作品タイトル不明
城壁移設 ④
「・・・それと、ウォーレス領では領民全員が戦闘要員だから、覚悟しておいてね。これは今後のピーシス領でも同じにして行くから、有事に自分の家と家族ぐらいは自分で守る根性を持てって言っておいて。もう故郷や家族を失いたくないでしょ?」
「そうですね。仰る通りです」
ピッと人差し指を立てて言うとフフッと三人が笑って頷く。
笑い事じゃあ無いんだよ?
何から何まで戦争に備えることを中心に回っているウォーレス領の思想には、私だって驚いたぐらいなんだから。
お節介だけど、ここが分かっていないとウォーレス領に馴染めないだろうし、ここさえ分かっていればウォーレス領に馴染めると思う。
他に何が有ったかなー、などと記憶を探っていたら、お母様からジト目が飛んできた。
「フィオレ。そのぐらいにしておけ」
「・・・あっ。ハイ」
調子に乗りすぎたか。
ああ、でも、これだけは伝えておいてあげなきゃ。
「・・・あと、近いうちにピーシス領軍の騎士採用試験と兵士の徴募もするから。落ち着いたら鍛え直しておくと良いよ」
「はっ! ありがとうございます!」
答えたのはエウリさんだったけど、他の二人も嬉しそうに頷いている。
新領地の騎士様たちも採用試験は嬉しそうにしてたからね。
「少しはマシな顔になったではないか」
「は。お恥ずかしい限りです」
大人の余裕を感じさせるハインズお爺様の笑みに、本当に恥ずかしそうなエウリさんが小さくなる。
まだ若い騎士様なんてものは、お爺様たちから見れば子供みたいなものだろうからね。
「なに。エクラーダからの民にも働きを期待しておる」
「精一杯、お仕えさせていただきます」
お。エウリさんは理解力が高そうだね。
ピーシス家に勤めても指揮系統はウォーレス家が上位だ。
別の家と考えるから違和感を覚えるので有って、ピーシス家はウォーレス家の一部だと柔軟に考えれば違和感は無くなる。
エウリさんはウォーレス領に馴染めそうだと安心していると、お父様が直近のスケジュールに言及した。
「直ぐに民へ知らせに戻るのか?」
「そのつもりです」
使命感に燃える目で頷くエウリさんに、お父様は思案顔で顎先を撫でる。
「そうか。一晩泊まってから発っても良いだろうに」
「何か有るのですか?」
首を傾げる三人組に、お母様が悪戯っ子のような笑みで笑い掛ける。
「明日の午前中、町の拡張で城壁の移動を行う。フィオレの術式を見られるぞ」
「じょ、城壁の移動ですか?」
三人組が揃って目を剥いた。
なるほど。私も驚いたけど、普通じゃ無かったわけだ。
地球でも“曳家”って建物丸ごとを油圧ジャッキで持ち上げて移動させる技術が有るけど、大きくて重い建物を壊さないように移動させるとなれば、高額な費用と時間が掛かる一大事業になるからね。
エウリさんの問う視線に苦笑するお父様が頷いて返す。
「うむ。一部を切り離して、城壁の一面を500メテル移動させる」
「その大規模術式をフィオレも行う」
お母様から再度の宣伝に三人組が血相を変えた。
「まさか! フィオレ様は、まだ5歳では!?」
「お前ら、城門前で馬鹿デカい石碑を見ただろう? 昨日、あれを作ったのはフィオレとルナリアだぞ」
明後日で6歳だけどね。
うーん? 三人の大袈裟な驚き方も謎だけど、お母様の売り込みも謎だな。
これはアレか? 授業参観的なノリの娘自慢だろうか?
外国の常識を私は知らないから何とも反応し辛いな。
「わたしは碑文? を書いただけだわ! 建てたのはフィオレ一人よ!」
「あ、あれをフィオレ様お一人で?」
ルナリアの余計な主張で三人組が余計なところに食い付いた。
ビックリした顔で私の顔を見られても、何とも答えらんないよ?
娘自慢共謀罪のお父様が大きく頷く。
「そういうわけだ。折角だから見て行くと良い」
「は。では、そうさせていただきます」
お父様は娘の発表会のノリなんだろうか?
勝利を勝ち取ったお父様が涼しい顔で背後へ顔を振り向ける。
「ワールター。部屋を用意してやれ」
「承知しました」
微笑ましそうに笑みを浮かべたワールターさんがチラリと目線を遣れば、無言で小さく頷いたミセラさんが音も無く扉を開けて退室していった。
完全に客人扱いだと気付いたエウリさんが血相を変える。