軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ⑭

お婆様たちの心配は、もっともなことだ。

銃後を預かるお婆様たちは笑ってくれているけど、心配事を減らせたのも私なら、心配事を増やしたのも私だったのだ。

自分がやりたいことに向けて突っ走るだけじゃなく、迷惑が掛かる人が居ることを忘れないようにしないと。

「しかしだ。あまり危ないことをしないでくれ。胆を冷やしたぞ」

「お前は警戒心が薄いところが有るからな。軽率な行動は控えろ」

「・・・あ。はい。心配掛けてごめんなさい」

お父様が溜息を吐いて、お母様に視線でメッとされた。

これは宰相さんと一人で話したことだろうね。

今思えば、宰相さんが敵じゃなくて本当に良かった、としか言えない。

鉢合わせたのがウォーレス家に悪意を持っている貴族だったら、襲われていた可能性も有ったはず。

小児性愛の特殊な性癖を持った変態が相手でも、襲われていた可能性はゼロでは無かっただろう。

私には、「ごめんなさい」以外に返す言葉がないな。

言われてみれば、最近、私の警戒心ってガバガバな気がする。

前はもっと他人を警戒していたと思うんだけど、元からガバガバだった?

あれ? どうだったっけ?

「・・・むむむ?」

「何だ?」

混乱してきて傾いだ私の頭に、お母様も首を傾げる。

「・・・気を付けよう、とは思うけど、警戒心を強くするのって、どうすれば良いんだろう?」

「そんなもの、気持ちの持ち方一つだろうが。常に戦場に立っていると思えば良い」

「・・・ああ。ハイ」

常在戦場か!

お母様が戦国武将みたいなことを言い出したぞ!?

いや。お母様は現役バリバリの武将だったな。

前にも、こんなこと無かったっけ?

山本五十六先生も座右の銘にしていたらしいけど、“常在戦場”って元はお武家さんの家訓なんだっけ。

えーっと。確か、新潟かどこかの家。

軍人さんの勇者さんも拉致されて来てたのだから、こっちの世界に概念が輸入されていてもおかしくないな。

ていうか、ウォーレス家の在り方自体が“常在戦場”だった!

お母様の言葉に、腕組みしたハインズお爺様が唸る。

「フィオレだけのことでは無いな。各々が一層、気を引き締める必要が有ろう」

「そうね。今後はどんどん人が増えるわ」

「これも世の流れだ。受け入れるしか有るまい」

セリーナお婆様が同意して、お父様が軽く肩を竦める。

すごいよね。

この柔軟性というか、度胸の据わり方。

泰然として、誰も動じていない。

変化に一喜一憂するのではなく、どう変化するのかを見定めている姿に見える。

これも“常在戦場”かな。

これがウォーレス家の人たち。

西部地域からの移住民のことも、エクラーダからの戦災難民のことも、サーシャさんたちのことも、「人が増える」の一言で表してしまうのもすごいけど、そのリスクを大局として受け入れた上で漫然と流されるつもりが無いことが、理知的な目の光から感じ取れる。

特にサーシャさんたちは忍者―――、間諜だ。

間諜の連絡網が宰相さんとの間に接続される。

外部と繋がった連絡網が機能するということは、内部の情報が漏れるということでも有るけど、今後、内外の人の往来が増える未来が確定している以上、そんなものは分かりきっていたことだ。

軍事的に突出して強いウォーレス領が支配権を望まず孤立を避けるなら、国内との繋がりを強めるしかない。

でも、他領とのお付き合いが、そんなに多かったようには見えなかった。

ルナリアには他領の同年代の御令嬢たちと接点を持つようにさせようとしたけど、ルナリアが耐えられずに拒否しちゃってたらしいしね。

他領との接点が少なかったことは、塩の融通でミリア叔母様たちが飛び回っていたことからも窺える。

それって、強すぎて怖いから近寄りがたくて忌避されていた部分も有るんじゃないだろうか。

領主館への近寄りがたさを緩和するために、エゼリアさんたちがメイド服を着せられていたぐらいだし。

ものすごく柔軟で、こんなに暖かい人たちなのにね。

世の中の人たちというものは本当に見る目が無い。

「他領からも治癒魔法術師になりたい人が来るんだったわね」

「・・・たくさん来ると思うよ。敵も味方も」

それな。

ルナリアが反芻したように、移住民や難民だけでも、てんてこ舞いなのに、今まで敵だと思っていた人たちも治癒魔法の技術を学びに来る。

人が増えれば物流が増えて、商機を見出そうとする商人なんかも、さらに増える。

ルナリアが眉根を寄せる。

「敵は要らないわよ?」

「・・・そうなんだけどね」

近寄りがたさを上回るほどの利益を得られるとなれば、今後は貴族たちの動きも違ってくる。

宰相さんがサーシャさんたちを送りつけてきたように、捨て駒を使ってでもウォーレス家と接点を持とうとする人たちも出てくるはずだ。

集まって来る人たちの中には、善意も有れば悪意も有るだろう。

「・・・私たちは、集まって来る多くの人たちの中から、悪意の有る人たちを見極めて対処しなきゃいけない」

「うへぇ・・・」

人を見極める面倒さを思ったらしいルナリアの眉尻が情けなく下がった。

テレサの得意分野なんだから、もっとコツを聞いておけば良かったな。