軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ④

「・・・何で他の人が居ると話せないのかな?」

「それは・・・」

答えに困った様子で彼女は言い淀む。

分かってるよ。

他の人が居る場所で話すなと命じられているから、だよね。

でも、敢えて口にする。

「・・・誰かの命令、っぽいかな。違う?」

「・・・・・」

困った表情での沈黙。

つまりは、肯定。

この子、ずっとこんな感じだったんだろうね。

素直なのは良いけど、間諜なら落第レベルの反応だろうし、間諜ではないのかも。

その辺を歩いている普通の娘さんみたいで間諜らしくないくせに頑なだし、そりゃあお母様もお父様も扱いに困って当事者の私を呼ぶわけだ。

環境を整えてあげれば一応は命令を遂行できたことになるのなら、そうしてあげた方が良くない?

ここ、寒いし。

面倒くさくなってきたから強行突破してみるか。

面倒くせえ! とはストレートに言い辛いから、一芝居打つことにする。

「・・・ふむ?」

「やはり無駄か」

わざとらしいかと思いながらお母様の思案ポーズを真似してみれば、私の背後で見守っていたお父様が溜息を吐く。

腕組みで立てた人差し指を顎先に添えるアレだよ。

お母様やシェリアお婆様の癖でお父様は見慣れてるだろうと思って真似たんだけど、何か考えているように見えてくれたようだ。

「・・・用件を聞くだけ聞いた方が早いかな」

「どうする?」

振り返ってお父様に“彼女の要求を呑もう”と申告すれば、難しい表情のお父様がお母様を見る。

お父様からバトンタッチしたお母様が私を見る。

「躊躇わずにやれるか?」

「・・・大丈夫。それに、害意は無いと思うんだよね」

お母様の言う「やれるか」とは、「出来るか」ではなく「殺れるか」って意味だよね。

危害を加えられるぐらいなら、もちろん、私は殺る。

私だって好き好んで人に害を与えたいわけじゃないから、危なそうであれば近付かないけど、この子はそんな感じじゃないしね。

こっちの世界には魔法というものが有って、相手がどんな手段を持っているかが本質的なレベルで危険度が分からない。

縄で縛ろうが手枷足枷を付けようが牢屋へ放り込もうが、完全に安心できるものではないんだよ。

そういうときのために、例の“奴隷環”という魔法道具が存在するらしいのだけど、アレはアレで非人道的だと忌避される傾向が有るようで、王国が奴隷制度を認めない論拠の一つになっているっぽい。

それ以前に、アレも魔法道具だから日用品レベルで個体数が存在するものでもないらしいけどね。

だから、敵や犯罪者の抵抗力や気力を奪うためにも、手っ取り早く過激な手段を執ることが往々にしてある。

過激な手段を執られたくなかったら抵抗してはいけない。

かと言って、抵抗しなければ安全なのかと言えば、全く 以(もっ) て、ぜんぜんそんなことは無い。

殺られる前に殺るのが基本。

5歳の子供が暗殺者を返り討ちにして褒められた理由の一部に、この辺りの事情が有ることは段々と理解できてきた。

そういう意味でも、正体不明の侵入者と2人っきりで話し合いの場を設けるなんて危険極まりない。

お父様が心配するのは順当で正常な判断だよ。

とはいえ、私にはバンダースナッチの犬パンチにも耐える魔力の手がある。

精神攻撃電波とか視線メーザーカッターとかでも無い限り、魔力の手で防御しておけば攻撃を無効化できると思うし。

「ヨシ。私たちは少しだけ離れていよう」

「見える範囲に居るからな? 檻に近付きすぎるんじゃないぞ」

「・・・はい」

アッサリと任せてくれたお母様よりも、お父様の方が心配してくれていることに嬉しくなる。

お父様に頷き返して魔力の手を発動する。

これ以上、お父様の心労を増やさないように、不可視の魔力の手を広げて彼女と私の間に置いておく。

ルナリアとノーアの背中を押して廊下の端まで離れて行くお父様たちの背中を見送って、彼女へと視線を戻すと、彼女は首を傾げて私を見ていた。

「よろしかったのですか?」

「・・・問題ないよ。先に言っておくけど、私はこの場から一歩も動かずに、あなたを殺せる。私には暗器も届かないし、毒も効かない」

堂々の”殺せる”宣言に彼女はビクリと肩を震わせて顔色を青くする。

おしろいを塗ったみたいに真っ白けの肌だから、たぶん元々、血色は良くないんだよね。

少し顔色が悪くなるだけで青くなるんじゃないかな。

そこはそれとして、今、自分が言ったことを頭の中で検証してみる。

いや。毒ガスはヤバいかなあ。

偉そうに言っておいて何だけど、液体の直接噴射なら物理攻撃と同じだから魔力の手で防御できても、気体が防げるかは試したことが無かったな。

「私に害意は有りません!」

「・・・うん。そう思ったから、2人で話してみようと思った」

血相を変える彼女にアッサリと頷いて返す。

「フィオレ様・・・」

私の肯定で彼女の表情に表れたのは、安心と喜びと僅かな困惑かな。

このチョロさも間諜らしくないよね。

「・・・それで、誰の命令で来たのかな?」

「秘密でお願いできますか?」

「・・・その必要が有るならね」

必要が有るとは思わないけど、安心させるために言い切る。

数秒間ほど逡巡した彼女は思い切って飛び込むような様子で口を開いた。