクレーだわ」

「・・・へっ?」

ルナリアの声に意識を引き戻されて、ルナリアの視線を追えば、北門を入ったところで騎馬の一団が馬の脚を止めて馬上からキョロキョロと周囲を見回している。

20騎は居るだろう一団の真ん中に1人だけ体躯の小さな人影が有って、あのルナリアの髪色に似た派手な金髪はアスクレーくんだろうと推測できる。

今日、帰ってくるってお婆様たちが言ってたしね。

アレースお兄様はアレイオス叔父様に似た淡い色の金髪だし、ミリア叔母様譲りのあの金髪はアスクレーくんで間違いないはずだ。

アスクレーくんに呼び掛けようとして気付く。

「・・・むっ」

向こうは私たちに気付いていないみたいだし、手を振ってあげたいけど、生憎、今、私の両手は魔石を握っていて塞がっている。

かと言って、私たちの作業場所からアスクレーくんまでは声が届くか怪しいぐらいの距離が有るし、時間が逼迫している状況下なのに作業を放っぽり出して挨拶しに行くわけにもいかない。

大声でアスクレーくんを呼んだら、はしたないとかルナリアに叱られそうだしなあ。

「・・・むむっ。」

どうしよう?

今の私たちを客観的に見れば、尿意を催した酔っ払いのオッサンたちが闇夜に紛れて壁に向かって立ち並んでいるような姿だと思う。

何も聞いていない人が傍目に見れば、小山に向かって並んで立っているだけで何をしているのか分かんないだろうなあ。

ベターなのはアスクレーくんが私たちに気付いて、こっちに来てくれることなんだけど、動きが無いから私たちは景色に紛れて目立たないだろうし。

これで向こうに気付けという方が無理だろうし、どうしたものか。

私が悩んで居るうちに騎馬の一団が移動しそうな気配を見せた。

あっ。行っちゃう。

アスクレーくんと仲良くしようと決意したばかりなのに、居るのが分かっていて声を掛けなかったとなれば心証が良くないだろう。

ええい仕方ない。

拉致るか。

急いで魔力の手を2本伸ばしてシュルシュルとアスクレーくんを追う。

視界から外れてしまうと制御の精密性が低下するから、視界に居るうちに捕獲してしまわないと。

全く警戒していないアスクレーくんの背後からワシッと胴体を掴み上げ、悲鳴を上げているピチピチと活きの良いアスクレーくんを引き寄せる。

ついでにアスクレーくんが取り落とした手綱を取って馬をこっちに誘導する。

危ないから、乗り手を失った馬をそのまま放ってはおけないからね。

突然、 離陸(テイクオフ) して空を飛び始めたアスクレーくんを呆然と見送った護衛らしき騎馬の一団が、慌てて馬の脚を止め、馬首を巡らせてアスクレーくんを追ってくる。

呆気に取られてポカーンとしているのは、結構な勢いで宙を飛んでくるアスクレーくんの垂直発射を目撃したルナリアも同じだった。

ルナリアが驚いたのは、恐らく私が執った強硬手段に対してだろう。

白昼の堂々、天下の往来での出来事だから目撃者はそれなりにいる。

とはいえ、ルナリアと私が飛んでいる姿を何度も見ているウォーレス領の人たちは、人が飛んだぐらいのことでは今さら驚かない。

エクラーダ系の人たちから響めきは上がっているけど、航行中の艦艇から垂直発射されたミサイルのように馬から分離したアスクレーくんの姿に気付いた人は、そう多くない。

「わああああああああああああっ!! あっ! えっ!?」

手足をジタバタさせながら涙目で悲鳴を上げていたアスクレーくんも、ゴール地点で待っている私たちの姿を見付けて、驚いては居るけどパニック状態からは脱したようだ。

ヨーシヨシ。良い子だ。

お取り寄せ成功!

まだ技師さんからストップが掛からないから体の向きはモコモコ小山から離せないけど、ルナリアと2人でアスクレーくんをお迎えする。