軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界 ③

「何だこりゃあ」

「しっかり乾いているのに、柔らかいな」

「塩辛くないぞ」

試食している職人さんたちがザワついている。

「・・・面倒だと思うけど、1枚1枚紐を通して、風が良く通る場所に干すと、早く乾くよ」

「塩の消費量が減れば領の財政的にも助かりますね」

反応は悪くないと見て取ったアンリカさんが、イイ顔で笑う。

アンリカさんの口から塩をケチれると聞いて、職人さんたちが、さらにザワッとする。

「・・・塩は高いの?」

「ウォーレス領は、ほぼ全量を輸入に頼っていますからね。砂糖や香辛料も高いですから、結構、財政上の負担が大きいんですよ」

財政・・・、財政か。

リテルダニア王国には海が無いから、岩塩か、海塩を輸入してるんだったね。

ここの食肉加工場で使っている塩も岩塩。

地球のオーストリア共和国のザルツブルグは岩塩と塩泉から塩を作っていたんだっけ。

塩泉っていうのは塩分濃度が高い温泉?

冷泉かな? 山の中でも普通に湧き出したりするらしい。

さすがに塩まで自分で採ろうと考えたことは無いから日本で暮らしていた頃も詳しく調べたことは無かったけれど、きっと太古の昔に海底だった土地が地殻変動なんかで隆起して陸地になった場所だったりするのだろうね。

オーストリアの場合は、戦略物資でもあった塩の流通を押さえていたから「 塩の砦(ザルツブルグ) 」という地名が生まれた。

岩塩は採掘労働者が必要だし、海水や塩泉からの精製は煮詰めるのに大量の燃料が必要で、作るのにとてもお金が掛かったんだよね、確か。

それはもう、世界各地で製塩が国家的産業になったほど、流通価格も高かったはず。

こっちの世界でも塩が高いのなら、もっと塩の消費量を減らす方法を教えた方が良いのかも。

そう言えば、森で口直しに出してくれた酒気を飛ばした赤ワイン、美味しかったなあ。

私の傍で手元を覗き込んでいたアンリカさんを見上げる。

「・・・赤ワインって、塩とどっちが高いの?」

「ワインですか? 領内でも作っていますから、塩よりも、かなり安いですね」

「・・・じゃあ、赤ワインが欲しい」

「乾杯するんですか?」

しないよ? 私、幼女だよ?

塩辛い干し肉を食べていたらワインが欲しくなるのは分かるけど、期待した顔をしても、乾杯しないからね?

「・・・もっとお塩が少なくて済む、別の作り方も教える」

「そんな方法が有るんですかい?」

「・・・うん」

耳聡く聞きつけた職人さんが食い付いてきた。

干し肉が美味しかったのか、自発的になったね。

アンリカさんがチラリと背後を見たから私も振り返ってみたら、お母様と目が合った。

「・・・良い?」

「構わんとも」

穏やかな表情でお母様が頷いてくれたのを確認して、アンリカさんが職人さんを見た。

「赤ワインは有りますか?」

「有りやすが、安物ですぜ?」

「・・・一番安いので良いよ」

バタバタと走って行った職人さんの一人が、大きな陶器ボトルを持ってきた。

ボトルと言うよりもデキャンタ? というかピッチャーみたいな感じだね。

10リットルぐらい入ってそう。

大昔のお酒は量り売りだったらしいから、こっちでも、そうなのかも。

現代だってワインは樽で発酵させて、瓶詰にするのは流通の為だし。

うーん。量が分かんないな。

計量カップが欲しいけど、加工場の中で見た記憶が無い。

「・・・“量り”は無い?」

「何ですかい? そのハカリってのは」

「・・・天秤、みたいなヤツ?」

「ああ。天秤ですかい」

良かった。通じた。

別の職人さんが天秤を持って来てくれたけれど・・・、小さいね。

「・・・まあ、良っか」

「使わないんで?」

「・・・ワインの重さを量りたかったけど、器ごと量れ無さそうだし」

脳筋な人たちが作るのだし、目分量で良い、というか、どうせ目分量に変わると思う。

「どうしやしょうか?」

「・・・良いよ。基本の分量の割合だけ覚えて」

「分かりやした!」

空の木桶に魔法で1リットルぐらいの水を出す。

木桶の水に目分量で同量ぐらいのワインをドボドボと注ぎ込む。

お塩で20グラムってどのぐらいだろう? カップ2分の1ぐらいだと多いか?

「・・・水が100に対して、ワインが100、お塩が2。そこに香草も一掴みぐらいだよ」

木桶の中に手を突っ込んで、お塩が溶けきるまで掻き混ぜた。

これで、大雑把に塩分濃度1%。職人さんは分量のメモを取っている。

今、私が作ったのも目分量だけど、後は適当に調整してもらおう。

「・・・これが、ソミュール液」

「そみゅ? 何です?」

「・・・“漬け込み液”で良いよ」

おっと。言葉に気を付けないと。

「お前、記憶喪失じゃ無かったの?」と疑われちゃう。

ずいっと木桶を職人さんの方へ押し出したら、職人さんは木桶の中身をまじまじと観察した後、漬け込み液に指先を漬けて味見する。