軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ㊶

「ちょっと待ってくれ。 亡霊(レイス) を魔法道具の材料に使うのか?」

「ケイナと2人でショージョーとかいう大猿を群れごと潰しただろ? その素材を郷に残して行ったんだが、レイクスが作った魔法道具の試作品も、大猿の骨と血と何やかんやを砕いて混ぜて焼き固めて磨いた”呪物”だってよ」

テツさんが入れた補足にお母様が嫌そうに顔を顰める。

「魔法道具とは、そんな素材から作るものなのか?」

「・・・おお・・・。 外側(ガワ) も中身も呪詛で満ちてそう」

「一般的な素材だと思うけど?」

オカルトを信じていない私でも不吉そうだと思っちゃうけど、レイクスさんはキョトンとして首を傾げる。

そりゃまあ、レイクスさんの感覚は合理的だと思うよ?

お肉だってバラバラに損壊した死体の一部が人間の食料に利用されているので有って、骨からはスープが取れるし、出汁ガラの骨を砕けば肥料になって有機物というものは無駄なく使える。

ほら。実に合理的じゃん。

骨や血を魔法道具の素材に使ったからと、今さら嫌悪感を持つ方が非合理的だものね。

焼成するって言ってるんだから、異世界セラミックの一種という解釈で良いんだろう。

物質的な方は、まあ良いや。

隣の席で合理的思考に切り替えようと努力しているらしいお母様を見上げる。

「・・・レイスって何だっけ?」

「死霊の一種だ。死霊系にも何種類か有るが、生き霊などからも生じるといわれているのがレイスだな」

ああ。ハインズお爺様から幽霊の倒し方を教わった後に、授業で1度そう教わったっけ。

お母様が質問に答えてくれたけど、ぶっちゃけ私の感覚では、幽霊は幽霊に過ぎなくて、幽霊の分類そのものが理解できていないんだよね。

実物を見ても見分けられる自信は1ミリも無いよ。

お母様も分類に言及しないのは、その分類の線引きが曖昧だからじゃないだろうか。

そう言った意味では、生き霊からも生じるという特徴があるレイスという幽霊は非常に覚えやすくて親切な存在に思える。

たぶん、私にはレイスも見分けられないけどね。

レイクスさんが納得顔で頷いている。

「うんうん。一般的な仮説だとそうだね」

「一般的じゃない仮説も有るのか?」

興味を引かれたのかお母様が首を傾げた。

「そもそもさ。霊体系の分類って曖昧じゃない? そこに大した意味は無いんじゃないかと考える人たちも居たんだよ」

「効率的に討伐するための分類だろう? 無意味ではないんじゃないか?」

レイクスさんが口にした極論に呆れ顔のお母様が反論する。

いや。もちろん、昔の人が唱えた仮説を教えてくれているだけで、レイクスさんの意見が極論ってわけじゃないんだけどね。

それにしても、ものすごい極論だよ。

「そうだね。しかし、彼らは“霊体系の魔物とは何なのか”と考えたんだよ」

「学者的な発想だな」

“どう分類すれば良いのかハッキリしないから、分類そのものを止めて 十把一絡(じゅっぱひとから) げに倒し方を考えよう”的な発想だろうか。

嫌そうに眉根を寄せたところを見ると、お母様はアカデミーの学者さんたちでも思いだしたのかな?

ていうか、「幽霊を魔法道具の素材扱いするのか?」って話をしていたはずだけど、レイクスさんは何でこのタイミングでこんな仮説の話を?

お母様の感想にレイクスさんが苦笑する。

「まあね。一部の魔法術式研究者たちが唱えた仮説だよ」

「やはり術式研究者か・・・。それで、その仮説の中身は?」

フンと鼻息を落としたお母様が先を促す。

「死体なんかの依り代を持たない霊体系は人間や動物の霊魂そのものではなく、魔素に生前の思念が転写されたものだとする説だね」

「・・・どう違うんですか? 本物と偽物?」

幽霊って死んだ人の魂じゃなかったんだ?

いや。異世界基準でも霊魂についての考え方は地球と同じっぽいね。

むしろ、現代地球よりも霊魂の存在を肯定的に捉えているのだろう。

私の質問にレイクスさんが首を振る。

「いいや。生き物の魂というものは肉体に宿るもので、肉体の死滅で体内の魔素が霧散するのと共に魂も霧散するものだと考える説でね。霊体系の魔物は迷宮などの闇属性を帯びた魔素に魂が転写されたものだとしている」

「・・・複製かな? 本物は消えちゃうんですね」

霧散と転写か。

今の話だと、“なぜ転写が起こると考えたのか”、あるいは、“なぜ魂が霧散するものだと考えたのか”の説明が無かったよね?

思考に連続性が無くて飛躍しているように感じる。

幽霊を科学すれば、血を飲んで体内保有魔力量が増える現象も解明できないかな?

時間が経つと自分で倒した魔獣の血でも効果がなくなる現象には私も気付いていたよ。

その原因が死んだ魔獣の体から魔力が失われる“霧散”現象だと考えれば、確かに説明は付く。

栓を開けた炭酸飲料が、時間経過で気が抜けるようなものだと考えれば想像しやすい。

だったら、自分で倒した魔獣の血でしか効果が現れない現象は、“転写”が原因だとは考えられないだろうか?

そこにも何らかの原因が有っても然るべきだ。

ちょっとオカルトが混入するけど、命のやり取りで因果だの 業(カルマ) だのが発生するとか、屁理屈を付けようと思えば付けられる。

その因果関係をどうやって証明するの? と言われたら沈黙するしかなくなるんだけどね。

私の頭の中で仏法と 知識(ヴェーダ) が大勢のバックダンサーを背景に賑やかなインド音楽に乗って戦っている間にも、レイクスさんが古い時代の学者さんたちが残した推論を説明してくれる。