軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ⑧

テレサは思ったよりもワールドワイドなんだな。

リテルダニア王国は大国だし、その次期国王が誰になるかという話題は、国境という物理的接点がある小国連合諸国にしてみれば気になるのが当然か。

ただ、遠くまで聞こえている噂話の中身が問題だなあ。

「・・・まあ、お兄ちゃんがアレだし」

「そっかあ」

成人前にして町娘との間に子供を作ったらしい馬鹿ボンボンの話はルナリアも知ってるはずだけど、外国にまで聞こえていることがピンと来なかったかな?

「ところで、姫殿下と同盟というのは、一体?」

「・・・いつか勇王を倒す同盟」

「ね!」

エバンさんの質問にルナリアと顔を見合わせながら答える。

好感が持てるとか持てないとかの問題じゃない。

すでに勇王と神教会は私の周囲に実害を及ぼし始めている。

私はその実害を逆手に取って、美味しくいただいてやろうとしているわけだけど。

今はまだ緩衝地帯となる小国連合諸国が残っているけど、いつ消滅するか分かったものではない。

敵の影は着々と迫ってきているのだと実感する。

「す、すごいですね」

その勇王に実害を与えられた当事者であるエバンさんは、6歳児同盟が殺る気マンマンであることに喜ぶのかと思いきや、困惑の方が大きかったようだ。

こんなの驚くところじゃないよ。

私は直接衝突するその日を見据えて戦力増強と国力増大を進めてるんだし。

あー。またムカムカしてきた。

勇王と神教会め。

ほんと、どうしてやろうか。

ルナリアと私を優しい目で見ていたお母様が、お父様へと目を向ける。

「で? 判断は」

「ふむ・・・」

問い掛けられたお父様の目が私へと向く。

判断というのはエバンさん親子の処遇だろう。

裁定のときを迎えたことを察して私の目もお父様へ向く。

ドキドキする鼓動を飲み込んで、試験の合格発表の気分で姿勢を正す。

お父様と私の間で視線を行き来させていたエバンさんがお父様に問い掛ける。

「判断、ですか?」

「見どころが有る騎士を見つけたと、君を連れ帰ったのはフィオレでな」

お父様の答えにエバンさんが目を瞠る。

「フィオレ様・・・。なぜ私を?」

ん? ああ。エバンさんは倒れてからのことをハッキリと覚えていないのかな?

冗談ではなく死に掛けていたし、仕方ないか。

私の評価がどういったものだったか、明確に示してあげた方が良いのだろうね。

エバンさんの目の前に、ピッと人差し指を立てる。

「・・・あなたは今にも死にそうなときに、自分はもうダメだから娘を頼むと、回復薬を飲むのを拒否しようとした。先ず、それが一点目」

「それは・・・」

お。そのことは覚えてたか。

対象が誰か、という部分は横に置いたとして、自己犠牲の精神を持ち合わせていることは見せて貰った。

中指もピッと立ててVサイン。

「・・・あなたは騎士の魂で有る剣を捨ててまで最重要の目的を果たそうとした。その結果、娘さんを守りきった。それが2点目」

「―――ッ!!」

エバンさんが目を見開く。

農民を装って国を離れたことを気にしてるのかな?

まだ勝ち目が有る戦いの最中に仲間を見捨てて敵前逃亡したのなら、私も軽蔑するけどね。

詰め将棋で詰んだ後に全滅するまで戦うのが美談なのかと言えば、私はそれを美談だとは思わない。

詰んだ時点で詰め将棋はゲーム終了済みだからだ。

王将を討ち取られた時点でサバイバルだよ。

サバイバルってのは、生き残らなければ意味がないのだ。

途中経過ではなく「生き残った」という結果が全てだと私は信じている。

薬指もピッと立てて3本目。

「・・・そして、あなたは、娘のためを思うなら生き延びて見せろと私が言ったときに、根性を見せて回復薬を飲み、解毒の痛みと苦しみに泣き言ひとつ言わず治療が終わるまで耐えきった。これが3点目。なかなかの見どころだと思うよ」

「フィオレ様・・・!!」

ダバダバと滝のように涙を流すエバンさんに苦笑する。

本当に喜怒哀楽の振れ幅が大きい人だな。

騎士様や兵士さんでは珍しいタイプじゃないけどね。

この感情の発露をパワーに変えるタイプの人なら、予想を上回る根性を見せてくれるんじゃないかな。

同じように苦笑していたお父様が表情を改める。

「とはいえ、フィオレは女性で、男性の君をフィオレの側近に付けるわけには行かん。それはエウリとエングも同じだな。そして、フィオレにはアスクレーという許婚が居る。アスクレーはフレイアの妹の次男でな。アスクレーを婿に取ることは、ピーシス家の血を継いでいないフィオレがピーシス家を継ぐための条件なのだ。フィオレが今の地位を維持するために、何が有ってもアスクレーを守らねばならん」

袖口でグイッと涙を拭ったエバンさんが、大きく息を吸ってお父様に向き直る。

エバンさんの充血したそれは、使命を果たさんと覚悟を決めた人の目だった。