作品タイトル不明
プリンセス強襲 ⑫ ※王都騎士団面
王女殿下の護衛に就いていた2名の騎士は、淑女の事情により殿下の部屋から追い出され、随伴部隊に割り当てられた旧・レティア砦、現・ウォーレス侯爵家領主館内の兵営区画へと帰還してきた。
仮本陣に指定された大部屋で、2人と同格の小隊長たちに片手を軽く挙げて迎え入れられる。
王都の王城内なら王女殿下の護衛は近衛部隊の任務だが、殿下お一人の国内移動ならば騎士団が護衛任務を担う。
近衛部隊の任務は国王陛下を頂点とした「王族の護衛」であって、優先順位が数段落ちる王女殿下お一人が王都を離れるために近衛部隊が王城を開けるわけには行かないからだ。
王族の護衛ともなれば若手の平騎士に任せるわけには行かないし、部隊統括や指令系統の柱を担う大隊長や中隊長が護衛するわけにも行かないので、消去法で直接の護衛は小隊長クラスの仕事となる。
今回のウォーレス領訪問では輜重を連れない強行軍で時間優先の抽出編成だったから、騎馬のみの1小隊21名、計10小隊の総数210騎が、王都騎士団南部方面隊べルーサー副長の指揮で王女殿下に随伴し、通常7日間の道のりを5日間で駆け抜けた。
この大部屋は、実務責任者である彼ら、小隊長10人が詰める事実上の部隊本部だ。
異例中の異例だが、なぜ、こんな異例尽くしの事態になったのか。
事の発端は、王都の騎士団本部と魔法術師団から同時に上げられた一つの報告だった。
“保守派”の主軸戦力の一つであるウォーレス家。
その中核を担う「ピーシス家に異変有り」。
その報に、王宮は大騒ぎになった。
国王陛下直々に特務魔法術師という特殊な任務を与えられているピーシス卿が、後継者を決めたというのだ。
婿を取ってはどうかと陛下が勧めても頑として受け入れなかった、あのピーシス卿が。
王家直属魔法術師団の中でも群を抜いて強力な魔法術師であるピーシス卿は、王国にとっての最強カードでもある。
王家にとって決して手放せないカードであり、出来ればウォーレス家から切り離して王家に近しい貴族家と血縁を持たせて囲っておきたいと画策していた王宮官吏は、寝耳に水の事態で慌てに慌てた。
“保守派”にとっても“融和派”にとっても一大事で、王国の国防体制に影響する。
そんな重大事案の一報に対して、国王陛下は王都から軽々に動けず、第2王子殿下はフラフラと“融和派”領地を遊び回っており、隣国の政情不安で王国西部国境情勢から目を離せない“保守派”の首領である騎士団長閣下も南部国境まで赴くわけに行かず、宰相閣下に近しい“融和派”が口出ししに行けばキレたピーシス卿が蹴り出し兼ねず、騎士団長閣下に近い立ち位置の第3王女殿下が自ら国王陛下に申し出て、僅か5歳の身でウォーレス領まで足を運ぶことになった。
実力は誰もが認めざるを得ないが、本当に傍迷惑な女性である。
ただでさえ、ウォーレス家が強大な戦力を持ちすぎていると懸念する王宮官吏も多いのに、もう少し、ご自分の影響力と言うものを認識して欲しい。
そうして、大慌てで王都を発った王女殿下一行がウォーレス領へと急いでみれば、道中でウォーレス領軍がコーニッツ・ムーア両家の領都を攻め落としたとの情報が入って、王女殿下の身に危険が有っては一大事だと、念のため、問題の領都二つを迂回して通る羽目になった。
もう無茶苦茶だ! と、憤りながらウォーレス領まで来てみれば、攻め落とされても仕方がない重罪を犯したことを、コーニッツ・ムーアの両家現当主が白状しているらしい。
罪状は、他国と結んでの人身売買への加担。
さらには、王都の“融和派”貴族や、西部国境地域の“融和派”諸家が複数絡んでいるとなれば、王国の治安を預かる身として、到底、騎士団が看過できるものではない。
ピーシス卿が調べ上げた報告書の写しと原本は、クローゼリス卿の署名がある書簡と共に騎士団長閣下を通じて国王陛下へと届けられる手筈で、すでに早馬を走らせた。
事が事だけに、6~7日も有れば、騎士団長閣下から何らかの指示が届くことだろう。
レティアの街において、騎士団の活動に一切の制限が設けられていない以上、その行いにウォーレス家が一点の 疚(やま) しさも持っていないことは明らかだ。
国家として無関心では居られない事案が積み重なっているだけに、部隊が得た情報は、総責任者であるべルーサー副長へ報告が上げられる前に、部隊本部の中で、逐次、整理、共有される。
魔法術師団内部の事情で、単身で騎士団に引っ付いてきたクローゼリス卿や、王女殿下への報告は、べルーサー副長の仕事だ。
よって、小隊長たちは情報共有と言う名の雑談に取り掛かる。
「殿下は?」
「お嬢さん方と一緒に湯あみ中だ。ウォーレス卿と晩餐を共にされた後は就寝だな」
「領主居住区画でか?」
「兵営区画でお休み戴くわけにも行くまいよ」
リテルダニア王国第3王女アリストテレジア殿下は、現国王陛下が6人儲けたお子の末妹で、次期国王候補筆頭の第2王子殿下を除けば、王国に残った最後の後嗣だ。
騎士団を始めとした“保守派”にとっては、宰相を筆頭とする“融和派”に第2王子殿下が取り込まれている現状では、第3王女殿下が唯一の希望でもある。
第1王子殿下と第3王子殿下が事故と病気で身罷られ、第1王女殿下と第2王女殿下が婚姻で国外へと出られている以上、どれだけの犠牲を払おうとも守り通さねばならないのが第3王女殿下なのだ。
しかし、幼いとはいえ淑女なので、男性騎士による護衛には細々とした制限が掛かる。
浴室は元より、寝所の護衛も室内や部屋の前での歩哨は憚られるため、居住区画周辺を丸ごと固めて関係者以外の立ち入りを禁じるしかない。
特に、今回は強行軍での移動を予定したため、傍付きメイドを一人しか随行させておらず、通常以上に王女殿下の周辺警護に気を遣う羽目になった。
国王陛下に次ぐ最重要人物の護衛任務は重責であり、極めて神経を使うものだ。