軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会 ⑨

「フィオレ様。そろそろ移動準備をした方が良さそうです」

「・・・えっ? もうそんな時間?」

木柵の向こう側にまた“1号”の足跡を見付けて、魔力の手を伸ばして大穴を埋め戻し終えたところに声を掛けられて振り返る。

レヴィアさんが指す先を見れば、休憩を終えたみんなが自分の馬の元へと向かい始めている。

「戻りましょう」

「・・・うん」

準備が出来ていないからといって置いて行かれることはないだろうけど、みんなが出発準備を終えているのに遅れて慌てるのは格好悪いから余裕を持って戻る。

軍隊って号令が掛かってから準備が整うまでの時間が短くて、油断しているとドタバタする羽目になるんだよ。

出発時間が決まっていれば事前に備えておくこともできるけど、小休止なんてば、部隊の状況を見極めて指揮官が切り上げ時を決めるからね。

現代地球なんかだと腕時計なんかの時間を共有できる個人装備をみんなが持っているのだろうから、「10分間の休憩」だとか終了時間を決めてから小休止命令を出せるけど、こっちの世界には腕時計どころか懐中時計も普及していないんだし。

指揮官のフィーリングで休息状況を判断するんだから、常に周辺状況を把握してアンテナを立てておかなきゃいけないんだよ。

そんなご無体な、と思わなくもないけど、私も部隊長扱いだから常に護衛が付いているんだし、護衛がちゃんと周囲に目を光らせているなら状況変化を察知できないわけがない。

作戦行動中は一兵卒だって基本的に1人では行動しないからね。

周辺警戒に気を張っていれば複数人グループの誰かが気付いて当たり前だし。

その前提で指揮官の判断が行われるのだから、私も遅刻なんて不細工な真似は許されない。

いつでも出発できるように急いで鞍へよじ登る。

ほどなくお母様の出発準備命令が下って、ピーシーズが護衛に付いていたルナリアが戻って来た。

ルナリアに手を引かれてノーアも一緒に帰ってきている。

ミセラさんたちとピーシスガードも遅刻せずに騎乗して出発準備を終える。

こっちへ来るのかと思っていたら、ピョンと跳び上がったノーアが今度はルナリアの前へと収まった。

まあ、良いけどね。ノーアはノーアなりにルナリアと私の間でバランスを取っているみたいだし。

テツさんたちもアスクレーくん部隊に倣ったのか遅刻せずに荷馬車へ乗り込んでいた。

「出発!」

お母様の号令で馬列が街道上へ復帰して関所を抜ける。

何か問題でも起こらない限り、ここからレティアの町へはノンストップだ。

頭上の太陽はずいぶんと西へ移動しているけど、あと2時間ほどの道程だからね。

日没までにレティアの北門を潜れるだろう。

街道から眺められる景色に溜息が出そうになる。

可能性の塊だなぁ。

新領地側の領境付近もウォーレス領側の領境付近も、見渡す限りに原野が広がるばかりで畑の1枚すらなかった。

それだけの土地を遊ばせているってことだよ。

いつの日か、この原野を見渡す限りの農地に変えて見せる、なんてことを考えるのは良いけど、本当に出来るんだろうか?

レティアの町だと水源のナーガ川がすぐ傍に有るけど、この辺りだとナーガ川からは少し遠いよね。

ふと思い付いて地中に潜らせているアクティブソナーの探知目標を変えてみた。

「・・・おっ? 水は有るね」

「水がどうしたの?」

地下水脈を魔力の手が探り当てて、私の呟きにルナリアが反応する。

「・・・ん? ああ。領境付近って滅多に来ないじゃない? この辺りの原野を農地に変えるには水が必要だと思って調べてた」

「こんなところに水が有るの?」

ルナリアが首を傾げたくなるのも分かるよ。

雨も降らないし乾燥気味で、原野と言っても草ボーボーの草むらじゃないからね。

日本の未利用地みたいに緑一色じゃなくって、土の地肌が透けて見える程度の草が薄らと生えているだけだもの。

草も生えないぐらいに保水力が少ないってことは土も痩せてるのだろう。

これ以上、スライムに根を食い荒らされて雑草も生えなくなれば、地面がカチカチに固まって砂漠化したっておかしくない。

砂漠化のメカニズムって、どうだっけな?

草も生えなくなって地面が剥き出しになると、風で土が吹き飛ばされて痩せた土だけになるんだっけ。

カチカチに地面が固まると雨で土壌が流されて痩せた土だけになるパターンも有ったはずだけど、そもそも雨が降らないから風のパターンだろうね。

砂漠化を防ぐには、草木が育ちやすいように堆肥を漉き込んで、土の通気性と保水力を引き上げるしかない。

野菜だって雑草だって水がなければ育たないんだよ。

雨が降らないなら灌漑するしかないのだから、方法は1つしかない。

「・・・地下水だよ。レティアの町の地下よりは少し深いけど、水脈は有るみたい」

「深い場所の地下水なんて農地に使えるの?」

そりゃあ水なんだから使えるに決まってるじゃん。

「・・・井戸で汲み上げるとか、まあ、方法は有るよ」

「畑に撒く水を人の手で汲み上げるのって大変じゃない?」

ああ。そういう意味か。

ルナリアは人力による労力を心配したらしい。

レティアの町中や城壁の周りは地下水の水位が高いからね。

地面を1メートルも掘れば地下水が染み出してくるほどだし、そこまで畑の土は乾燥しないんじゃないかな。

レティアの農家さんたちは、井戸水で灌漑するにしても、そんなに深い場所から汲み上げては居ないと思う。

それでも人の手で井戸水を畑に撒くのは重労働に違いない。

だからこそ、農家さんたちは巨大スライム事件で私が空けた地面の大穴に染み出してきた地下水を、農業用水として灌漑に使いたと言ってきたんだし。

井戸の水位がもっと低ければ、さらに重労働になることは容易に想像できるよね。

ルナリアの心配も当然なんだけど、それを解決する手段なら有る。