軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ㉚

「・・・おっ」

剣が盾に届く距離から打ち付けたり突っついたりと攻撃の隙を窺っていたルナリアが、身体強化魔法を使ったので有ろう動きでピョーンと後退した。

背中に羽根でも生えているかのような身軽な動きで、一足飛びに5メートル以上の距離を取った。

ルナリアの身体能力からすれば控え目な距離だけど、あれは足場が悪いからかな?

乗馬訓練場の地面は馬が脚を痛めないように、砂場というか、柔らかい土になっているんだよね。

よく知らないけど、こういうのって“ダート”って呼ぶんだっけ?

私もたまに使うけど、踏ん張りが利かない上に爪先や踵が土に沈み込むから、ただ走るのにも腿を高く上げないといけなくて脚の筋力が要る。

何て言うんだろ。

アレだ。スポ根モノの特訓で砂浜をダッシュする感じ?

夕陽に向かって走るヤツ。

この足場の悪さを考えてルナリアは距離を短く取ったのだろう。

「些か、間合いを取り過ぎでは?」

「・・・違うよ。アレはルナリアの間合いの内側だよ」

私の視線を追ったエターナさんが困惑の声を上げ、私は首を振る。

エイラさんからすれば追っても追いつけそうにないし、待っていれば近付いてくるんだから追わなかったのだろうけど、ルナリアを相手にアレは悪手だよ。

完全には追いつけなくとも、距離を詰めて出来る限り間合いを潰しておくべきだった。

逆にルナリアは、あの足場の悪さでどれだけ普段通りの動きが出来るかかな。

左手を前に、脇に構えた右手に木剣を握り、低く腰を落としていたルナリアの上体がコケそうなほど前へ傾いた。

「・・・よく見てて」

「えっ? は、はい」

バッと土煙が舞ったと思った瞬間、全てを置き去りにしたルナリアの姿がエイラさんの至近に有った。

少し離れた距離で見ている観客たちもルナリアの姿を見失ったようだ。

「は、速い!!」

ルナリアの進路はエイラさんの左側だ。

構えた盾の上から覘いていたエイラさんが目を瞠って驚きの声を上げ、ルナリアの接近を阻止しようと体を開く形で盾パンチを繰り出した。

腕の動きに追従しようとエイラさんが体の向きを変え始めたところで、再び土煙が舞い上がってルナリアの姿が消失した。

「フッ!!」

短く息を吐いて、至近距離での横の動き。

目で追えないほどの速度で右側へ横滑りしたルナリアの正面には、完全に盾の陰から出て体の側面を晒したエイラさんが居る。

ルナリアから見れば、右側へ入れたフェイントからの左側へサイドステップ。

エイラさんが右手の木剣を払う形で振ろうとするけれど、それよりも先にルナリアの木剣がエイラさんの喉元へピタリと突き付けられた。

愕然と目を見開いたエイラさんが凍り付いたように体の動きを止めた。

あまりのスピードと変則的なフェイント機動に、呆気に取られていた観衆たちも静まり返っている。

「ま、参りました・・・」

「フィオレ! 勝ったわよ!」

木剣を握った右手を高く突き上げたルナリアが、なぜか私にだけアピールしてくる。

可愛いなあ、もう。

我に返った観衆の間からドッと歓声が上がって上機嫌のルナリアが応えている。

しっかりと目で追えた人は少なかった様子だけど、状況を理解して大盛り上がりだ。

ぺちぺちと拍手しながら、エターナさんを引き連れてルナリアたちの下へと歩み寄っていく。

「・・・わー。すごいすごーい」

「軽いわね! ホントにすごいと思ってる!?」

ルナリアから抗議が飛んできた。

勝てると踏んだから模擬戦を挑んだのだろうから、私としては驚きも感動もすごく薄いんだよね。

そりゃあ、ルナリアが勝ったことは嬉しいけどね?

タネが分かってる手品を見て驚きや感動を覚える人は居ないだろう。

これって一種の“初見殺し”でも有るから、訓練風景を見慣れている私の感動が薄くなるのは仕方がないと思う。

「・・・思ってるに決まってるじゃん」

「むふー」

チョロかわ。

ご満悦で反り返ったペッタンコ奉行は横に置いておいて、ショックを受けているらしいエイラさんにアフターフォローで声を掛ける。

私が模擬戦を頼んだんだしね。

エターナさんに自信を付けて貰ったのに、半分の歳の幼女に負かされてショックを受けないわけは無いだろう。

「・・・エイラさん、目で追いきれなかったでしょ」

「はい。面目次第もございません」

うわー・・・。本当にショックだったんだな。

悄然と小さくなるエイラさんに、そうじゃないよ、と首を振る。

「・・・面目も何も。ルナリアって、こう見えても実力で国王陛下から“疾雷”って“銘”をいただいた期待の剣士だからね?」

「“銘”を? ルナリア様もですか」

顔を上げたエイラさんに頷いて返す。

私が王様から“銘”を貰っていることはエイラさんたちにも伝わってるのか。