作品タイトル不明
西方よりも ①
私を先頭に長閑な蹄の音を鳴らして馬列が領主館へと帰還する。
ほんの数日で単独乗馬に慣れているディディエさんとダーナさんも、何気に大したものだと思うよ。
私の部屋で1時間ほど雑談しながらお茶を飲んでいると、伝令でオーリアちゃんとアイシアちゃんが領主館へ戻って来たらしい。
知らせてくれた領主館の本職のメイドさんにお礼を言ってから厩舎へ回ると、知らされた通り、オーリアちゃんとアイシアちゃんが待っていた。
「・・・お疲れさま。今日は、どうだった?」
「バンダースナッチは掛かっていませんでしたが、バイコーンは崖上だけで3頭掛かっていました」
ほうほう。捕食者の気配が無くなってシカが活動範囲を広げてきたのかな?
まあ、ダンジョンだとしても 湧き直し(リポップ) が直ぐに起こるとは限らないしね。経過観察は継続だ。
「・・・そっか。設置状況は?」
「今日は96ヶ所ですね。重石を作る作業が、やはりフィオレ様ほど早く有りませんから」
「・・・十分だよ。明日は私も作業に参加するし、ボチボチやって行こう」
悔しそうに言うけど、100ヶ所弱でも私の当初の見積もりよりも多いからね?
慣れが手伝えば、もっと設置ペースは上がるだろうし、気にすることなんて無いのに。
「もう移動しますか?」
「・・・お父様とお爺様たちとお婆様たちは?」
「準備ができ次第、直ぐに建設予定地へ向かわれるそうです」
私の質問にミセラさんが淀みなく答えてくれる。
知らせに来てくれた領主館のメイドさんとの別れ際にミセラさんと何やら話していたのは、お父様たちの予定だったのかな。
ほんと、そつが無いよね。マジで有能。
「・・・んー、そっか。下準備は済ませて有るけど、先に行っておこうか」
ギリギリになって慌てて、しなくて良い失敗をするぐらいなら、早めに到着して待ちぼうけている方がマシだよね。
厩舎の兵士さんが私たちの馬を牽き出してくれて、よっこらせと鞍によじ登る。
忘れ物は無いかな?
作業に使う笛はミセラさんが首に掛けているし、私も腰のポーチに魔石を補充してきてある。みんなが騎乗したのを確かめてから、鐙の踵で馬の横っ腹を軽く蹴る。
気になったのかオーリアちゃんとアイシアちゃんが私の隣に並び掛けてきた。
「下準備って、何をしてたんですか?」
「・・・建てる縄張りを決めてた」
「縄張りですか」
二人揃って首を傾げる。野生動物の縄張りをイメージしたのかな?
いくら脳筋の巣窟でも、アウトローな自由業の人たちの 縄張り(シマ) をイメージしたわけでは無いだろう。
「・・・建てる位置の地面に、こう建つんだよって印を付けるのを縄張りって言うんだよ」
「ああ。そういう意味ですか」
そうだよ?
ウォーレス家もピーシス家も、アウトローな自由業の人たちも涙目でお腹を見せて服従ポーズを取るような脳筋の楽園だけど、領地の概念は有っても縄張り的な概念は無い。
無かったよね?
実は有ったんだろうか。
「・・・ちょっと大きくなるからね。折角、建てるんだから綺麗に建ててあげたいし、目印が欲しくてね」
「そういう方法も有るんですね」
ん? 建物を建てるときに縄張りをするのって普通だと思うんだけど、こっちの世界では違うんだろうか?
まあ、二人とも納得したみたいだから、それで良っか。
「・・・あ。そうだ。森の伐採も許可が出たから、またバンバン木を伐って練習できるよ」
「「おお~」」
魔の森は人の手が入ることを拒んできた原生林で、地勢はほぼ平坦だけど山ほど大木が生えている。
伐れる木には困らないんだけど、意味なく木を伐ったところで見通しが悪くなって魔獣が潜む場所を作ることになる。
狩猟で森へ踏み込む私たちとしては、自分たちの危険を増やすだけだから無闇に伐れないんだよね。
もちろん、強くて燃えにくい魔の森の木は資源でも有るし、領有した森の木は領主の資産でも有る。
かつては魔獣が跋扈していて容易に踏み込めない森だったけど、その魔獣を食肉資源化してしまったことから、森の木も資源化させてしまった。
安全面と資源管理面の二重の意味で、バンバン伐れと言って貰える機会は貴重なものとなりつつ有る。
今後、もっと機会が減っていくであろうことを思えば、そりゃあピーシーズも喜ぶよ。