軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二次ブートキャンプ ⑩ アンサンブルキャスト面

ただでさえ、マークスの暗殺が白日の下に晒されて、ウォーレス血族は暗殺に対して敏感にならざるを得ない状況にある。

そして、そこへ巨大慰霊碑に城壁の移動にご祈祷での精霊騒ぎだ。

ルナリアとフィオレの価値が暴騰していることは疑うまでもないし、ハロルドが憂鬱な溜息を吐くのも無理はない。

息子の様子を目にしたセリーナが苦笑を浮かべた。

「ルナリアのことはテレサの件が片付いてからにしましょう」

「数日中にドネルク閣下が来るのだったか?」

「バルトロイもだな」

シェリアの話題転換に、気分を切り替えたらしいハロルドとフレイアも乗る。

セリーナは壁際に控えているエゼリアとアンリカに目を向ける。

「エゼリアとアンリカの正式な婚約になるわね」

「そういうことなのですから、あなたたちも、今後はちゃんと一緒に食事を摂りなさい」

「「はい」」

家系上の母となったセリーナと教育上の母を務めてきたシェリアに見据えられて、横目でチラリと顔を見合わせた二人が観念したように返事をした。

フレイアの世話に併せて幼少の頃から面倒を見てきた二人の様子に、エルザの口元にフフッと笑みが浮かぶ。

主の傍に控え続けた長年の慣れも有るのだろうが、共に食卓を囲む面々が怖い目上ばかりなのだから、尻込みしたくなる気持ちはエルザにも理解できる。

だが、ウォーレス家の養女に迎えられた上で他家へ嫁ぐのだから、短期間とはいえ、娘となった以上は家族として振る舞うのが筋で有ろう。

「ルナリアとフィオレは、採掘場だったな」

「新兵を鍛えにな」

ハインズの確認にハロルドが答え、フレイアが補足する。

「早めに帰ってくるんじゃないか」

「なぜだ」

「今日は訓練にならんだろう。領軍の荷馬車を10台、出させたらしいしな」

フレイアの予測にハインズが首を傾げ、今度はハロルドが補足する。

これは思っていたよりも熟練の夫婦のようだと、ハロルドとフレイアの呼吸の合い方にエルザは感想を抱いた。

「魔力酔いか?」

「恐らくな」

荷馬車の意図に気付いたらしいハインズの確認に、当たり前のように頷きながら答えたハロルドは、適度な大きさに切った 燻製肉(ベーコン) を口に放り込んでいる。

「あの。その“魔力酔い”とは何なのでしょうか?」

「魔獣の血を飲み始めた者が過度な摂取を行うと、体内魔力が飽和状態を起こして酩酊、あるいは昏倒する、と言えば理解しやすいか?」

エルザが疑問を投げ掛けるとマルキオが説明してくれた。

エルザは耳にしたことの無かった症状だが、ここまでスラスラと概要の説明ができるということは、以前から症状の記録が残っているものでは有るようだ。

「人体に危険は無いのですか?」

「フィオレが何度も同じ症状を起こしているが、毎回、体内保有魔力量が増える程度だな。特に健康への害が無いことはフィオレが身をもって証明している」

「そ、そうですか」

平然と言うフレイアの態度に、昔よく落とした溜息が出そうになる。

この言い方は、現在進行形で「実験」の真っ最中らしい。

フレイアも、よく自身を実験台にしていたものだ。

その実験に付き合わされていた被害者の代表格がエゼリアとアンリカで、目を回してひっくり返った三人をエルザが抱えてお屋敷へ駆け戻ったことも二度や三度では無かった。

ウォーレス血統は実力主義で、実利を重視する自由な気風を持っているが、フィオレは大事なピーシス家の跡取りで、曲がりなりにも公式には現当主のはずだ。

しかし、誰もが「何を今さら」といった反応でフィオレの行動を咎めようとする様子がない。

フレイアだけなら、その反応も分かる。

ところが、シェリアも、セリーナまでもが同じ反応なのだ。

フィオレの影響力はエルザの予想を遙かに超えるものらしい。

それで良いのか? という思いと、何をやっているのやら、という思いで、渦中の人となったエルザは頭痛を覚えざるを得ない。

多数の昏倒が予想される訓練を任される立場になるのは自分なのだから。

エルザの心情を他所にフレイアは楽しげに笑う。

「ピーシーズだけでなく、問題が残った者は一人も出ていないから心配するな」

「は、はあ」

問題が残っては大問題だろうに。

たまたま今まで問題が残らなかっただけかも知れず、今後も問題が残らないとは限らない。

大変な仕事を引き受けてしまったのでは? と、エルザが後悔したところで、ハインズにまでエルザの承諾が伝わってしまっている以上、後の祭りというものだった。