軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての新年 ⑤

「あら。ルナリア様、フィオレ様」

「こんばんは!」

許可を貰って入室すると、私たちに気付いたエルザさんの方から声を掛けてくれた。

「・・・こんばんは、エルザさん。おお。コーネリアさんも」

「ええ。こんばんは」

柔らかに笑うエルザさんの向こう側には、ニコリと笑って頭を下げるコーネリアさんの姿も有った。

お二人に挨拶すると、お母様にチョイチョイと手招かれる。

私たちは、そっちってことね? 了解。

ルナリアの袖を引っ張って誘導する。

お婆様たちのソファーの後ろを回り込んで、お母様の隣のソファーに腰を下ろす。

「フィオレ様。拝見しましたよ。素晴らしい慰霊碑ですね」

「・・・ま、まあ、神教会には負けたくなかったので?」

私の言い分が面白かったのか、エルザさんがコロコロと楽しそうに笑い、コーネリアさんが俯いて肩を震わせる。

そんな理由であれほど巨大な慰霊碑になったのか、って感じかな?

本当のところは、お婆様たちに褒められたかったのが一番の理由だったんだけど、お婆様たちが居る場だし、真実は伏せておこう。

一通り笑ったエルザさんが目を細めて私へ視線を向けてくる。

「今、セリーナ様にご提案していたのですけれど、ご祈祷の祝詞を、ルナリア様とフィオレ様もご一緒しませんか?」

「・・・祝詞を?」

エルザさんが慈母のような笑みで不穏なことを言い出したな。

私たちに巫女さんみたいな真似をしろと?

呪術師の真似事じゃないよね?

だって、ルナリアも私も威厳みたいな成分は1ピコグラムも持っていないもの。

いや、そうでも無いか。

ルナリアはツルペタ奉行の威厳をちょくちょく主張してるものね。

ルナリアは何をさせても可愛いから巫女さんをさせても大丈夫として、それで良いの? と、お婆様たちとお母様へ目を向けると頷いている。

むむっ。期待されてる!

殺(や) れと言われれば 殺(や) らざるを得ないな!

字が違った気がするのは私の思い違いだろう。

子供の発表会を楽しみにする親のような目を向けられると、そんな目を向けられたことの無い人生を送った私としては拒否するという選択肢は無くなってしまった。

一人では自信が無いのか期待感の籠もった目で見てくるルナリアに、「 殺(や) ってみる?」と視線で問えば、「 殺(や) ったるでー!」と書いてある顔で表情を輝かせる。

ほんと、 愛(う) いやつめ。

ルナリアが 殺(や) りたいなら、私の答えもイエスだ。

エルザさんへと視線を戻す。

「・・・祝詞ってどんなの?」

「万物の魂は精霊の下に生まれ、精霊の下に還るものなり。暁と共に―――」

「・・・ちょ、ちょ、ちょっと待って! ミセラさん、紙とペンを!」

これ、絶対に長いヤツだ!

カンペ(カンニングペーパー) が無いと無理だと私の 本能(ゴースト) が告げている!

本能って何か? 野生児の勘だよ!

即座に一時撤退を決めて、なおかつ諦めない私の判断の早さに、エルザさんだけでなくお婆様たちも笑っている。

お母様? 爆笑だよ。

「どうぞ。こちらに」

「・・・ありがと! もう一度お願いします!」

袖口のボタンを外すのが面倒だから捲れていないけど、気合いを入れる意味で腕捲りの仕草をして、ペンを握った私は前のめりでテーブル上の紙と対峙する。

「では、もう一度最初から 諳(そら) んじますね」

ニコリと笑い返してきたエルザさんが静かに歌うような言の葉を発した。

アカペラで歌う聖歌のように伸びやかな声がティールームに響く。

「――― 万物(ばんぶつ) の魂は精霊の下に生まれ、精霊の下に還るものなり。 暁(あかつき) と共に目覚め、 宵(よい) と共に眠る。風と共に歌い、土と共に生きる。水に癒やしを得て、火に営みを得る。 吾(われ) ら、 吾(わ) が身に宿りし精霊に恥じぬ 生(せい) を生き、精霊と共に歩まん。 吾(わ) が身の精霊を 傷(いた) ましむこと無かれとす。この故、このときに、清く潔い 詞(ことば) あり。清く潔ければ、 穢(けが) るること無し。 吾(われ) らは常に精霊と共に在り。精霊と同根なるが故に、万物の精霊と同体なり。万物の精霊と同体なるが故に、労を終えし魂の静め鎮まるを願い奉らん。幾千幾万の日の果てに、再び相まみえんと願い奉らん。この新しき 歳(とし) に精霊の加護を賜らんと願い奉らん」

「・・・むむむむ。・・・精霊の加護を賜らんと願い奉らん、っと」

終わり? 終わりかな?

ふううううう・・・。

みんなは目を閉じて気持ちよく聞いていたみたいだけど、私はそれどころじゃ無かったよ。

長っげええええ! とか、書き上げた紙面を見て思うけど、書き取っている間はペンを動かすのに必死で、余計なことを考えている僅かな余裕も無かった。