軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑯

「おはようございます。フィオレ様―――、で。こちらの方は?」

「・・・事情が有って他所様から預かってる子だよ。名前はサーシャさん」

輝くような笑顔での挨拶からエターナさんの目が流れるように移り、サーシャさんの頭の天辺から足元まで確認する。

ようやくルナリアに手を離して貰ったサーシャさんが慌ててお辞儀をする。

「さ、サーシャ・ハークと申します」

「これはご丁寧に。私はエターナ・トラヴァスです。・・・同胞―――、エクラーダ人? いいえ。少し違うような?」

会釈を返したエターナさんが、じーっとサーシャさんを見つめて首を傾げる。

「・・・王国民だよ。よく似てるけど、エクラーダ人では無いよ」

「そうですか。お名前に“エ”も付いていませんし・・・?」

うん? “エ”?

やっぱり“エ”?

「・・・ “エ”がエクラーダ人かどうかの判断基準なんだ?」

「いいえ。別にそういうわけでは無いのですが」

「・・・何だ。違うのか」

まあ良いや。ついでだから、このまま有耶無耶にしちゃえ。

ノーアを抱えたお母様を筆頭に、みんなが続々と食堂に入室して来ているから早く終わらせなきゃ。

「・・・エターナさん。昨日言ったこと覚えてる?」

「体内保有魔力量の件でしょうか?」

私が表情を引き締めると、エターナさんも姿勢を正して表情をキリッと引き締める。

「・・・すごく大事なことだからね。血を飲んだときのポカポカが無くなるまで続けるんだよ。エターナさんの後にみんなが続くんだから、お手本になってくれなきゃ」

「はっ! 必ずや!」

気合いマシマシの返事と共にエターナさんから王国式の敬礼が返る。

「血を飲んだとき」の一言でサーシャさんがビクリと肩を震わせたことに私は気付いたけど、私だけを注視しているエターナさんは気付かなかったようだ。

サーシャさんにも説明した方が良いかと考えかけたけど、私が判断するよりも先に食堂の扉をノックした人が居た。

「失礼いたします」

扉を押し開けて入室して来たのは甲冑姿のジアンさんだ。

イケメンは何を着ても似合うなあ。

奇跡的なバランスというか、厳つさも暑苦しさも感じさせない甲冑の着こなしって謎だよね。

固そうなタリアさんもこんな人に愛を囁かれれば秒で撃沈したことだろう。

「・・・ジアンさん。おはよう」

「おはよう! ジアン!」

「にゃ」

「おはようございます。お嬢様方。皆様もおはようございます」

欠損しているはずの右手をスッと胸に当てて一礼するジアンさんの所作には、まるで違和感が無くて、ほんの数日の時間で魔力の手を完璧に使いこなしていることが目に見えて分かる。

たぶん、ジアンさんの右手にお箸を握らせて、右のお皿から左のお皿へ大豆を移させても、完璧にやってのけるだろうと思わされる。

なんで例えが大豆なのか?

善意の通報で捕獲された未開土人の野生児が、 躾(しつけ) 教育なんて毒親から受けてるわけ無いじゃん?

当時の私が使えたカトラリーって、スプーンとフォークだけだったよ。特にフォーク。

ガシッと握ってブスッと突き刺してガブリと食らい付く、1歳児が2歳児みたいな超絶ワイルド仕様。

手掴みじゃなかっただけ、微粒子レベルで文明の存在は知っていた。

こんなじゃあ、さすがに社会不適合者になるって、放り込まれた施設で特訓させられたんだよ。

そのときにお箸を握らされて、やらされたのが大豆移し。

お皿からお皿へ大豆を移し終えるまで目の前に用意されたご飯を食べさせて貰えないから、ブルルアアアッ! と唸りながら野生児も必死でお箸の使い方を覚えたよ。

パソコンでの検索方法は知っていたし、ナイフやロープならメチャクチャ器用に使えたのにね。

今思えば、どれだけ歪な子供だったのか。

そりゃあジアンさんだって努力をしたのだろうけど、本当に才能が有る人っていうのは、ジアンさんのような人のことを言うのだろうね。

「・・・忙しいのに、ゴメンね」

「いいえ。私に出来ることであれば、何なりとお申し付けください」

「・・・うん。頼りにしてる」

頼る気マンマンだと伝えれば、ジアンさんは柔らかく笑う。

そして、デキる若執事さんはスッと表情を改める。

「フィオレ。時間が勿体ない。話は朝食を食べながらにしろ」

「・・・あっ。ハイ」

ルナリアと私が席に着き、今日は特別にお客様扱いのサーシャさんも、レヴィアさんの圧力のある笑顔に抵抗を封殺されて食卓テーブルの末席に座らされる。

ここで、先に朝食を摂っていたらしいディディエさんたちとミセラさんたちが給仕を交代した。

ミセラさんたちも控え部屋で朝食だろうね。

そこへ領主館のメイドさんたちが厨房から食事を運んできた。

メイドさんたちとディディさんたちかテキパキと協力して、あっという間に配膳を終える。

今朝の朝食メニューは、湯気を上げる温かいスープと厚切りベーコンとオムレツとケールっぽい葉野菜のソテーだ。

取り皿にバターが乗せられていて、パン籠の丸パンが添えられている。

ササッと壁際へ下がったディディエさんたちを残してメイドさんたちが食堂から退室したのを見届けて、お仕事モードのジアンさんが話を再開する。