作品タイトル不明
西方よりも ⑦
地中に広く魔力を浸透させつつ、4本の棒で囲った正方形の敷地へと目を向ける。
この正方形を真っ直ぐ岩盤まで伸ばした範囲をギュッと固めても良いんだけど、地表を起点として角度が1度でも傾けば、地下50メートルだと1メートル弱のズレが生じる。
さらに地上50メートルまで伸ばせば、1度の傾きで生じるズレは2メートル弱にもなってしまう。
だったら、余裕を見て30メートル四方の四角柱にしてしまえば地中分の誤差は無視してしまえるな。
岩盤の表面から地上まで、正方形よりも二回りほど大きな範囲を含めて、浸透させた魔力を高めていく。
「あっ! ほらほら、見て! スライムが逃げようとしているわ!」
「・・・えっ。スライム? どこどこ?」
ルナリアが指す辺りの地面に目を凝らせば、建設予定地の地表に粘液質っぽいヌメヌメ感が有るナニカがニュルニュルと這っていて、意外な速さで移動していく。
「・・・あー。アレかあ」
アレって私の魔力に驚いて逃げて行ってるということだろうか。
見た感じ、無色透明なベシャっと水溜まりっぽいビジュアルで、ファンタジー的に表面張力で丸っこくなった水滴のようなビジュアルではない。
わるいスライムじゃない感じに角も立っていなかった。
アメーバを数億倍に巨大化させたら、あんな感じになるのかな。
毎日、おトイレでブッ掛けているはずのスライムも、白日の下で出会うとあんなビジュアルだったのか。
スライムに幻想を持っているわけではなかったけど、特に親近感を持てるビジュアルでは無かったな。
SNSを通して会話していると親近感を持ててもリアルで会うとガッカリする心境は、こんな感じなのだろうか。
「・・・便器の穴を通して会っている方が親近感を持てるなんてなあ」
「ブフッ」
とんだガッカリ生物だったよ。
私のボヤキにルナリアが噴き出している。
お下品なネタは叱られるんだけど、ツッコミ担当のルナリアがツッコめず、肩を震わせて笑っているのだから良いだろう。
気を取り直して魔力に意識を集中し、魔力が浸透した地面を掌握する。
気を付けないといけないのは、地面をギュッと圧縮して固める際に、スケールが大きくなった分、減少する体積も大きいことだ。圧縮によって10%ぐらい体積が減少すると仮定して、総体積が1万2216立方メートルだと1221立方メートルも体積が減少することになる。
1221立方メートルが具体的にどのぐらいかと言えば、25メートル四方の建設予定地がベコンと2メートル陥没するほどの体積だ。
13メートル四方の3段目だと、7メートルも背丈が低くなる体積と言った方が分かりやすいだろうか。
到底、無視できる 減少幅(ロス) では無いし、減少する体積の分の土を周りから引っ張ってくれば、周りの地面が陥没しかねない。
じゃあ、どうやって穴埋めするのかと言えば、魔力で穴埋めするしか無いと私は想定している。
私にとって初めての、下手をすれば”蒼焔"よりも規模が大きな魔法の行使だ。
どのぐらい魔力を食われるものなのか予想も付かないし、今後のためにも自分の限界に挑戦しておく価値は有る。
お婆様と初めて森へ行った日に、魔力で石の杭を作り出そうとしたときのことを思い出す。
ゴリゴリと体内魔力を削られたんだっけ。
あのときよりも魔力制御は上達した自覚が有るし、土魔法の感覚にも慣れたし、魔石の魔力の扱いにも馴染んだと思う。
手持ちの魔石が有る限り、ほぼ無尽蔵に魔力は使えるけど、今回は魔法の桁が桁だけに不安は残る。
途中で魔力を使い果たして石碑が倒壊、なんて絶対に避けなきゃ。
心を落ち着けようと深呼吸すると、胸の中で静かに魔力がさざめいた。
あれ?
「・・・・・」
自分の胸を見下ろす。
何だろう? 大丈夫、って言われた気がする。
スゥッと不安感が溶けて心が軽くなったように思う。
ポンポンと胸を叩く。
ありがとう。頑張ってみるよ。
誰に言っているのか自分でも分からないけど、心は決まった。
「・・・ 弾倉交換(リロード) の準備もヨシ」
右手で腰のポーチをポンと叩く。
途中で魔石の魔力を使い果たす事態も想定して、魔石は左手に握って、右手でポーチから交換用の魔石を取り出す算段だ。
出来る限り動作を少なく、魔石交換なんかに出来るだけ意識を割かずに集中できる態勢を整えておく。
魔石の魔力が弱くなったと感じたら迷わず交換。
魔石は外付けバッテリーなのだと改めて自分に言い聞かせる。
半端に魔力を使い残した魔石はスライム畑に埋めて廃品活用すれば良い。