作品タイトル不明
血のチカラ ⑨
「フィオレ様がやる気なら、私もお手伝いしますからね」
「・・・ありがとう。ディーナさん」
素直に、頭を下げる。
頭を下げている間にサッと後ろに回ったディーナさんが私の背中を押した。
「では、早速、お手伝いしましょう」
「・・・へっ?」
「飲むんですよね? 血」
「・・・あ。ハイ」
「行きましょうか」
背中を押されて歩きながら、後ろに居るディーナさんを見上げる。
「・・・あの」
「はい?」
「・・・変だと思う? 血を飲みたいなんて」
ちょっと気になってたんだよね。
勇気を出して口に出してみたら、ディーナさんは首を傾げた。
「いいえ? 血液に栄養が有るのは事実です。だから、好ましく思ってますよ」
「・・・好ましい?」
予想外の答えに首を傾げると、にんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
アンリカさんがよくする表情だけれど、ディーナさんもこういう笑い方をするんだね。
「目的を達成する為なら、屁理屈抜きで手段を選ばない辺り。最高じゃないですか」
「・・・あ、ありがとうございます」
ああ、そういう。アンリカさんよりも脳筋寄りの理由だった。
数秒ほど、思案するように視線を泳がせたディーナさんが、背中から私の顔を覗き込む。
「でも、本当に効果あるんですか?」
「・・・私の体感だから確証は無いけれど、有ると思う」
こっくりと頷く。
鰯の頭も信心から、ってヤツだったんだけれど、思ったよりも効果が有ったのは確かだ。
「ふぅん。じゃあ私も飲んでみますかね」
「・・・今以上に強くなるの?」
ぱちくりと目を 瞬(またた) く私に、ディーナさんは胸を張る。
「当然じゃないですか。フレイア様に付いて行くには、まだまだ足りません」
「・・・同志だ」
「そうですね。同志です。一緒に頑張りましょう!」
「・・・はい!」
すごく嬉しかった。
「前へ進め」と私の背中を押して、一緒に歩んでくれる人が居る。
ルナリアやテレサのように、共に成長しようとしてくれる人たちが居て、お師様やお爺様のように、私を導いて前を歩いてくれる人が居る。
ハロルド様やハインズ様のように、公正に評価して見守ってくれる人たちが居る。
しっかりと体力を付けて、お師様の訓練に付いて行って、早くお爺様の訓練を受けられるようにならなきゃ。
逆さ吊りになった、立派な角を生やした牡ジカの前に立つ。
見れば見るほど立派な鹿だ。
身長が低い私が見上げると、何かのモニュメントのような塔の足元に立っているみたい。
地上から5~6メートルもの、遥か頭上の高い枝に渡されたロープで吊られているのに、だらりと地面を向いた首は地表に届きそうになっている。
牡鹿の真下の木桶には滴る鮮血が溜まっていて、端の方は空気に触れた血液の凝固が始まっているけれど、ぽたぽたと赤い雫が落ちている真ん中付近は液体状のままだ。
ハロルド様のお許しを得て正式に私のものになった錆が所々に残ったマグカップを取り出してもらって、木桶から血を掬って口を付ける。
ぬるりとした感触、そして鉄臭いニオイと、ほんの僅かな塩気が口の中に広がる。
うーん。数日振りってだけなのに、いかにも「血」って感じで微妙な味だよね。
文明に触れてしまうと、決して美味しいものではないことを再認識させられる。
ちびちびと飲んで美味しいものでは無いので、一気に煽る。
嚥下した血液が喉から食道へと流れ込んだ瞬間、カッと燃えるような熱が爆発して、私の意識はぷっつりと途切れて真っ暗闇の中へと沈んだ。