軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウォーレス領強化計画 ③ ※アンサンブルキャスト面

「これ、どういうことでしょうかね?」

2周目も半ばまで走って、なお、ペースが落ちる様子を見せない子供たちを眺めながら、地面に直接、お行儀悪く胡座をかいて座り込んでいるエゼリアは、主君に問うた。

ルナリアも王女殿下も一昨日と違って術式の維持に苦労している様子は見られなかった。

一番、劇的なのはフィオレだ。

一昨日はこの訓練場を1周する前に足元が怪しくなって、見るに見かねたフレイアが止めたためにフィオレは2周目を走りきることが出来なかった。

それが、たった2日後には、訓練場周辺の景色を眺める余裕すら有る様子で前回の走破距離を更新して行った。

考えられる原因は、やはり、あの血液摂取行為ぐらいだろう。

「さあな。まだ、分からんことが多すぎる」

「まだ、ですか」

思案顔で子供たちの姿を目で追うフレイアは素っ気ない口調で返したが、主君との付き合いが長いエゼリアたちは、ふっと口元を緩める。

フィオレの様子の変化に最も強い関心を持っている者はフレイアだろう。

昔は、興味を持ったものを徹底的に解明し理解しようと実験を始めるフレイアに、よく付き合わされたものだ。

実験に没頭して日が暮れてもお屋敷へ帰らなかったり、実験で部屋や納屋を噴き飛ばすことも度々で、幼い頃から傍仕えに付けられていたエゼリアは、アンリカと二人で、フレイア共々、散々に叱られたのも今では良い思い出である。

エゼリアたちの生暖かい視線に気付いたフレイアは、咳払いをして目を逸らす。

「じっくりと検証したいが、すぐに、そうも言っていられんようになる」

「王都からは、まだ?」

「報告書を持たせた早馬が、そろそろ着く頃だな」

「大荒れでしょうね」

エゼリアはニヤリと口角を引き上げる。

「“融和派”をのさばらせてきたツケよね」

「さっさと潰しておけば良かったんですよ」

「そう言ってやるな。王都のことは陛下と閣下に任せておけば良い」

肩を竦めるアンリカとディーナを見下ろして、フレイアは小さく笑った。

この場合の「閣下」とは、“保守派”の首魁である王都騎士団の騎士団長閣下を指す。

エゼリアはフレイアを見上げて首を傾げる。

「次に何らかの使者が王都から来るまで、まだ数日間は自由に出来る猶予が有るのでは?」

「そうだな。微妙ではあるが、有るには有るか」

今すぐにでも検証したい考えはフレイアにも有るが、狩猟などというものは確実に獲物が捕れるものではないし、確実性が無いものに限られた時間を浪費するほど暇では無い。

「倒れる前にフィオレ様がワナを仕掛け直して居られましたが」

「仕掛けていましたね。対人用のワナを教える傍らで、なかなかに器用な方です」

「アイツ・・・、明日も行くつもりだったのか」

2周目を走り終えて3周目に突入する子供たちにエゼリアが手を振ると、元気いっぱいのルナリアを先頭に、王女殿下、フィオレと続いて、手を振り返しながら目の前を駆け抜けて行く。

呆れるフレイアはフィオレの後ろ姿を目で追いながら溜息を吐いた。

ディーナもまた、懸命に目的に立ち向かおうとするフィオレの姿に目を細める。

「フレイア様の期待をしっかり理解されているご様子ですから、失望させたくないんじゃないでしょうか。強くなるために手段は選ばないと仰っていましたよ」

「ディーナも昔は細かったものね」

フレイアは、フィオレからもディーナが全く同じことを言っていたと聞いている。

エゼリアとアンリカはフレイアと同じ歳だがほぼ1歳近くの遅生まれで、ディーナはさらにエゼリアとアンリカの3歳下で、子供の頃のディーナも、先を行く姉たちに追い付こうと背伸びをする妹のように、必死に足掻いていたものだ。

わざとらしく悲しそうな顔を作ったアンリカが首を振る。

「それが今では、こんな筋肉の塊に」

「全部が筋肉じゃないですぅー! 私のおっぱいはアンリカ様みたく固くないですぅー!」

「ヨーシ、ディーナ! 良い度胸だ!」

剣を握り直して斬り掛かったアンリカと槍の柄で受け止めたディーナが力比べを始めるのを、エゼリアは呆れた目で眺める。

処置無しと首を振ったエゼリアが視線を上げると、フレイアはまだフィオレの姿を目で追い続けている。

フレイアに報告を上げていなかった情報を思い出したエゼリアは、ポンと手を打った。

「そうそう。親父様がフィオレ様に、ご自分から手解きのお約束をされていましたよ」

「あの親父殿がか」

余程、意外だったのか、目を丸くしたフレイアはフィオレに固定されていた視線をエゼリアへ移す。

いくら家族に甘いマルキオでも、見込みが無ければ直々の手解きを引き受けたりしない。

貴族子女らしい淑女に育ちつつ有った妹のミリアが剣を教えろとせがんだときも、フレイアに代わりを任せてマルキオ自身が直々に教えることは頑として無かった。

剣や槍を教わるということは訓練で有っても怪我など当たり前で、遊び気分で覚悟の無い子供がマルキオの殺気に当てられては、恐怖で剣に苦手意識を持つどころか、マルキオの顔を見るだけで震え上がって泣き出すようになるからだ。

フレイアは泣かなかったし逆にマルキオを逃がさなかったが、子供に泣かれまくった経験の積み重ねがマルキオの子供に対する苦手意識を植え付け、養女になったフレイアからマルキオを逃げ回らせた。

あのマルキオが自ら手解きを申し出るなど、本当に珍しいことが有ったものだ。

「亜種とはいえ、バイコーンの喉を一突きでし、た!」

「あの躊躇いの無さが良いわよ、ね!」

「目も良いですね。冷静に見極める胆力が有ります」

得物を棄てて両手をガッチリと組み合って力比べを続けているアンリカとディーナだけでなく、辛辣な物言いが多いエゼリアまでもが誰かを褒めるのも珍しい。