作品タイトル不明
精霊姫 ㉘
「・・・あの。これって、どういう状況からこうなったのですか?」
「貴女が守ってくれるから安心しろと3人が演説を始めたのよ」
「・・・私がですか?」
「守ってあげる」なんて言った覚えは無いけど、何で私の話になったのかが見えないな。
頭痛を堪えるように首を振るセリーナお婆様に代わって、困った表情で頬に手を添えたシェリアお婆様が口を開く。
「貴女の姿が見えなくなったでしょう? 監視の兵に囲まれたことで不安になったのかも知れませんね」
「・・・はあ」
シェリアお婆様も「誰が」と主語を言わないけど、省略された主語が何かは理解できる。
難民たちが落ち着きを無くし始めたから、3人が宥めに入ったと?
たぶん、そういうことなのだろう。
まだ壇上で私の武勇伝らしきものを恍惚とした表情で熱く語っている3人の背中を見上げる。
この3人、仲が良いな。
こんなに仲良しだったとは知らなかったよ。
深夜のテレビショッピングみたいな小芝居まで織り交ぜて語っている。
「こんなに凄いんです!」、「ええっ!? 凄いですね!!」みたいな感じのヤツ。
何なんだ、この迫真の茶番。
先輩のディディエさんたち2人が新人のエターナさんを威嚇しているような気配も有った気がするんだけど、私の気のせいだったみたいだね。
シェリアお婆様が壇上の3人に諦めの視線を向ける。
「どれほど貴女が素晴らしいかと語り始めたから止めようかと思ったのですけれど、落ち着きを見せ始めたから様子を見ていたら止めようが無くなった感じです」
「・・・大体の状況は何となく分かりました」
この状況をどう活かすか、に思考を切り替える。
止められないなら活かすしか無いからね。
活かす道を選ばないなら流血を覚悟して制圧するしか無くなる。
この状況は「神輿」に祭り上げられた状態だ。
神輿というものは「結束の象徴」であり、集団を導き、進むべき方向を示す「指針」とも言える。
戦争という恐怖体験を経て不安に怯える難民たちにとっては、何も見えない暗がりの海で見つけた夜空に輝く北極星のようなものだろう。
これが滅んだ旧エクラーダ王国の再興を目指したものなら私も全力で否定するけど、ウォーレス領と新領地を守り国力を高めるために利用できるなら、悪くない状況なんじゃない?
「・・・乗っかるか」
正直、怖さは有る。
群集心理がウォーレス家や王国が目指すものとは違う方向へ転んで火種になるのでは無いか。
旧エクラーダ王国がヤラレたように、外部からの煽動で方向性を歪められるのでは無いか。
そうなったときに、私という存在が家族や大切な人たちの足枷になるのでは無いか。
もちろん、そんな事態にならないように説得するし、万が一の際には私が防波堤になる覚悟は有る。
言うことを聞かないなら魔力の手で引っ叩いて回るし、最後の最後は“蒼焔”で焼き払ってでも暴走はさせない。
どんな非難を浴びようとも、私は私の大切なものを守り抜く。
でも、否定まではしなくても、私自身は肯定せずに、使える部分だけを利用するのは「有り」だろう。
ディディエさんたち3人が盛り上げて仕上げた舞台を崩さずに、難民たちの意識を結束と助け合いに向けて、すべき役目を個々に担わせる。
「・・・・・」
ゴクリと生唾を呑む。
実際、我欲塗れの私は聖人君子じゃないし、神格化されて暴走されるのは困るけど、私が神輿になることで人々が生活の安定を得るまでの支えにはなるのだろう。
大事なのは、要所要所で締める統制と、間違った方向へ人々を煽動されないためのコントロール。
私がお手本にすべきは、お母様たちだ。
私という異物を受け入れ、導き、共に歩み、見守り続けてくれた。
私の意見を聞き、一緒に考え、ときに叱りながらも自由にさせてくれた。
尊敬に値し、大切にしたいと思わせてくれた、私の大切な人たち。
指針なら私の目の前に示されている。
私はお母様のようになれば良いんだ。
お爺様たちのように強く大きな背中を見せ、お父様のような包容力を持ち、お婆様たちのように賢く、ミリア叔母様のような行動力を見せつけ、エゼリアさんたちのように明るく支えればいい。
「・・・大丈夫。やれる」
キッと壇上を見上げて一歩踏み出そうとしたとき、握りしめていた拳の上から包み込むように握られた。
軽い足音をさせて隣に立ったルナリアだ。
ルナリアは私と一緒に壇上へ上がってくれるつもりらしい。
「わたしが付いてるんだから、大丈夫よ!」
トンと肩をぶつけられて、トンとぶつけ返す。
顔を見合わせて、ルナリアと2人でブフッと吹き出す。
そっか。私一人で気張る必要は無かったね。