作品タイトル不明
開眼 ㉞
接触位置で―――、いや。接触ヶ所の数で結果が変わってるってことだよね。
1つのコピー元に対してコピー機を5台並べた的な?
そんなこと有り得るの?
いやいや。目の前の現実を認めないわけじゃないよ?
認めないわけじゃないけど、理屈が分からん。
現実として現象が起こってしまっている以上、認めざるを得ない。
他に何か差違は無いかと意識してみれば、有った。
「・・・んん? ん? 負荷が増えてる?」
魔石の魔力を掌握する程度だから、普段なら意識しないぐらいしか体内保有魔力を消耗しないのに、今は体内の魔力を使っている感覚がある。
感覚と言っても誤差レベルというか、「ちょっとだけ使ってる?」と感じるぐらい。
具体的には、魔石無しで“ 火(フィア) ”の魔法を使ってるのと変わらない程度かな。
大袈裟に「消耗」などと言うほどには消耗していないのが体感で分かる。
よって、害は無しと判断する。
本当に実用に耐え得るものかどうかは 被験者(ルナリア) で実験するしか無いな。
うん。理屈の検証は後だ。
先ずは実験してみよう。
「・・・ルナリア」
「なに?」
大人しく待っていてくれたルナリアが、パッと表情を明るくする。
ちゃんと私が教えると信じてくれてたんだね。
じゃあ、ルナリアもやってみよう!
臨床実験ってヤツだよ。
「・・・今、地面に突っ込んでる魔力の手の“指”を長く伸ばしてみて」
「指? ええ?」
私のリクエストにルナリアの瞬きが多くなる。
意味が分からなかったんだと思うけど、私も意味不明だから問題ナシ!
「・・・良いから良いから。5本の指を1メテルぐらいまで伸ばしてみて」
「1メテル? わたしの指、そんなに長くないわよ?」
おっ? 珍しく抵抗するね。
人間の体の形状として手の指の長さが1メートルって、どう考えても異形だし、女の子的に異形の姿になる自分を想像することに抵抗感が有るのは理解できなくもない。
でもね? 触手を1本生やしてしまっている時点でルナリアも手遅れなんだよ。
「・・・知ってる知ってる。イメージするだけだから、実際の指が伸びるわけじゃないし」
魔力の手を教えるときに「自分の手の延長」って教えたんだっけ。
それは恐らく最初に私がイメージしたものと同じで、ルナリアの魔力の手もルナリアの手をそのまま大きくしたような形状をしてるはず。
目に見えないから、もっとこうしろああしろと細かく指示できないのが難点だな。
でも、イメージさえ出来れば、ルナリアも「手」を変形させて「指」を伸ばすことは出来ると思うんだよ。
抵抗感を飲み込んだらしいルナリアが首を傾げる。
「んん? 指を伸ばす?」
「・・・ちょっと待ってね」
口頭で伝えても具体的にイメージしにくかったかな?
このままじゃ無理そうだと判断して、爆速増殖を止めてルナリアの足元にしゃがみ込む。
地面に指先で右手をパーにした手のひらの絵を描いてみる。
パーのサイズは実物大だ。
「・・・ルナリアの手って、こんな形だよね」
「そうね」
「・・・これを、こう!」
パーの絵の指を1メートルずつズイーッと伸ばしてやる。
ついでだから遠近法で小さくしたルナリア本体も描き足してあげよう。
「ええ・・・」
クリーチャー業界へのお誘いに、ルナリアの眉間にキュッと皺が寄った。
何を描いているのか気になったらしい技師さんが地面を覗きに来て、首を傾げている。
「・・・嫌そうにしなくても、魔力の手の指を伸ばすだけだよ」
「分かってるわよ」
ルナリアって順応性が高いくせに意外と堅いというか、保守的というか、頑固というか、そんな感じのところが有るからね。
具体的な異形の姿を絵で見せられて想像してしまったのだろう。
違和感というか、女の子的に忌避感を感じる気持ちは分からなくもないけどね。
そんなこと言ったら私なんてイソギンチャクみたいに触手が生えてるんだから今さらだし。
所詮は実体の無い魔力の手なんだから、どうってことない。
すでに生やしてる触手の先っぽがいくらか伸びたぐらい、気にしたら負けだよ。
「・・・大丈夫、大丈夫。誰にも見えてないからヘーキヘーキ」
「わ、分かったわよ」
コクリと息を呑んで覚悟を決めたらしいルナリアがスッと目を伏せる。
何度かチラッと私の絵に目が動いていることから、真剣に取り組んでくれていることが傍目に見ていても分かる。
このぉ。 愛(う) いやつめ。