軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ③

振る手が止まって市場に目を奪われていたら、お母様に気付かれた。

「どうした?」

「・・・市場を覘くヒマが無かったな、と」

ちゃんと手を振り続けながら、お母様が首を傾げる。

「市場? 何か欲しいものでも有ったのか?」

「・・・ウォーレス領で作られていない野菜の種を探したかったんだよ」

納得したみたいだけど、お母様は首を振った。

「諦めろ。お前らが街中へ出れば混乱が起きる」

「・・・うーん。そっかあ」

通り過ぎてしまった市場にも、「諦めろ」と言われた気分になる。

私は兎も角、テレサを連れて街へ出るのは拙いよね。

王都に着いた日の時点で大人気だったし。

かと言ってテレサを置いて街へ出たりすれば、むくれるのは確実だよ。

私の気持ちとしても、テレサを除け者にするのは、よろしくない。

そうすると、お母様の言う通り諦めるしか無いのか。

「・・・むー」

困ったな。

農地を広げることが出来ても、栽培する作物に多様性が無いと、小麦のような過剰生産と単価下落に繋がる可能性が有るよね。

連作障害だっけ? ライトノベルなんかでよく有るヤツ。

同じ作物ばかり作っていれば、地中の栄養素の偏りを気にする必要も出て来るのだろう。

詳細まで学校の授業で習った覚えは無いけどけど、そんなのが有ると習った記憶は有る。

でも、日本に居た頃の地元では、地域の気候的に一毛作しか出来ない米作は当然のこととして、野菜を栽培している畑も決まった農作物ばかりを作って居たように思う。

あれは肥料で栄養素を補って連作障害を回避していたんだろうか?

植物の栽培に必要な三大栄養素は、リンと窒素とカリウムだっけ・・・。

土を弱アルカリ性に保った方が良いとか何とか。

うん? 土壌のカルシウム成分を補うのに石灰を撒くからアルカリ性になるんだっけ?

縄文文化をリスペクトしては居たけど私は狩猟民族で、定着農業には興味が薄かったからなあ。

記憶力は悪くない方だと思うけど、私自身の興味の偏りが知識の偏りに反映されている上に情報ソースが主にネット情報なものだから、私の知識はイマイチ怪しいんだよね。

唸っていたら、お母様が答えをくれた。

「王都に残ったピーシーズに探させれば良いだろうが」

「・・・あっ。そっか、そうだね」

何も、私自身が市場をウロウロする必要は無いのか。

栽培方法の情報収集も兼ねてのことなら、仲良くなるのが上手いクラリカさんとメイリスさんの得意分野だ。

諦める必要が無くなったのなら、次の段階を検討できる。

葉モノの野菜だと種子で買わなきゃ難しいだろうけど、キャベツなんかだと、葉を消費した後の芯でも再生栽培できちゃうからね。

大根や人参なんかの根モノも切り口を水に浸けておけば再生栽培できるんだっけか。

繁殖力が旺盛な種類だと葉モノでも再生栽培できるんだっけ?

何が出来て、何が出来ないか、なんて覚えていないから、片っ端から試してみれば良いか。

料理に使った野菜の「ヘタ」から再生栽培して種子が採れれば最高じゃん。

色々な種類の野菜があれば連作障害で収穫量が落ちることを防げるかも知れないし、研究の余地は有るよね。

数十年掛かりの気の長い研究になるかもだし、農家の皆さんにお願いするしか無いな。

狩猟の他は自然の実りにしか興味が無かった私は輪作の詳細なんて覚えていないし、やっぱり、野菜の生育に詳しい農家さんとも話し合った方が良さそうだ。

どこのタイミングで手紙を出せるか分からないから、休憩中にでも、先に手紙を書いておくことにしよう。

クラリカさんたちに余裕が無いようなら、誰か商人を捕まえて、野菜の種を買ってきて貰えば良いんだよね。

東の第3城門を潜ると久しぶりの王都の外だ。

王都へ入ろうとする商人や王都近郊の農家っぽい人たちの荷馬車や、旅人らしき徒歩の人たちが路肩に避けて、領軍が通る道を空けてくれている。

王都の住民ほどの熱気では無いけど好意的な目で手を振ってくれているので、手を振り返しておいた。

城門を出て直ぐの分かれ道を右折して、しばらく進むと街道脇の原野に馬列の一部が逸れて集まっているのが見えてきた。

手を振っているところを見ると、あっちは王都騎士団の騎士様たちか。

私たちにも手を振ってくれているので振り返していたら、ピーシス隊が来るのを街道脇に避けて待っていたらしい騎士団長閣下が馬を寄せてきた。

「フレイア」

「おう」

お母様の馬に騎士団長閣下が馬を並べる。

「近いうちにウォーレス領を訪うことになるだろう」

「分かった」

端的にお母様が答えると、二人ともが軽く手を挙げ合って会話が終わり、少しだけ速度を落として下がってきた騎士団長閣下は私たちの馬と併走する。

「ルナリア嬢、フィオレ嬢。また会おう」

「はい!」

「・・・閣下も、お元気で」

「うむ」

私たちの返事にフッと表情を緩めた騎士団長閣下が、また速度を緩めて馬を下げていく。

「エゼリアに会いに来たのかしら?」

「・・・だろうね」

首を傾げるルナリアに答えて後方へ顔を振り向けると、騎士団長閣下はエゼリアさんたちと馬を並べている。

エゼリアさんも、まんざらでも無さそうだよね。

わざわざ挨拶しに来た誠実さというか律儀さというか、騎士団長閣下の人柄を感じさせる行動なのだろう。

騎士団長閣下ってハロルド様とも仲が良いんだよね?

実際、仲が良さそうだったし。

何だか似ているところが有って、お二人が仲良しなのも分かる気がする。

意外にマメな騎士団長閣下の一面を見られて私も安心感を覚えた。

一通りの挨拶を終えたらしい騎士団長閣下が片手を挙げて、ピーシス隊の馬列から離れて乗馬の足を止める。

馬首を巡らせて騎士団の馬群へと戻って行った。