軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ⑰

食物連鎖的に考えると、バクテリアみたいなポジションか。

いや。バクテリアの異世界的発達を遂げたのがスライム?

異世界の生態系も謎だからなあ。

馬が多くてエサになる糞が多いウォーレス領はスライムの生息数も多いんだろうか?

衛生管理に関する私の心配が杞憂だったことは良いとして、スライムも謎が多そうだな。

どんな生物だって、食料が豊富だったり天敵が少なかったりすれば、生態系のバランスを崩すほど爆発的に増殖する。

益獣でも数が増えすぎれば害獣になる。

可能性としてウォーレス領のスライム生息数が多い疑惑が出てきた以上、農地開拓に悪影響がある可能性も考慮しておかなきゃ。

「出ましょうか。本当に体が冷えてしまいます」

「そうね! 暖かいお茶が欲しいわ!」

メモを書き纏めたマーシュさんが顔を上げて、ぜんぜん寒そうに見えないルナリアが胸を張って要求する。

新陳代謝が良いせいか子供は体温が高いと言うけど、私もそれほど寒くは感じていないのだから、私も体温が高いのだろうね。

「用意しますね」

「・・・お願い」

レヴィアさんとマーシュさんに背中を押されるようにして屋外へ出ると、私たちの背後でガシャンと重い音を立てて保管庫の引き戸が閉められる。

レヴィアさんがガチャリと施錠する音を耳にしながら目線を訓練場へ向けると、ざわめきというか、ワーワーと歓声のようなものが聞こえていることに気付く。

試合中の野球場やサッカースタジアムの脇を通ったときのような、どこか遠い歓声だ。

「・・・あれ? 何だろう」

「騒がしいわね」

ルナリアとマーシュさんも気付いたようで、訓練場の方に目が向いている。

施錠を終えたレヴィアさんが戻ってきて首を傾げる。

「乗馬訓練場の方へ人が集まっているようですね」

「行ってみるわよ!」

ヤル気マンマンのルナリアの先導で、急ぎ足で厩舎の前を通り過ぎれば、数人の新人さんたちの向こうに訓練場の景色が見えてくる。

んん?

「・・・全体の数も増えてる?」

「また増えてるわねぇ」

ルナリアも同意見のようで、軽く背伸びをして人々の向こう側がどこまで先に有るのかを見渡そうとしている。

背伸びなどせずとも見渡せるレヴィアさんたちは、何らかの状況か特徴から結論を見出したようだ。

「どうやら、第2便が到着したようですね」

「しかし、輜重部隊の姿が見当たりませんから、再出動したのでしょう」

「・・・この時間から2回目に出動するなんて、帰るのが夜中になるんじゃ?」

第2便が到着したのに輜重部隊の姿が無いってことは、またピストン輸送のためにバタバタと出て行ったのだろう。

盗賊や不心得者が活動すれば即刻袋叩きに遭う安全な領内とはいえ、乗客を満載しての夜道は危険ではないだろうか。

荷馬車を連ねての車列は見通しが利かず、街道から車輪を踏み外す可能性だって高くなる。

路肩にガードレールなんて無いし、前照灯を装備した自動車だって、田舎道では田んぼに転落することが有るのが夜道というものなのだ。

もちろん、緊急性が有れば輜重部隊は無理を押して夜道を走ることが有るとは聞いている。

現に、この間の西部国境地帯の戦線では、私が送った新作の干し肉を一刻も早く届けようと夜通し走ってくれたらしいし。

それだけの能力が有ったとしても、リスクを冒してまで実行するべきかと言えば別問題じゃないかな。

思案顔で難民たちを見ていたマーシュさんが口を開く。

「確認してみないと何とも言えませんが、野営するつもりかも知れません」

「野営? 領内なのに?」

目を丸くしたルナリアがマーシュさんを見上げる。

わざわざ領内で野営する意味を考えてみる。

これって、前乗り?

「・・・ははぁ。第4便以降は明日に回すってことか」

早朝から仕事に取り掛かりたいのに現場までの距離が有る場合、会社員だって前日の夜から現地入りして現場近くで1泊することが有る。

それを“前乗り”という。

仕事前から移動で体力を消費するのを防ぐ効果があるから、有りそうだな。

「でも、食料を持ってっていないわよね?」

ルナリアの疑問のもっともだし、私も同意を示して頷く。

まだ道中に有る難民たちが今すぐに必要とするものは何か?

危険を冒してまでの移動だろうか?

野宿の寒さは有るだろうけど、ウォーレス領に入った以上、敵に襲われることはない。

身を寄せ合えば多少は肌寒さは和らぐだろう。

旧エクラーダ王国はリテルダニア王国よりも少し南に位置する国だったはずだから、少しは肌寒く感じるかもしれないけど、リテルダニア王国の国土もそれほど緯度が高いわけじゃない。

そこまで大きく気温が変わるものではないと思う。