作品タイトル不明
精霊信仰 ②
「・・・新年のお祈りとご祈祷というのは、どういったお務めになるんですか?」
「来週には新年ですからね。年の初めに森の入口で供物を捧げて一年の平穏を精霊様にお祈りするのです。ご祈祷は病や出産などのとき、精霊様にご加護を願うものです」
なるほど。
そのまんま“ 祈祷師(シャーマン) ”だ。
巫女さん的なイメージが一番近いのだろうと想像が付いた。
こっちの世界に来て初めて聞いたけど、王国は“ 精霊信仰(アニミズム) ”を持っているから居てもおかしくはないのか。
「・・・そうなのですね。コーネリアさんも、ご祈祷をされるんですか?」
「私は、まだまだ作法を覚えるだけで手一杯ですから」
作法か・・・。
神道の神事は事細かに作法が決まっているって聞くしなあ。
結果良ければ全てヨシ、な、私からすると基本的には苦手な分野だな。
「・・・修行とか、するんですか?」
「いいえ。私どもは伝わっている伝統を守っているだけで、精霊様のお姿を見ることも、気配を感じ取ることもできませんから」
エルザさんが苦笑しながら首を振る。
気になる、というか、どこか引っ掛かる言い方だな。
精霊が高いステルス性能を持っているのか、そもそも観測できないものなのかも気になる。
「・・・伝わっている、というと?」
「大昔のご先祖様の中には精霊術式を修められた方が居られたそうですが、私たちは当時から伝わる作法を次代に伝えているに過ぎないのですよ」
形式上の伝統を受け継いでいるだけ、と?
伝統的な意味としては理解した。
精霊術式を使うエルフ族の滅亡と共に精霊が姿を消して、精霊術式は失伝したと教わったよね。
でも、それって、精霊が普通には観測できない存在なのだとすれば、「居なくなった」という説明が検証された結果ではないようにも感じる。
観測する方法を失った、とも、接触を持つ方法を失った、とも、受け取れるのだから。
何が正しくて、何が誤っているのかさえ分からない?
だから、形式上の伝統だけでも後世に伝えようとしている、と。
「・・・あ。精霊様が居なくなったから?」
「そう伝わっています。悲しいことですが、今となっては、本当に精霊様が存在されたのかさえ定かではありません」
「失伝」というものに対して、エルザさんも私と同じ感想を持ったのだろうね。
卵が先かニワトリが先か、堂々巡りの議論で、何が本当かはエルザさんにも分からないけど、きっと、エルザさんは信じたいのだ。
本心では、この「居なくなった」という通説に疑問を持っていなければ、祈祷師なんて引き継いで行けないか。
「・・・精霊様って、どういうものなんですか?」
「常に自然と共に在り、人に寄り添ってくださるものだと聞いております」
「・・・ふむ」
人に寄り添う・・・ね。
「自然と共に」ってのは、日本の「神道」にも有る「八百万の神」って思想と同じかな。
神道における「 八百万(やおよろず) 」って言うのは「800万」柱の神様が居るって意味じゃなく、「数え切れないほど無数の」って意味だし、アニミズムの「万物に精霊が宿る」て信仰と同じものだもんね。
精霊が居るか居ないかで言えば、魔法なんて技術体系が実在する世界なんだから、居てもおかしくない―――、いや。居るのだろうと思える。
魔法なんてものが無かった地球で生きていたからこそ、居ると信じられる。
恩恵をもたらすだけでなく、ときに荒れ狂う、人知が及ばない自然現象の脅威を畏怖して、敬い、鎮め、加護を求めるのが自然崇拝というものだ。
それが単なる信仰ではなく魔法効果という恩恵を得るのが精霊術式、だよね。
日本人的には受け入れやすいけど、自力で生き延びようとしてきた私的には、お願いするだけで精霊が力を貸してくれるなんて、「そんな、便利なもん?」と考えてしまう。
馬や牛なんかの使役される家畜だって、餌や安全というメリットが有ってこそ人に従うものだ。
精霊にとって、人に寄り添うメリットって何なんだろう?
精霊術式ってエルフ族が使ったもので、エルフ族に教えを請うたヒト族でも身に付けた人は居たんだよね?
でも、みんながみんな身に付けられる技術なら失伝しなかっただろうし、身に付けることが出来た人と出来なかった人の違いは何だろう。
「・・・精霊様って、何か好きなものとか有るんですか?」
「分かりません」
「・・・えっ? お供え物をするって」
どういうこと?
「そうする、と伝わっているだけで、何かを捧げる、であるとか、何を好まれる、であるとか、そう言った伝承はないのですよ」
「・・・ええ・・・」
マジっすか・・・。