軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二次ブートキャンプ ⑦ アンサンブルキャスト面

「あの光が森へ帰って行ったように見えたのだから、可能性は高いのか」

「エルザ。精霊とは、どういったものなのだ?」

ハインズの根源的な問いにエルザは首を振る。

「分かりません。ただ、祝詞から読み取るので有れば、精霊様は万物に宿るもので有り、人間の身にも宿るものなのではないかと」

無数の光が現れはじめて束の間、フィオレは気付いていなかったように見えた。

慌てるような素振りを見せつつも祝詞に集中しようとしていたように思う。

徐々に動揺が大きくなって、フィオレは 頻(しき) りに自分の胸を見下ろしていた。

そこから予想されるものは、精霊は人の体内に宿ることができるのではないかという仮説だ。

あのとき何が起こっていたのかは、フィオレに直接訊いた方が早い。

エルザと同じ結論に至ったのか、マルキオが質問を変えてきた。

「そもそも、あの祝詞とは、いつの時代から有るものなのだ?」

「初代様の時代には伝わっていたものだと、私も母から聞いただけで詳しくは存じません」

エルザの実家はウォーレス血統の中でも古い傍系だ。

代々、祈祷を行う際の祭司を任されていて、祝詞と手順だけは伝わっていた。

「レティア卿が書き残した走り書きにも“祈祷”の文字は有ったな。予定の覚え書きか何かだと思うが」

「そう言えば、そうですね。私も見た記憶が有りますよ」

記憶を探ったフレイアとシェリアがエルザを補足する。

ウォーレス家本家に伝わる文献にも目を通している二人が言うのなら間違いない。

エルザが聞いている情報と齟齬が無かったことに胸を撫で下ろす。

だが、それらはハインズたちが抱いている何らかの懸念を払拭する情報では無かったようだ。

「「むう」」

「人間に害の有るものなら、エルフ族は長生きしていないんじゃないか?」

難しい顔で唸る老将たちに、何の懸念かを読み取ったらしいフレイアが宥めるような口調で言った。

「害」・・・?

ああ、なるほど、とエルザは頷く。

ハインズたちは孫娘たちの健康を心配していたようだ。

「ふむ。それもそうか」

フレイアの読みは的中していたようで、ハインズもマルキオも表情を緩めて頷く。

敵軍から悪鬼のように怖れられる二人が揃って祖父の顔をしていることに、エルザの肩からも力が抜けた。

ここでシェリアが学者の顔になる。

「エルフ族は非常に強力な術式を用いたと言いますからね。力加減が分からないと何度かフィオレが言っていましたし」

「精霊術式か」

20年経ってもシェリアは何も変わっていないらしい。

学術的な興味を引かれれば、途端にシェリアは生き生きとし始める。

しかも観察対象は自らの孫娘だ。

可愛がっている様子でも有るし、存分に観察することだろう。

シェリアの推論にマルキオが首を傾げる。

「ならば、あの異常に強力な術式の効果も頷けるか?」

「フィオレのアレが精霊術式かと言えば、それはどうだろうな」

シェリアとマルキオの推察にフレイアが異を唱える。

知識の興味が魔法術式に振り切っていたフレイアは、魔法術式に関してはシェリア以上の見識を持っている。

「ただの無詠唱術式だと?」

「詠唱を必要としていないだけで、正確には詠唱術式と同一の構築方法だぞ」

フレイアの見解にエルザも驚く。

ピーシス領での一件では気付かなかったが、フィオレは無詠唱行使を身に付けているらしい。

フレイアは王都の学術研究院に術式研究者として招かれるほどの才女だった。

フレイアが無詠唱行使を確立したのは8歳―――、いや。7歳の頃だったか。

かつてフレイアが書いた論文の一節をシェリアが諳んじる。

「詠唱術式は現象と効果を明確に想起させるためのもの、だったかしら」

「私は論文に、そう書いたな」

照れくさそうなフレイアに、マルキオが追撃を入れる。

「逆説的に、現象と効果を明確に想起できれば詠唱は必ずしも必要ではない、だったな」

「もう20年近く前の論文なのに、よく覚えていたな。私は今でも間違っていないと考えているぞ。フィオレからも聞き取ったが、同じことを言っていた」

フレイアが苦笑したように、マルキオも、よく20年近くも昔の論文の一節を覚えていたものだ。

養女に取った頃はフレイアから逃げ回っていたくせに、マルキオはフレイアが可愛くて仕方がなかったのだろう。

そのことを知るエルザの口元にも笑みが浮かぶ。

論文の一節を噛みしめるようにしたセリーナの目がフレイアへと向く。