作品タイトル不明
ピーシス領動乱 ⑲
トンカツのお皿を配るレヴィアさんの後ろには、マーシュさん、ミセラさん、ダーナさん、ディディエさん、料理人さんと並んで、バケツリレーでお皿を手渡している。
レヴィアさんからお皿とフォークを受け取ると、エゼリアさんは真っ先にお母様へと手渡して、再びレヴィアさんの下へと戻った。
一足先に試食にありつけたアンリカさんを見ていると、レヴィアさんからお皿を受け取ると、サササッと距離を取って邪魔者が入らない場所へと退避している。
一切れのトンカツを口へ運び、一瞬、目を見開いて固まったと思えば、一転して猛烈な勢いで掻き込み始めた。
他にみんなも似たり寄ったりの反応で、餌を貰った警戒心の強い猫みたいで面白い。
「厨房で騒ぐな」とお婆様に叱られたせいだろうけど、お母様も含めて、みんな無言なんだよ。
私のところには、お母様たちにお皿が行き渡った後、お皿を2枚、手にしたミセラさんが、フォークを添えて持ってきてくれた。
みんなが美味しそうに食べているのを確かめて、私もトンカツの一切れにフォークを突き刺して囓る。
サクッとした衣の食感と、しっかりとしたお肉の噛み応えが有って、ガツンと利いたニンニクの香りが鼻腔を席巻する。
適度な塩味が絶妙にお肉の味を引き出していて、噛むごとに旨味の凝縮された熱い肉汁が口の中に広がる。
サクサクもぐもぐと咀嚼して、ごくりと嚥下する。
「・・・うん。悪くないね」
シンプルだけど、塩を振って下味を付けてあるから、ソースが無くても美味しく食べられる。
「魔獣のお肉は美味しい」という一般常識が間違っていないことを実感するね。
お肉の臭みを心配していたけど、ニンニクのお陰で臭みは気にならない。
異世界ニンニク、めっちゃ強力じゃん。
でも、万人ウケを目指すなら、やっぱりソースは必要なんだろうな。
ソースの作り方って、レシピ無しでは味の調整に手間が掛かるだろうけど、作ること自体は難しく無いんだよなあ。
いわゆる、トンカツソースと呼ばれる日本で一般的なものは、中濃ソースのトロみを増すために小麦粉を加えて、味を調整したもの。
中濃ソースと呼ばれるものは、ウスターソースを作った際の食材をミキサーに掛けて余すところなく利用したものだ。
ソースのベースになるのはウスターソースってことになるんだけど、これを作ろうとするとトマトが必要になる。
今のところトマトを発見できていないから、この時点で、日本で慣れ親しんだソースを作ることは絶望的。
トマトって南米の高山地帯が原産地だっけ?
ジャガイモもあの辺が原産地だったはずだから、トマトっぽいナニカも見つかる可能性はゼロでは無いのか。
ジャガイモっぽいナニカが有るからね。
原産地が同じ辺りなら、一緒に渡ってきている可能性もゼロでは無いはず。
トマトを使わずに、いま有る食材で作れそうなソースって何が有る?
オニオンベースのハンバーガーソースでも作ろうかなあ。
私が知ってるハンバーガーソースだと醤油を使うから無理か。
醤油独特の風味や旨味が欠けて完全再現は出来ないな。
ていうか、お肉に合うソースのトマト率と醤油率の高さが異常なんだよ。
それだけ使用率が高いってことは、それだけ有能な食材ってことなんだろう。
その有能な食材を抜くのだから、ぼやけた味になるのは確実なんだけど、バターで炒めた玉葱は、味を調えるだけでも美味しい。
だったら、ナンチャッテのオニオンソースなら作れなくも無い気がする。
「ふぅ・・・」
小さく息を吐いたお婆様が、お皿の上へ静かにフォークを置いた。
小物入れから取り出した手巾でお上品に口元を拭う。
綺麗に平らげてくれたのだから、美味しかったのだろう。
お婆様の目が私へと向く。
「ボアの肉も、臭みが気にならなくなって、これだけ美味しくなるのね」
「・・・お口に合いましたか?」
私の問いに、お婆様が満足げに頷いた。
「ええ。先に味見した方は、材料は何なのかしら?」
「・・・ほぼ、小麦粉で出来ています。バターやミルクで調理していますので、そちらの方が原価は掛かるかも」
意外そうに目を丸くしながらも、お婆様の興味は止まらない。
「ふむ。このサクサクしているものは何だったのかしら?」
「・・・パンです。粉状に削って有ります」
「パンを削るのですか?」
パンは手で千切って食べるのが普通だからね。
まだ柔らかければ、千切ってそのまま、固ければスープに浸して、ふやかして食べるのが普通。
「削る」という行為とパンのイメージが上手く結び付かなかったかな?
ミセラさんがお婆様の前へ、サッとパン粉のバットを差し出す。
「こちらがパン粉です」
「これは・・・。どうやって削ったのかしら」
まさか本当に粉状のパンだとは思わなかったのか、お婆様が首を傾げる。
そこで先ず製造方法を訊くところが、学者肌のお婆様らしい。