軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㉗

ボッチだった私は“待ち合わせ”などという高等技術に馴染みが無かったから、いつも疑問だったんだよ。

例えばフィクションでよく有る「ハチ公前で待ち合わせ」とか、渋谷駅前の「忠犬ハチ公」という銅像を中心に360度の方向が有るわけじゃん?

だったら「ハチ公の正面10メートル付近」とか「ハチ公の 直上(ちょくじょう) 」とか、もっと具体的にランデブーポイントの座標情報を特定しないとエンカウントそのもののハードルが高くない?

ボッチに優しくなかった世の中の不合理を糾弾する私のバカな思考はイディアさんの声にぶった切られる。

「では、行きますよ~」

「「はーい」」

ルナリアと2人で返事を返す。

前を向いたイディアさんが先頭で、馬列が進み始める。

頼りになる大人が引率してくれるのは気が楽で良いよね。

厩舎前の広場を出発し、 通路(アプローチ) を抜けて、門を潜れば目抜き通りに出る。

蹄の音に、こちらを見る人が結構いるね。

ジアンさんたちやミセラさんたちが採掘場へ向かう荷馬車に参加者を積み込み終えかけていて、荷馬車の1台に乗っている外套のフードを被った一団がこちらを向いて会釈した。

あのフードの内の一人がサーシャさんで、それ以外が一族のバックアップ要員だったのだろう。

サーシャさんを含めて5人のチームかな?

分隊のさらに半分って感じだろうか。

潜入するのに5人という人数が多いのか少ないのか私には判断が付かないけど、何らかの意味は有るのだろう。

片手を軽く挙げてフードの一団に応え、北門へ向かう。

「・・・うわっ」

「すごい人の数ね!」

領主館を出発して、ほんの数分後。

北門の様子が見える距離まで近付くと、門前が人で埋め尽くされているのが見えた。

領軍の兵士さんらしき人影の誘導で、右から左へ、左から右へ、ゾロゾロと人々の集団が移動しているのだと遠目にも分かる。

夜明け前の早朝から兵士さんの指示に従って整然と歩く人々の姿は、まるで、「一種の芸術」だと評される同人誌即売会の待機列移動動画を見ている気分にさせられる。

「民心は掌握済みと聞いていましたが、予想以上ですね」

「領軍の陣形訓練よりも統率が取れてない?」

「それはさすがに領軍が可哀想でしょ」

イディアさんが感心し、エレーナさんが酷評し、ノイエラさんが擁護する。

その評価は私も兵士さんたちが可哀想だと思うよ?

私は自分の目で訓練風景を見たわけじゃないし、感情論では口出しできないから黙ってるけど。

それに、 兜(ヘルム) を被ってると視界が制限されるから、その影響も有るんじゃないかな?

人間の”有効視野角”は真正面側の約70度ほどのはずだけど、あくまで鮮明な視野を得られる”有効”な範囲がそれなのであって、「視界に入る」かどうかで言えば人間の視野は200度近く有ったはず。

視界の端で「ものが動いた」と認識できる程度だけどね。

この「認識できる程度」が重要なんだよ。

「ものが動いた」と次の予測や覚悟が出来ているかどうかは、対処というか、反応速度に関わると思う。

採掘場での休憩中に駄弁っていて、兵士さんの兜を被らせて貰ったことが有るんだよね。

側面や上下の視界が狭くて首ごと動かさないと周りが見えないんだと、兜を被ってみて初めて知った。

私、ヘルメットって 工事現場用(ドカヘル) と原付用のお椀型しか被った経験がなかったから、あの視界の狭さは、こんなので戦争するの!? って衝撃的だったよ。

戦場なんて360度のどこから何が飛んできてもおかしくない場所でしょ。

みんなそうだ甘やかすなと叱られそうだから、やっぱり擁護できないんだけどね。

イディアさんが馬を停めて私たちの馬も追従して足を止める。

工兵部隊の兵士さんたちが駆け寄ってきたことで、作業を開始する現場に到着したものと判断して馬から下りようとしたら、移動している人々の中から私たちの到着に気付いた人たちの声が上がる。

「あっ! 姫さ―――、うわっ止めろ何をする!?」

「黙んなさい!」

「フィオレ様とお呼びしろ! 良いな!?」

口にしてはいけない呼び名を口にしようとした人を周りの人たちが抑え込み、その姿に苦笑している兵士さんたちに迎えられる。

一足早くシュタッと地面に立ったルナリアがドーンと反り返る。

「みんな、おはよう!」

「「「「「おはようございます!」」」」」

ルナリアの明るい声に兵士さんたちの表情が明るくなる。

さすが、みんなのアイドル。

私では一声で周囲の空気を変えるのは無理だなあ。

周囲の空気を凍らせるのは簡単に出来そうだけど。

本質的な陽キャと陰キャの違いは、私には如何ともし難い。

兵士さんの一人が轡を取ってくれたので鞍から下りて手綱を預ける。

「おはようございます」

「・・・おはよう。もう、作業分担を進めてたんだね」

「1時間以上も前から集まっていましたので、折角だからと」

兵士さんが難民―――、もうウォーレス領の領民なんだから難民じゃないな。

エクラーダ人? エクラーダ系領民? の人たちへと目を向ける。

「早いわね!」

「・・・まだ真っ暗な時間から集まってたんだ?」

ははぁ。ずっとあの調子で待ってたのか。

ヤル気がおかしな方を向いてケンカを始められても困るから、意識を他に向けるためにも作業グループ分けを始めたってことかな。

私の問いに目を柔らかくした兵士さんが頷く。