軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ㉑

「ねぇ。この囲いってバイコーンは跳び越えてこないの?」

心配そう、というよりは、魔獣に対する純粋な興味って感じだね。

指摘を受けて考えてみる。

襲って来たり逃げようとしたりする気配が全くないから忘れていたけど、バイコーンという魔獣は機動力が高い。

風魔法を使って“飛ぶように走る”と聞いていたけど、その一般論を私が実感として理解したのは、本場の棲息域から南下してきた個体を獲ったときのことだ。

あれは、ライオンに追われて逃げるサバンナのレイヨウみたいな跳んでき方だった。

レイヨウって動物はカモシカの1種で、カモシカは“シカ”と名前に入ってるけどシカよりも牛や山羊に近い。

採掘場のシカ―――、バイコーンは亜種だとディーナさんが言っていたけど、本当にぜんぜん違ったものね。

採掘場のシカは体格からして二回りは小さいし、風魔法を使って走る姿を目撃したことがない。

カモシカなら囲いの壁面や枝を落とした跡の僅かな出っ張りを蹴ってでも登って来そうな気もするけど、幸運なことに、ニホンジカに近い見た目のバイコーンが垂直な壁面を登れるとは思えない。

「・・・把握している範囲では、囲いを越えて来たことは1度もないですね」

「兵士からも報告を聞いたことがないわよ」

私の答えにルナリアも同意する。

私たちの答えが興味を刺激したのかレイクスさんが思索する体勢に入った。

「ふぅん? この高さは越えられないのか、昼間だからか・・・」

「・・・昼間だから?」

レイクスさんの呟きに私の頭が傾ぐ。

「知らない? 魔獣は夜になると活発になるんだよ」

「・・・それは知ってる、というか、聞いたことは有りますけど、関係するんでしょうか」

活性化すれば風魔法を使って20メートル以上もの高さを跳び越えて来られる?

ベクトルが横方向か縦方向かの違いも有るけど、風魔法を使えば跳べるんだろうか?

横方向なら“飛ぶように走る”というイメージと一致するけど、縦方向だとロケットを打ち上げるような感じになるからイメージしにくい。

レイクスさんの頭も傾ぐ。

「どうだろうね? 僕もこんなに近くで魔獣を観察したことはないから分からないよ」

だろうね。

今は結論を出せる状況じゃなさそうだから棚上げするか。

「・・・夜になってから、もう1度観察しましょうか」

「そうだね」

提案すればレイクスさんもアッサリと乗る。

だったら、この場ですることは無さそうだ。

「・・・じゃあ、下へ下りて魔法の練習でもしましょう」

「良いね。行こう」

新たな提案にもレイクスさんはアッサリと乗る。

この人、だいたいのノリがこんな感じなんだなぁ。

「ルナリア。下りるよ」

「あ。うん」

声を掛ければ頷いたルナリアが階段へと向かう。

レイクスたちもルナリアの後を追っていく。

キャットウォーク上を見渡せば、まだ採掘場のシカの血でもポカポカを感じるらしいノーアは、ディディエさんたちが傍に付いて出荷作業を手伝っている。

手伝うと言っても4歳児では体力的にも戦力にならないから、弓を射るだけで吊り上げ作業には参加しないしね。

ノーアが前面に出ることはないし、転落防止はディディエさんたちがガッチリと体を掴まえてくれているから危険はない。

うん。大丈夫そうだね。

みんな慣れた作業だし、こっちは任せておいて良いだろう。

「・・・ネイアさん ! オーリアちゃん! 出荷作業は任せるね!」

「「了解しました!」」

監督しているピーシーズの2人から元気な返事が有って、私も安心して階段を下りる。

地上では一足先にルナリアがフィティオスさんたちと向き合っていた。

「風ジェットカッターを使うと危ないから、あっちで練習するわよ!」

「お願いします」

少しだけ離れた場所へ移動するルナリアの後に、フィティオスさんとアルケマイオスさんの2人が付いていく。

元気な6歳児を先頭にスラリと高身長の2人が付いていくのだから、絵面的にも微笑ましい。

「・・・サーシャさん。ルナリアの護衛、お願いして良い?」

「はっ。お任せください」

快く引き受けてくれたサーシャさんたち5人に追加の指示を与えておく。

「・・・フィティオスさんたちと一緒に、ルナリアから教わると良いよ」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

陽の光の下でも普通に活動できるようになった5人が嬉しそうに返事をする。

最近のサーシャさんたちはミセラさんたちの指導を受けて戦闘技術の習得にも貪欲らしいし、サーシャさんたちが実力を伸ばせば人手が増えてミセラさんたちも仕事が楽になる。

一応、風ジェットカッターも私が作った秘伝の技術だからね。

送り込んできた宰相さんの手前、秘伝の情報を得たことはサーシャさんたちの手柄になるだろう。

得られた情報は宰相さんが上手く使うだろう。

宰相さんを通じて敵対派閥に技術が広まったとしても、私たちはまだまだ先へ進んでいる。

私たちの優位性が揺るがない範囲で有れば、広まった情報は王国全体の戦力底上げになる。

妥協しないと決めたからには徹底的にやるよ。

まだまだ新参者のサーシャさんたちに情報を与えたのなら、もっと私の近くにいて、いつもお世話になっている3人にも与えなきゃね。

「・・・ミセラさんたちは、レイクスさんたちと一緒に魔石の使い方を覚えようか」

「はい。よろしくお願いします」

以前から技術の習得を希望していたミセラさんたちが嬉しそうに笑う。

どうせ教えるつもりなんだから、まとめてやっちゃおうかな。