軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ⑨

「人も物も、か」

テツさんが考え込む様子を見せる。

兵器に類する地球の知識をテツさんがエルフ族に与えていないっぽいことは、昨日話したときに気付いていた。

レイクスさんに開発を依頼したのも通信手段と乗り物だと言ってたしね。

多少は振り切って考えが変わったんじゃないかと思っていたんだけど、やっぱりまだ迷いは有るんじゃないかな。

私だって人の命を奪うための情報を広めることに迷いは有ったからね。

すぐに棄てちゃったけど。

正直なところ、私は乗り物に詳しくない。

テツさんが先行して乗り物の開発依頼を出してくれていたことは、渡りに船なんだよね。

だって、テツさんは私よりもクルマやバイクに詳しそうだし。

私が詳しい道具の機構やメカニズムなんて、ワナぐらいだしね。

一応、普通運転免許は取っていたから職場の営業車や原付スクーターぐらいは運転できたけど、営業車のボンネットも開けたことがないし、原付スクーターなんてどこにエンジンが付いているのかも知らなかった。

知識を持っている人を逃がしてなるものか。

テツさんが日本へ帰れるように支援するつもりだけど、テツさんも持ってる有用な知識は洗いざらい吐いていって貰わないと。

「・・・そうだよ。通信技術と輸送能力の向上は軍事面だけじゃなく産業の発達にも圧倒的な優位性を生むだろうしね。個々の人間を強くすることも同じ。だから私たちは、魔獣の血の恩恵を受けやすいウォーレス領の森に学校を作って、人を育てようとしてる」

「魔獣が強い東部や北部の森へ、いきなり入るのは確かに危険だな」

そう。だから南の森なんだよ。

私の言わんとしたことをテツさんは正しく読み取ってくれた。

それは良いんだけど、経験者が気になる言い方をしたね。

「・・・やっぱり東部や北部の魔獣って強いの?」

「強いらしいぞ。俺たちはまだ北上できていねえが、ケイナんちの爺さんから聞いた話じゃ、北部の森を通るときにゴッソリ殺られたらしい」

ぞっとするような情報をくれたテツさんを、ケイナちゃんが具体例を挙げて補足する。

「ドレイクやワイバーンやグリフィンですね。その苦労話は何度も聞かされました」

「・・・うへぇ・・・」

逃げ惑うたくさんの人が、空から襲い掛かってきた巨大な魔獣に食われる姿を想像しちゃったよ。

ドレイクってドラゴンじゃないの?

お母様たちはドラゴンを龍種と呼ぶけど、ドラゴンとは別種の魔獣なんだろうか。

ワイバーンやグリフィンは飛ぶと聞いているし、人間の足で地上を逃げ回っても逃げ切れなさそうだよね。

「鋼毛熊も鎧イノシシも、そこまで強くはねえからなあ。そこから先はどの程度強えのか、まだ分かんねえな」

「・・・鎧イノシシって?」

そんな名前の魔獣が居るとは聞いた記憶がないんだけど、普通のイノシシと何か違うのかな?

“こうもうぐま”っていうのは、たぶん、イエーティだろう。

テツさんはバンダースナッチのことも“犬っコロ”と呼ぶし、独自に命名した魔獣のことかも知れないから分かりにくいんだよ。

そこで助け船を入れてくれたのは、苦笑しているケイナちゃんだ。

「ベヒモスですよ。テツさんはギルドで見せて貰った地図に書いて有った名前で覚えてしまったみたいで」

「・・・それって、昔の勇者さんが描き残したって地図!?」

ふおおっ! 噂の地図は実在した!

私が驚いたのが面白かったのか、ケイナちゃんはクスクスと控え目に笑う。

「ええ。勇者クツキの直筆だそうです。私には何と書いて有るのか読めませんでしたが」

「・・・それ、私もドネルクさんに見せて貰おうと思ってた地図だよ。へぇー。ベヒモスってイノシシなんだ?」

地球では 河馬(カバ) とか 犀(サイ) がモデルだとか―――、いや違ったかな。

象だとか牛だとか、宗教や伝承によって色々な説が有ったはずだけど、こっちの世界ではイノシシだったか。

まあ、バイコーンもシカだったしね。

馬の脚運びに合わせて揺られながらケイナちゃんたちが狩ったことの有る魔獣の話を聞いたりして、駄弁りながら直線道路を進む。

もちろん、駄弁っては居ても、いつも通りアクティブソナーと索敵レーダーを駆使して魔獣の襲撃に備えてるよ。

本場のシカが風魔法に乗ってブッ跳んで来る話やショージョーがヒヒっぽい大猿だとか聞いている内に、1時間ほどで正面に採掘場の門が目視で判別できるようになった。

「・・・あ。ほら、見えてきたよ」

「あれが?」

前方を指し示すと、ケイナちゃんたちが揃って首を横へ伸ばして前方を覗き込む。

「採掘場よ!」

「・・・人を強く育てるための拠点で有り、内戦で王国が割れるのを防いだお肉と塩の出所。ウォーレス領の軍事力と経済力と政治力の源泉の1つだね」

ルナリアの大雑把すぎる説明に補足を入れるとテツさんたちが頷き返してくる。

「この国にとっても最重要拠点の1つってことだな」

「へぇ~。立派な砦だね。あれだけの“魔の森”の木を伐るのは大変だったんじゃない?」

レイクスさんが口にした感想に私の首が傾ぐ。

視線を前方へ向け直すと、巨木の丸太をそのまま建てて並べた城壁が見える。

” 高台と(モット) 城壁に囲まれた中庭(・アンド・ベイリー) ”のような”即席砦”では有るんだけど、その立派な城壁が崖の高さよりも高いからね。

”魔の森”の木を伐るのは大変、かぁ。

お婆様たちも工兵部隊の兵士さんたちも、そんなことを言ってたよね。

エルフ族の認識も同じなんだ?