軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑥

「フィオレ。藁筵の方からだ」

「・・・はい」

てくてくと木杭の一つに近付いた私の右手に握られているのはヘビの魔石。

掌の魔石のヘビ魔力を私の魔力で押し出して風を起こす。湯水のごとく魔力を流し込まれた仮想ダンボール箱送風機は噴き出す風の速さと密度を増し、遠目にも景色を歪ませて可視化させる。

細く細く絞られた風が私の制御に従って円を描き、回転刃が顕現した。

がやがやと騒がしかったオーディエンスが、水を打ったように静まる。

威力は十分だろうと判断した私は、超高速で回転する空気の円盤を地面に押し付けた。

ジュガアアアア! と、訓練場の地面を削り取った円盤が、景色を歪ませる透明から、不純物を取り込んで茶色がかった白濁色へと変化する。

慣れも手伝って、準備が整うまでに掛かった時間は3秒間ほど。

薄い円盤状に高速回転する風のカッターを右手の先に従え、藁筵の真ん中に向かって大きく振るった。

シュカアアアン! と、軽い金属音じみた擦過音を残してカッターが木杭を通過し、粉砕された藁筵の切屑を撒き散らしながら木杭の上半分が倒れる。

訓練場に、どよめきが満ちた。

周囲の騒音に負けないように、お師様が声を張り上げる。

「続いて、甲冑の方だ!」

「・・・はい!」

カッターを従えた私は体の向きを変え、金属甲冑の木杭へと歩み寄る。

キュガガガガガ! 火花が散って、今までに聞いたことが無い異音が周囲に響いた。

何これ、抵抗がすごい。

一応、火花は散っているけど、何だろう・・・、滑ってる?

私と甲冑の周囲に土埃が舞っている。

「・・・っ!?」

カッターの形に押し込めている風が弾き返されて解けそうになっている。

バケツの底が抜けたように魔力の消費が激しくなったのを感じて、私自身から送り出す魔力のパイプを太くして、魔石から魔力を押し出す力を強めようと試みる。

これって、魔力の消費ロスが増えたってこと!?

魔力消費が増えた私の身体にも、急激に体温を奪われるような負担が掛かる。

ダメだ。このままだと失敗する。

急激な体温低下を防ごうとしているのか、私の鼓動が早くなる。

胸が苦しい・・・。

でも、負けたくない・・・!

早鐘のように脈打つ息苦しさに、歯を食いしばる。

「・・・う、うううっ!」

無理やりカッターの形を維持させられている風の塊と甲冑の接触点付近が、熱を 孕(はら) んで赤熱し、ようやくカッターの刃が甲冑に食い込み始めている。

ギュガアアアアア! と、摩擦音が若干軽くなり、削り取られた金属の火花が大きく飛び散り出した。

ヨシ・・・! もうちょっとだ・・・! そう考えたときだった。

バガアアアアン!! と、大きな音がして、私の小さな体は正面から見えない大きな手で張り飛ばされた。

何が起こったのか分からないけど、目の前がチカチカして、頭の中がぐるぐると回る。

「フィオレ!!」

すぐ近くからルナリアの声が聞こえて、視界が焦点を結び始める。

目に涙を浮かべた必死な形相のルナリアが、私を抱き起しているらしい。

「・・・ルナ・・・リア・・・?」

「大丈夫!? フィオレ!」

「・・・なに・・・? どうなったの・・・?」

「何って、爆発したのよ!」

痛い、痛い。ガクガク揺すらないで、ルナリア。

「・・・ばくはつ・・・?」

茫洋と見回して周囲の状況を確認すると、お師様と数人の騎士様が甲冑の木杭を取り囲んでいて、人垣の隙間から、半ばで内側から弾けたらしい甲冑の残骸が垣間見えた。

私は爆発した甲冑から5メートル以上離れた場所に尻餅をついていて、ぼさぼさに乱れた髪と土塗れになったドレスから察するに、何らかの原因で爆発したらしい実験対象に吹き飛ばされた私は、こんなところまで転がってきたらしい。

一気に魔力を使い過ぎて冷めていた私の中の熱が、少しずつ温度を上げて戻ってくる。

「防御術式は間に合ったようだな」

実験結果を確認したらしいお師様が、私たちの傍へ片膝をついた。

ぽふぽふと私の髪の砂埃を叩き落としながら、ニヤリと口元を歪める。

どうやら、お師様が魔法術式で爆発から私を守ってくれたらしい。

地面を転がったみたいだから擦り傷ぐらいは出来ているかも知れないけど、今はどこも痛くない。

体は痛くないけど、心が痛い。

くそぅ。悔しい。

自分の不甲斐なさに対する苛立ちが、むくむくと胸中に膨れ上がる。

「・・・お師様。・・・ごめん。失敗した」

「失敗とも言えんだろう」

「・・・どうして?」

「甲冑の破壊には成功している」

目線で示されれば、脇腹から大きく裂けた甲冑は、くの字に折れ曲がって破砕面を上空へと見せつけている。

あれが甲冑を着た本物の人間だったとすれば、当然ながら中身の人体も無事で済んだはずが無い。

誰もが予想しなかった惨状に訓練場は騒然となり、今は、ハインズ様やマルキオ様たちまでもが破壊された甲冑を検分しに行っている。

「・・・そう」

でも、そうじゃないんだよ。

ぎゅっと拳を握りしめる。

私のイメージでは、ギャアアアン! と火花を散らして両断するはずだったんだよ。

グラインダー? 金属を切る電動ノコギリのスゴイやつ、ってイメージで。

「・・・うーん」

ルナリアに肩を支えられて座り込んだまま、私は考え込んでしまった。