軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ③

「はいはい。お二人とも、そろそろ準備してくださいね」

満腹を超えた膨満感で身動きも難しく、ルナリアと2人で何とか部屋へ戻ってうんうん唸っていると、メイドさんが呼びに来た。

「・・・う~。苦しい」

「無理なら残せばいいのに」

「・・・ごはんを残すなんて許されない」

「残さず食べてもらえて、厨房が喜んでいましたよ」

「そうなの?」

「はい。お二人とも御立派です」

そこまで褒められるということは、やはり、料理を出す側も子供には多いと思いつつ、あの量を出していたってことかな?

でもまあ、善意から行われたことだと受け取ろう。

「魔法を使うとおなかがすく」ってお師様が言ってたしね。

「・・・ありがとう、って、伝えて欲しい」

「伝えておきますね」

編みこんでアップにした薄めの色の金髪に蒼い目のメイドさんは嬉しそうに微笑んだ。

このメイドさん、亡くなったマーサさんの後任に選ばれた人で、エゼリアさんという。

ぱんつの敵を滅ぼすってシュプレヒコールを上げていた内の一人だね。

昨日から私もお世話になっているけど、エゼリアさんたちからは適度に雑な感じが滲み出ていて、私たちの扱いも手荒いというか、カラッとサッパリした人たちで、めちゃめちゃ畏まられると逆に落ち着かないであろう私にとっては、とても親しみやすい。

エゼリアさんたちは領主館の雑務と警備のお仕事を兼ねていたそうなのだけれど、ルナリア専門の傍付きで身の回りを担当していたマーサさんの頃とはルナリアの立場が変わったので、エゼリアさんが中心になって、メイドさんたちが、護衛、兼、身の回りの補助を担当することになったそうだ。

ルナリアの身の回りには、恐らく四六時中ルナリアと一緒に居るであろう、私の面倒も含まれるらしい。

ルナリアのお世話の細かな部分は、私がフォローすれば問題ないしね。

本来の職務が雑務と警備、というのは、もともと、エゼリアさんたちはお師様の側近を務める女性騎士であるらしく、厳つい男性騎士たちばかりが領主館の中を埋め尽くしていると、領主館を訪れた来客や領民が縮み上がってしまうため、仕方なく引き受けているんだって。

ウォーレス家は王国を代表するレベルの武闘派集団らしいから、来訪者からすれば、抗争中のヤクザの組事務所へお宅訪問する感じだろうからね。

誰だって、怖い物には近付きたくないのが生物としての生存本能だし、クッション役は確かに必要かもしれない。

彼女らの剣の腕は男性騎士たちに劣らないそうなので、暇が合えば剣の手解きを、と、お願いしたら、それはもう嬉しそうに、人懐っこい笑顔で快諾してくれた。

絶対、この人たち、お師様と同じ人種だ。

魔法か剣かのベクトルの違いだけで、きっと脳筋に違いない。

だってね。エゼリアさんたち、メイドさんの恰好はしているけど、みんな、腰には剣を佩いているんだよ。

あまりにも自然体だったから、違和感の正体が腰の剣だと気付くまで時間が掛かった。

そして、ここの領主館には、エゼリアさんたち女性騎士の方々が8人もいらっしゃる。

昨日、私とルナリアの両手両足を一人1本ずつ掴んでいた8人で、お師様のメイドさんは全員、正式には女性騎士ってことだね。

領主館には他にも普通のメイドさんたちが居るのだけど、私たちの近くに居るのは、お師様が配置した8人になったそうだ。

お師様の弟子になったばかりの私が侯爵令嬢のルナリアと同等の扱いでお世話されるのは気が引けるので、辞退しようとしたら、迫力の有る笑顔で「気にすんな」という趣旨の言葉を遠回し―――、いや、途中からはまあまあストレートに言われて困惑した。

それ以上、逆らってはいけない気がしたので黙って受け入れることにしたけど、何か、お師様からの命令が出ているのかも知れない。

主な配置場所が領主館内部のため、エゼリアさんたちの腰にある剣は屋内戦闘を意識した短めのものなのだそうで、普段の得意な武器は8人それぞれが違うらしい。

緊急事態ともなれば、脛下丈スカートのクラシカルなメイド服の上から、白いエプロンの代わりに甲冑の胴部分を装備するらしく、ゆったりとしたフレアスカートの足元からは、頑丈そうな編み上げブーツが覗いている。

こうやって実際に見ると、戦闘メイドってカッコカワイイんだよね。

日本人だった頃には全く興味が無かった私でも、新しい扉が開かれたように感じた。

エゼリアさんたちは、揃いも揃ってなかなかの美人さん揃いで、笑っていてもキリッとしていても映える。

お師様だけじゃなく、エゼリアさんたちも絶対にモテるはず。

そう思ったけど、エゼリアさんたちはルナリアと同じく、強い男性がお好みらしい。

彼女たちのお眼鏡に適うほどの男性は競争率が高くて、昨日の 女の闘い(イロコイ) の話に繋がってくる。

「夫に選んだ男性が簡単に怪我をしたり死なれては苦労するのは自分」と、リアルでシビアで真っ当なご意見だった。

さすが脳筋一族、ってわけじゃなく、これは辺境の女性の一般的な価値観なんだって。

言われてみれば、その通りだよね。

子供を産んで育てる女性の立場からすれば、夫が無事で健在かどうかは極めて重要で、議論の余地が無いぐらいに当然の話。

でも、私みたいに、暴力的だったり声が大きい男性が苦手な場合はどうすれば良いんだろう? って聞いてみたら、私が実力で捻じ伏せれば良いんだと。

この場合の「実力」とは、純然たる「武力」を指す。

現代日本のように優しい男だの、見てくれだけのイケメンだのは論外で、「多少、ガサツな男は女が殴って躾ければいい」と、やっぱり脳筋な答えが返ってきた。

「頭がバカでも強ければ死なないけれど、辺境では顔が良くても弱ければ死ぬ」だって。

もっとも、バカ過ぎると一人で敵に突っ込んで行って死んだりするから、バカにも許容限度は存在するらしい。

ウォーレス領だと、どれだけ強くて見た目が爽やかなイケメンでも、中身は頭の中までただの筋肉だったりするので、それを上手く矯正するのも女の手腕なんだってさ。

話を聞いていて、シベリアンハスキーって犬種を連想した。

筋肉バカの飼い犬を躾けるドッグトレーナーかな?

そういう文化だから、浮気して他所の女に 現(うつつ) を抜かす男なんてものは、ウォーレス領には、ほぼ居ないって。すごいね!

色恋沙汰耐性ゼロで恋愛経験値ゼロの私には、それが、どのぐらいすごいことなのかもよく分かっていないけれど、前世の母親が失敗しまくって、その結果、誰にも望まれずに生まれたのが私なのだから、失敗作の私には、上手くできる気が、これっぽっちもしないね。

でもまあ、自分を裏切らない、自分のことだけを見てくれる人が居るなら、それは素晴らしいことだってぐらいは想像できる、気はする。

他人だよ? そんな人、居るの? って気持ちの方が強いけど。だって、私だよ?

今の幼女の私には、まだ関係ないよね。関係ないはず。関係ないと良いなあ。

忘れよう。うん。それしかない。