作品タイトル不明
精霊姫 ㉙
ありがと。ルナリア。
私も腹が決まった。
負ける気がしなくなったよ。
弱気になっちゃダメだよね。
「・・・始めよう」
「うん!」
一緒に突き進んでくれるルナリアと2人で、壇上へと上がる階段の踏み板に足を載せる。
どうよ。この無敵感。
私が道を間違えそうになったら、きっとルナリアが止めてくれる。
私が怖じ気付きそうになったら、きっとルナリアが背中を押してくれる。
私が力及ばず打ち負けても、私たちの後ろにはお母様たちが居る。
私は前を向いて、立ち塞がるものを全力で薙ぎ倒せば良いんだ。
昭和の特撮大怪獣じゃないけど、私たちの行く手を遮る障害は踏み越えて乗り越えて罷り通る。
壇上へと上がるとディディエさんたち3人の背中、というか、お尻が目の前に並んでいる。
丁度いい高さだね。
「そのとき、フィオレ様は―――」
「・・・長い!!」
ルナリアと私が真後ろに立っていることにも気付かず壁を形成しているディディエさんとダーナさんの尻たぶを、ベシッ! ベシッ! とビンタする。
「「はああ~っ!! ありがとうございましゅううううっ!!」」
左手を胸元に、右手を天へと差し伸べて、オペラ女優のように語っていた2人の口からエロ臭く蕩けた声が出て、ようやく目の前が開ける。
まったく何の伝道師だよ。
そういえば、ハリセンを作るの忘れてたな。
いちいち私の手で引っ叩くのは私の手も痛いしなあ。
今後も必要になりそうな気配が有るから、今度という今度はハリセンを作ろう。
画用紙は無くても羊皮紙でなら作れるはずだ。
「皆、崇めなさい! フィオレ様こそが―――」
「・・・もう良いから!!」
いつの間にか抜き放っていた腰の剣を掲げながら勇ましいポーズを格好良くキメているエターナさんの尻たぶも、ベチッ! と叩いたけど、何だコレ!?
「光栄でありますっ!!」
「・・・痛ったぁ・・・」
予想外の痛みに、引っ叩いた手をプラプラと振る。
感激に目をキラキラさせているエターナさんのお尻はメッチャ固かった。
叩いた私の方が涙目だよ!
筋肉!?
その固さ、筋肉かな!?
間違えて石像でも叩いたのかと思ったよ!!
エターナさんは早くも馴染みつつ有る武装メイドスタイルだから、甲冑を身につけている様子も無いし、筋肉なんだろうなあ。
くっそう。私の手ではエターナさんの尻には勝てそうにない。
尻たぶをビンタしても、まるで効いてる様子が無いもの。
旧日本軍兵士みたいな返事しやがって、その尻の固さは精神注入棒を弾き返すためのものか?
どこかの私塾名物の根性バッタかよ。
何だったかの質問をネット掲示板でしたら「民明書房の何とかいう本が詳しいから」って嘘を教えられて、図書館で見つからなくて司書さんに訊いたら「これじゃないですか?」ってネット検索で出てきたのが、その何とか塾だったときの恥ずかしさときたら。
そのときの画像検索に出てきた一つが「根性バッタ」だよ。
騙されたときのことを思い出したら、また腹が立ってきた。
ピーシス家精神注入ハリセンの開発が急務だと再確認が取れたところで、私たちの視界が完全に開ける。
ディディエさんたち3人が一歩後ろへ下がり、私の隣で反り返ったルナリアが仁王立ち奉行になる。
障害物が無くなれば、多くの視線に私たちの姿が晒される。
いけない、いけない。ハリセンの話は後だ。
意識を切り替えて前へ踏み出すと、ざわざわと難民たちの間からざわめきが上がって、熱を帯びた視線が集中する。
「精霊姫様だ!」
「姫様がお戻りになったぞ!」
「有りがたや有りがたや」
「・・・うっ!」
喜びに満ちた大きな声が響いて、他の人たちにも伝播しそうな気配を感じてたじろぎそうになる。
訓練場に戻ったときの人たちとは違う人たちだけど、声が大きいんだよ!
仏像の前で手を合わせるご老体みたいに、両手の指を組み合わせて私に向かって祈り始める人が何人もいるし!
私は生き仏でも即身成仏でもないよ!?
ぐぬぬ・・・! 負けないぞ!
こうなったら各個撃破で怯ませてからの全体攻撃だ!
雉も鳴かずば撃たれないんだよ!
「・・・そこ!! 精霊姫禁止!!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
ビシッと指して禁止命令を出すと、大きな驚きの声が上がる。
もう、遠慮も気遣いも無しだ。
「・・・そこも!! 今から炊き出しをするけど、次に私を精霊姫と呼んだら他のみんなも配給の割り当てを減らすからね!!」
「「「「「えええ―――ッ!!」」」」」
別の人もビシッと指して連帯責任での禁止命令を下すと、悲鳴のような大声があちこちから上がる。