作品タイトル不明
精霊姫 ⑦
おや? そう言えば、領軍の兵士さんたちが見当たらないね?
予想していた難民が押し寄せているのだから治安出動してくるはずだけど、姿が見えないこの状況は、一体?
そんなことを考えていたら、10メートルぐらい先で沿道に立っている難民たちの一角が揺れた。
「お父さん!!」
悲鳴のような若い女の子の叫びと大きな響めきが耳に届いた。
道路際に立ち並んでいた人々が一様に後ろを向いて、押し出されるように路上へはみ出してくる。
「・・・ん?」
「どうしたのかしら」
あれって、誰か倒れた?
尋常ではない切迫感を感じる。
「・・・止まって!!」
「あっ! フィオレ!?」
特製の鐙を伝い下りるのももどかしく、鞍から飛び降りて駆ける。
ええい!! 邪魔!!
「・・・退きなさい!! 道を空けて!!」
「ふ、フレーリア様!?」
「・・・良いから退きなさい!!」
フレーリアじゃないよ!!
言い返したいけど、恐らく、今はそれどころじゃない!!
今もまだ、父親を呼ぶ涙混じりの女の子の声が聞こえてるんだから!!
全力疾走してきた私の怒鳴りつける勢いに、わらわらと人垣が割れる。
人々の隙間に見えたのは、予想通りの光景。
倒れている男性と、男性に縋り付いている彼の娘なのであろう女の子の姿だ。
「お父さん!! お父さん!!」
「・・・退きなさい!!」
「あっ!」
襟首に手を掛けて、力任せに娘を引き剥がして尻餅をつかせる。
ごめんね。
娘が引っ付いていては男性の状況を確認できない。
家族が心配だろうけど、邪魔なものは邪魔なんだよ。
「・・・しっかりしなさい!! 聞こえる!?」
「フレー・・・リア・・・様?」
「・・・見るよ!!」
薄く目を開けた男性の声を無視して、「引っ剥がすぞ」と宣言する。
一応、まだ意識は有ったか。
でも、声が弱々しくて、呼吸も消え入りそうに細い。
羽織っている外套の裾を捲ると、内側に着ている麻生地のシャツに黒っぽい血が滲んでいる。
「―――ッ!!」
黒っぽい血? 違う。
血が黒っぽいのではなく、滲んだ血が古いんじゃない?
ズボンの中に押し込まれているシャツの裾を引っ張り出して捲り上げる。
「・・・やっぱり」
ググッと自分の眉間に力が入るのを感じる。
斬られた傷だろうか?
6つに割れてなかなかに引き締まった感じの腹部に、包帯? サラシ? が巻かれていて、脇腹の結構大きな範囲に赤黒い血のシミと細胞液っぽい液体がジュクジュクと染み出している。
「・・・この傷、いつの傷?」
「も、もう3ヶ月前の・・・」
「・・・3ヶ月!?」
私の問いに答えたのは、真っ青な顔で涙塗れになっている娘さんだ。
どれだけ深い傷でも、適切に止血処置や治療がされていれば、3ヶ月間もあれば血は止まる。
それが止まっていないと言うことは、何度も傷口が開いたか、それとも傷口が膿んで腐敗しているかじゃない?
そもそも、適切な治療が行われなかった可能性も有るのか。
どうすればいい・・・?
私は医者でも何でも無いから、自分の体験とネット上で読み囓った半端な知識しか持っていない。
それでも、何も知識が無いよりはマシだ。
私が持っている外傷治療の知識と言えば、傷口の洗浄や傷口の縫合や薬剤の塗布ぐらい。
それも知識だけで、私は傷口の縫合技術なんて持っていないし、薬剤と言ったって傷口の無菌状態を維持するために抗生物質の 膏薬(こうやく) を塗ることぐらいしか知らない。