作品タイトル不明
精霊魔法というもの ㊸
「レヴァナントとドラウグルとレイスの分類って、本当に曖昧なんだよ。生物を襲って生命そのもの―――、もしかすると、魔素を奪おうとするのはレヴァナントもレイスも同じだし、取り憑くという性質はレイスとドラウグルも同じなんだよ」
私が懐疑的だと思ったのか、レイクスさんが言い訳がましい説明をする。
「・・・レヴァナントとドラウグルは?」
「不死者ゾンビや骸骨スケルトンは死体に取り憑いたレヴァナントの一種だとする説が有るのさ。でも、場所に囚われて墳墓や遺跡を徘徊する、実体を持つ死霊系の魔物をドラウグルと呼ぶんだから分類が難しい」
んん? どういうこと?
ゲームやファンタジー作品でよく有る地下墳墓なんかで侵入者を殺そうと武器を片手に襲って来る骸骨兵士がドラウグルで、普通の墓場を徘徊する死体や骸骨がレヴァナントってこと?
言われてみれば行動原理に違いが有る気はするね。
そして、レヴァナントやレイスは取り憑くんだっけ。
うーん? やっぱり、よく分かんないな。
解釈できそうなところから片付けてみる?
「・・・ゾンビやスケルトンは死んだ体にその人の魂が留まっているわけでは無いと?」
「えっ! そうなの!?」
バッと私を見るルナリアにレイクスさんが微笑ましそうな目を向ける。
「意味ある言葉を話すこともなく、生前の記憶を持つ振る舞いもせず、ただ目の前の生者を襲うだけの“動く死体”だよ? 死体の中に留まっている魂が生前と同一のものだと、どうやって証明するの?」
「あっ。そっかー」
ルナリアは納得したみたいだけど、それだと“同一のものではない“と証明できているわけでもないよね。
面倒くさくなってきたな・・・。
「・・・違いは場所に囚われるかどうか? “動く死体”という意味では同じなんですね。でも、レイスも“肉体”に執着して取り憑くなら、もう、どれも同じでは?」
「そう考えると、分類よりも発生原因を探究しようとした研究者も間違って居なかったのかもね」
投げやりな私の良い分にレイクスさんが頷く。
ああ。そうなるのか。最初の仮説に戻っちゃった。
私が“分類しようとするだけ無駄じゃない?”的なことを言ったように、昔の学者さんたちも分類を定義するのが面倒になったんじゃないだろうか。
堂々巡りになると踏んだのか、お母様が話題を現実に引き戻す。
「しかし、レイスが“肉体”に執着するものだと仮定して、本当に“魔法道具を肉体だと認識する”なんてことが起こるものなのか?」
「起こってしまっている現実は受け入れざるを得ないと思うよ」
お母様の疑問にレイクスさんは肩を竦めて返した。
お母様も悩ましそうに眉根を寄せる。
「それはそういうものではあるが」
「何なら、現物を見てみる?」
そこでレイクスさんがポンと手を打つ。
今、持ってるの!?
ルナリアと私が身を乗り出したのは同時だ。
「「見たい!!」」
「待て待て。―――この場に持っているのか?」
横からお母様の手が伸びてきて、ムギュッと顔を押し戻される。
お母様の視線を受け止めたレイクスさんは足元の床に置いていたリュックサックに手を伸ばしている。
「迷宮での実験の後、そのままイエーティを追ってきたからね」
「大丈夫なのだろうな?」
ごそごそとリュックサックの中を漁っているレイクスさんに、お母様がジト目を投げ付ける。
対するレイクスさんは、アハハと軽く笑い飛ばした。
「さあ? 安全性の検証はこれからだし、実験には多少の危険が伴うものだよ」
「む・・・」
いつものお株を取られちゃったね。
シェリアお婆様に言ってきたことそのままのセリフをレイクスさんに返されて、お母様が口籠もる。
レイクスさんもお母様と同じで実験を躊躇わないタイプだね。
テツさんはテツさんで平気な顔をしている。
「今のところは大人しくしているし、敵意は無いようだぞ」
「レイスが生者に敵意を持っていないだと・・・?」
お母様でも怪訝な表情になるぐらいだから、驚くべきことなんだろうね。
私は自信ありげなテツさんの態度も気になるんだけど。
ルナリアがコテリと首を傾げる。
「レイスって敵意を持っているものなの?」
「それはレイスに限らずだね。死霊系の魔物というものは、生者の命を―――、というか、魔素なのかな? 何らかのものを奪おうとしに来るんだよ。それを“敵意”と言っていいものかどうかは悩ましいところだね」
レイクスさんの解説にテツさんも首を傾げる。
「生気ってのか? 生体エネルギー的なものを吸い取られる感じは有ったな」
「“せいき”? “せいたい”?」
吸われた経験が有るんかい。
「生気」ってオカルト話ではよく聞く単語だと思うけど、ルナリアは聞き慣れないよね。
どう言い換えればルナリアにも分かりやすいだろう?
「・・・あー。“活力”とか、そういうの、かな」
「活力なら分かるわ!」
ヨシ。私の通訳にルナリアがパッと表情を明るくした。
素直に感情を表すルナリアに目を向けながら、テツさんが感想のようなものを口に出す。