作品タイトル不明
ファーストインパクト ⑥
「「「「「おお~」」」」」
ルナリアとピーシーズも、お祭りの打ち上げ花火でも見ているように喜色を浮かべて拍手している。
最前線から一歩引いた本陣のような位置で、伏兵にだけ警戒しておけば良いのだから、気楽なものだ。
瞬時にして激しい炎に包まれて豪邸の大屋根が炎上している。
こうして、じっくり見てみると凄い魔法だな。
爆散して吹き飛ばす爆弾と言うよりも、ナパーム弾みたいに炎を撒き散らす効果が高いように見える。
「・・・うっぷ」
焚き火の前で炎に炙られるような熱と砂塵混じりの爆風に真正面から煽られて、思わず目を閉じてしまう。
これって、密閉された空間内に燃焼イメージで生み出された炎が、高圧で押し込まれているせいだろうか。
”蒼焔”よりも爆風が弱くて熱の拡散が大きい気がする。
魔力を素に生み出された謎の可燃性ガスが燃えているのか、はたまた、魔力そのものが謎のファンタジーパワーで燃えているのかは分からないけど、助燃性物質の有無は関係なさそうだよね。
私の体感で言うなら、化学反応を素っ飛ばした物理現象だから魔力消費量が多くて効率が悪いんじゃ無いかと思えてしまう。
「うおわあああっ!! 何だ!? 何ごとだ!!」
大声が聞こえたものだから目を開くと、エントランスの扉から小太りの中年男が転げ出てきたところだった。
同じように小太りの女性と小太りの少年たちも転げ出て来た。
何なら、爆発音と振動に驚いたのだろう近隣住民も、なんだ何だ、と、出てきている。
馬を進めたマリッドさんさんが容疑者たちに槍の穂先を突き付け、配下の騎士様たちは弓を番えている人も居る。
「セーガン・コーニーだな? 爵位偽称のほか、複数の疑いでお前を捕縛する」
「何だ! 貴様等は!」
あの体型・・・、石像の人、本人かな?
まだ日も暮れていないのに寝ていたのか、肌着姿で喚く小太り―――、石像よりも明らかに太った男の頭には寝癖のような髪の乱れまで付いている。
これで「騎士」なんだ?
ウォーレス領軍の筋肉ムキムキの騎士様たちと較べて、あまりにも醜く弛んだ体躯に呆れてしまう。
相撲の力士の人もパッと見は太って見えるけど、力士の脂肪は体当たりで弾き飛ばされないように重量を増やすためのもので、脂肪の下はムキムキな筋肉の塊だからね?
この男みたいにブヨブヨした脂肪の塊ではないし、騎士という馬に運んで貰う職業に、馬の重荷にしかならない脂肪は必要無い。
「ピーシス伯爵領軍だ」
「ピーシス!? なぜ、ピーシスの気狂い共が、ここに居る!」
槍を突き付けたままでマリッドさんが淡々と告げ、ピーシス家の家名に男が激高する。
「我らが領地に我らが居るのは当然だろう」
「我らが領地!? それに、伯爵だと!? そんなバカな話が有るか!」
男が吐いた言葉を聞き咎めたマリッドさんが、配下の騎士様に顔を振り向ける。
「おい。国王陛下に対する不敬罪を罪名に加えておけ」
「はっ」
乗馬の荷物へ手を伸ばした騎士様が紙を取り出してメモを取る。
あの騎士様が使っている筆記用具は”木炭鉛筆”かな?
王様の名前が出て男が顔色を変えた。
「何だと!? なぜ、国王陛下と関係がある!」
「ピーシス伯爵の昇爵は王命によるものだ。そして、ここ、旧コーニッツ領、並びに、旧ムーア領は、叛逆罪で処刑されたコーニッツ家とムーア家に代わって、王命によりピーシス伯爵家に下賜された。地方領地の騎士爵ごときが王命に異を唱えることは、不敬罪に該当する」
煽るねえ、マリッドさん。
罪状を膨らませようと、わざわざ情報を与えてるよね?
「王命だと!? ここはコーニッツ子爵領だ! 国王陛下とはいえ勝手に―――」
「王命に逆らうか。叛逆罪によりお前の一家全てを捕縛する。抵抗する場合、家族もろとも、この場で討ち果たす」
あーあ、終わったな。
当主がバカだと家族も道連れになる典型例だ。
可哀想だけど、家族も残すと統治の邪魔になるとマリッドさんは判断したのだろう。
可哀想だけどね。うん。
爵位を偽称した時点で終わっては居たけど、叛逆罪なら確実に家族も道連れだ。
近隣住民に見せつけるための茶番にもなるし、マリッドさんは、よく分かってくれている。
「ふ、ふざ、ふざけるな!」
「捕縛しろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
当主共々、縛り上げられた奥さんらしき小太りのオバサンと小太りの少年たちも、うちの騎士様たちを口汚く罵るものだから、爆風で庭先に落ちてきた布切れを口の中に突っ込まれて呻き声しか上げられなくなった。
新勢力が旧勢力を排除しに来ているのだから、抵抗すればするほど生き残る道は無くなっていく。
「罪名に叛逆罪を加えました」
「うむ。ご苦労」
メモに書き加えた騎士様をマリッドさんが労って、コーヒー? コーナー? コ、コ、コ・・・何とか騎士爵家の処理は半ば終わった。
半ばだよ、半ば。
あの人たちは川虫みたいなもの。
釣りエサが確保できたのなら、後は釣るだけだ。
「・・・ミセラさん。明日の朝、領都で断罪するつもりなんだけど、領内に残っている爵位持ちを全部集めて見せつけたいんだよね。集める方法って有るかな?」
「旧コーニッツ領と旧ムーア領の両方ですね? 私たちにお任せください」
きっとミセラさんが居るものだと顔を振り向けたら、やっぱり私の後ろに居て、ミセラさんだけでなく、レヴィアさんとマーシュさんも揃っている。
私もいちいち驚かなくなってきたな。
ロス家の人たちは、こういうものだと思っておこう。
「時間は、どうされますか?」
「・・・4の鐘には、私たちも領都へ着けるよね?」
道中、ずっとそうだったように、私たちは朝4時には起こされるのだろうし、朝5時に野営地を撤収し終えて出発するなら4の鐘―――、朝9時までは4時間も有る。
「では、4の鐘で周知して参ります」
言うが早いかミセラさんたちはヒラリと馬に跨がって、三人、バラバラの方向に向かって走り去ってしまった。
自信満々そうだったけど大丈夫なんだろうか。
ミセラさんたちが「出来る」と言うのなら出来るのだろうね。
信じるに値するし、私はそれを信じて次の段階を成功させるだけだ。
早くも大屋根が燃え落ちそうになっている屋敷へと目を向ける。
「・・・あっちは、もう良いかな」
魔力の手を伸ばして大きく広げ、包み込んだ手の中に魔力を満たす。
イメージの中で屋敷から空気を追い出して真空状態を作り出す。
窒素ガスのような不燃性ガスで満たしても良かったけど、窒素ガスだと訊かれて説明するときに困る。
ガンガン噴き上がっていた炎が、幻でも見ていたかのように、フッと消える。
ただでさえ、王国は内陸性の乾燥気味の気候だし、今は冬だから空気が乾燥しているはず。
春には肥料として畑に漉き込まれるはずの刈り取った麦藁が畑に撒かれているから、火災を放置できない。
飛び散った火の粉が降り注いだら、周辺の民家へ延焼する恐れが有るからね。
罪のない領民に迷惑が掛かることは私の望むところではない。