作品タイトル不明
精霊魔法というもの ㊺
「たぶん、危険はねえぞ」
「ふむ・・・」
テツさんの勘を信じ切るのは危険だと思うけど、私としては人的被害が出なけりゃそれで良いんだよね。
この悪趣味な金ピカ領主館だって取り壊し予定だし、最悪、この幽霊が暴れたとしても、周りを気にせず戦える。
万一の際には領主館ごと幽霊を粉砕する所存。
お祖父様たちは幽霊だって殴れるって言ってたし、やってやれないことはないはず。
私が余所見している間にルナリアは片方の”呪物”を目の前に引っ張ってきていた。
あっ。ズルいよ。
もっと近くで見たいからルナリアの傍に私も頭を寄せる。
一緒になって鏡面を覗き込むとルナリアが首を傾げた。
「コレ、どうなってるの?」
『コレドウナッテルノ!?』
ん? 復唱が聞こえたのは目の前の”呪物“ではなく、もう片方の”呪物”からだ。
興味に負けたのか、ルナリアが手で触れても問題がなかったからか、お母様も残った片方を指先で摘まんで手元引き寄せる。
とは言え、未だに警戒しているのだろうお母様は、”呪物“を手に取らずテーブルの上へ置いたまま観察している。
復唱したのはお母様の側に有る”呪物”だったから、そっちも覗き込みに行く。
こっちのレイスは鏡面の中で機嫌良さそうにユラユラと体を揺すっているね。
ん? ルナリアの目の前に有る鏡面の中では、どこを見ているのかレイスが余所見をしていた。
もう一度、お母様側の鏡面を覗き込み治せば、こっちのレイスは体を揺すり続けている。
おや? これは・・・?
レイスは1体のはずなのに、動きがシンクロしていない?
「・・・別々の動きをしてるね」
『ベツベツノウゴキヲシテルネ!』
私の呟きを拾ったレイスの声が聞こえたのはルナリア側の”呪物”からだった。
ほほう?
お母様と顔を見合わせてルナリアを見ると、首を傾げているルナリアも私たちを見た。
お母様と2人で席を立ってルナリアの傍へ行く。
お母様が無言で”呪物“を並べると、2つの“呪物”の中でそれぞれのレイスが別々の動きをしていた。
「本当ね」
『『ホントウネ!』』
ルナリアの呟きを拾ったレイスの声がハモる。
「・・・あれ? 今度は両方から」
『アレ?』
『アレ? ヒャハハハハ!』
むっ! 私、からかわれてる?
幽霊の声の調子に嘲りが感じられて何となく腹が立つ。
ムカッと来たけどペシッと叩きたい衝動をグッと抑え込んで我慢する。
2つの“呪物”が明らかに違う反応を示したことで、別々の幽霊が取り憑いているんじゃないかという疑いが浮上した。
しかも、からかうってことは自我が有るってことじゃないの?
視線を上げてテーブルの向こう側を見ると、目を笑わせているレイクスさんは、私たちと幽霊の挙動を観察して楽しんでいるようだ。
ここまでは、すでに判明している情報ってこと?
ダンジョンでレイスが“呪物”に取り憑いてからそのまま来たって言ってたし、検証もこれからだって言ってたよね。
この現象がどういうことなのかレイクスさんに訊いても無駄っぽいな。
なら、“本人”に訊くべきか。
「・・・ねえ。ちょっと」
『ネエチョット!』
余所見しているレイスに話し掛ければ、体を揺すっているレイスが復唱した。
「・・・そうじゃなくってさ」
『ソウジャナクッテサ!』
ついツッコんでしまうと今度は余所見しているレイスが復唱する。
さらには煽るように鏡面の中でチラッと私を見やがった。
ムカムカッ。
腹立ち紛れにブワッと魔力の手を出して、10本ばかり拳骨を振りかぶる。
「・・・殴るよ?」
「わああああっ! ちょっとちょっと!」
『『ワアアアアッ!?』』
魔力の手が見えるレイクスさんが慌てて止めに入って、2つの“呪物”が怯えた声を上げる。
手足も生えていない“呪物”が、私の魔力の手から逃げられるものなら逃げてみろ。
粉々に粉砕するぞ! と言わんばかりに、”シャドー魔力の手”でシュッシュッ! と空中にパンチを繰り出しつつ、もう一度話し掛けてみる。
「・・・あなた。ちょっと良い?」
『ナ、ナニ~?』
ほらぁ。返事したよ。
このレイスに自我が有ることも、会話が出来ることも確定した。
ふむ・・・。意外とイケそうかも?
それならば、と余所見を止めたレイスに要求を伝えてみる。
「・・・片側の“体”で聞いた言葉を、もう片方の“体”で話すように統一してくれない?」
『エエ~?』
嫌そうに言わないでくれる?