作品タイトル不明
魔法というもの ⑪
「それで、何を考え込んでいましたの?」
「・・・魔法の同時発動のやり方」
「分かったの!?」
テレサに答えたらルナリアがパッと表情を輝かせる。
「・・・まだだよ。お婆様からは、“もう出来てる”って言われたんだけどね。何がどう出来ているのかも理解できてない」
お師様からもお婆様からも色々とヒントを貰って居るのは分かるんだけど、いま言った通り、私には何が理解できていないかが理解できていないのだろう。
飲み込めそうなのに飲み込めないもどかしさに、頭が煮詰まりそうになっている。
「そっかあ・・・」
勢い込んだルナリアに否定を返したら、分かりやすく落胆した。
上手くできなくて凹みながらも、ずっと一人で頑張ってきたんだものね。
ヨシ、ヨシ、と頭を撫でる。
待っててね。必ず解明して、分かりやすく解説してあげるからね。
「考え込んでいたのは同時発動のことでしたか。難しいですものね」
納得顔でテレサも頷く。
まだお師様にじっくり見せてもらったことが無いから予想に過ぎないけれど、テレサが最も得意にしている光魔法も、まだ習得できていない治癒魔法や回復魔法を発動するには同時発動が必要なんじゃないかな。
「最高峰の魔法術式行使技術ですものね。ウォーレス家ほど多くの習得者がいる貴族家は、恐らく、大陸全土でも他に有りませんわ」
「「・・・そうなの?」」
ルナリアと私の声がハモった。
あれ? と、ルナリアを見たら、私の視線に気付いたルナリアが首を傾げる。
「なに?」
「・・・なんでルナリアも知らないの?」
あなたの家系の話だよね?
「だって知らないもの」
「・・・そっか」
「それで良いの?」
「そっか」の一言で片付けたら一拍置いて聞いてきたテレサに、私は軽く肩を竦める。
知らないものは仕方ないよね。知らないから学んでいるわけだし。
それにしても、ウォーレス家血族に伝わる高度技術の習得ノウハウか。
そりゃあ、強いわけだね。
同時発動を使えなきゃ魔法の威力が上がらない問題には、今、私が直面している。
それを効率的に、高確率で習得させるノウハウが有るなら、それはもう、国家機密レベルの知的財産ではないだろうか。
常に隣国と“魔の森”の二正面戦線を抱えて平然としていられるウォーレス家の強さの秘訣がソレだろうか。
私に習得できるのだろうか? と、不安が胸を過ぎる。
いや、やれるはず。私だってお婆様とお師様の2人からヒントを貰ったのだから、一歩でも前へは進めるはず。
習得しないと大切な人たちを守れないのなら、習得して見せる。
まだまだ時間は有るとお婆様も言っていた。
弱気になんて飲まれてやらない。
「・・・大丈夫。絶対に解明してみせる」
「わたしにも教えてよね!」
「わたくしもお願いしますね」
ルナリアが強くなれば結果的にルナリアを守る私たちが楽になるのだから、ルナリアにも習得させるのは決定事項だよ?
強い味方は一人でも多い方が良いのだから、当然、アリアナさんたちにも習得させる。
テレサは“保守派”の 神輿(みこし) になるのだし、テレサが強くなる分には構わないはず。
みんな、私にとって死なれちゃ困る人たちなのだから、私も全力でやるよ。
テレサとルナリアに、グッと親指を立ててサムズアップする。
「・・・任せて」
私がなぜ魔法を出したり引っ込めたりを始めたのかを聞かれたから、魔法の同時発動に慣れが大事なのだったら回数をこなして慣れるまでだ、と言ったら、テレサとルナリアだけでなくアリアナさんたちまで無言で魔法を出したり引っ込めたりし始めて、苦笑するお師様からは目がチカチカすると不評だったけれど、止めろと言われることは無かった。
「おい。フィオレ」
「・・・はい」
ワナの作り方を覚えたルナリアたちがエゼリアさんたちの監督の下、アリアナさんたちや猟師さんたちや昨日は随伴していなかった騎士様たちにワナ作りの技術を伝授しているのを眺めていると、お師様に手招きされた。
今日の私はルナリア先生たちが困ったときにだけ手を貸すフィオレ大先生ポジションだから、居ても居なくても大差ないのだけれど、一応、アンリカさんに声を掛けてからお師様の下へと急ぐ。
お師様は、草を食んでいる馬を指した。
「アレ、どうする気だ?」
「・・・あ。毒腺」
馬のサイドバッグの上には、ロープで括りつけられたままの蛇の首が載っている。
そういや、忘れてたね。
「・・・麻酔に使えるんじゃないかと思って」
「バジリスクの猛毒を使うのか? その前に、マスイとは何だ」
うーん? もしかして、麻酔の技術は伝わっていない?
「・・・医療技術。痺れさせるのに使う」
「イリョウ? ―――ああ、治療か」
さすが、博識。
地球の技術や概念は勇者の記録を読み漁っただけで馴染みが薄いはずなのに、私が口に出した聞き慣れない単語も、少し記憶を探っただけで、書物から得た知識と、こっちの世界の知識を結び付けて、すぐに答えに辿り着く。
歴代の勇者が話した言葉の「勇者語録」的な書物が稀に外交ルートから入手できることが有るそうで、お師様はそういった王宮へ献上された書物にも、アカデミー職員の肩書きや特務魔法術師の立場を利用して優先的に目を通していたらしいんだよね。
私も、私が知っている技術や知識を書物に書き残した方が良いのかな?
私程度が持っている技術や覚えている知識なんて大したものは無いけれどね。