軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ㊵

「・・・勝てる自信が無いってことかな?」

「今は、だな。鋼毛熊や鎧イノシシよりも強え魔獣はまだまだ居るらしいから、そいつらの血を飲んで強くなりゃあイケるんじゃねえかと考えてる」

ふむふむ。なるほどなぁ。

熊パンチを平然と受けて首をへし折るテツさんでも、まだまだ成長途中だと。

テツさんの考える水準に至るには、もっと強い魔獣を狩らなきゃ行けないから、現状の冒険者活動を続ける方が良いのか。

あのテツさんの防御力をドラゴンの攻撃力が上回っているかも知れないのだから、それもまた勝負するにはリスクが高すぎるね。

失敗できないからこそ、今は臥薪嘗胆で自分自身の強化を続けたいって考えには賛同できる。

「・・・勝算は有るけど、まだ準備が必要ってことだね」

「私も頑張って、もっと強くなりますからね」

冒険者稼業の話とあって、ケイナちゃんもフンスと両の拳を握って見せる。

お? ケイナちゃんもヤル気だねぇ。健気なケイナちゃんにテツさんも目を細めている。

私もドラゴン捕獲に付いて行けば多少は勝率が上がりそうだけど、いつ攻め込んでくるか分からない迷惑な隣国のことも有るしなぁ。

私たちが担う第一の使命は国境防衛だし。

でも、強い魔獣を獲りに行くのは私も一緒に行きたいなぁ。

もっと移動日数を短縮できて、小旅行感覚でチャチャっと行ってチャチャっと帰って来られるなら不可能じゃないはず。

強い魔獣の血を飲むことでテツさんのような防御力が得られると実例が確認されていて、私たちよりも深い見識を持つエルフ族も血の効果を認めている以上、何もしないという選択肢は無いよね。

ゲーム的な思考で言うなら、テツさんの目的地である黒龍山脈から遠く、比較的弱い魔獣しか出ない南の森は初心者向けエリアと言える。

ウォーレス領から近い森で獲れる魔獣の強さには上限が有るってことだよ。

初心者エリアで成長に限界を感じたなら中級者エリアへ向かうのが常道なわけで、そうすることで強くなれるのなら国家安全保障の目的からも外れない。

ただし、思い付くままに色々と風呂敷を広げすぎた私は宿題が積み上がっている状態だから、そうそうウォーレス領から離れるわけにも行かない。

だとしたら、私が叩くべきはレイクスさんのお尻だな。

レイクスさんがクルマを開発してくれれば私の活動範囲を劇的に広げることが出来る。

何たって、クルマの利点は馬のように頻繁な休憩時間が必要無いって部分だからね。

信号機の1つも存在しないこっちの世界なら、高速道路がなくても1日で数百キロメートルの移動が可能になるんだから。

じーっと見つめていたら、ターゲットのレイクスさんに首を傾げられた。

「テツ殿の事情は理解した。エルフ族の事情もな。その上でウォーレス家も助力しよう」

「ありがとう。感謝する」

ウォーレス領を代表して次期大奥様のお母様が決断して、テツさんが今度は素直に協力を受け入れる。

エルフ族を代表するレイクスさんとの決着は集落との話し合い次第だし、テツさんとの方向性も決着した。

お母様が決めたウォーレス家の方針は王国とウォーレス領の利益を最大化したもので、お父様やお祖父様たちが反対することもないだろう。

王国として最大限にリスク回避を図った上で恩恵を享受できるなら、王様やドネルクさんが反対することもないはずだ。

今の状況で引き出せる最善は確保できただろう。

可能な限り丸く収まったのなら、気になるのは魔法道具開発の進捗だ。

お尻を叩くにも、現状の進捗を把握しないことには叩けないからね。

「・・・ところで、レイクスさん。魔法道具の開発って、どのぐらい進んでるんですか?」

「郷を出るときにテツが素材を残して行ってくれたから試作品を作ってみたんだけど、ケータイってのは実現できそうな目処が立ったよ」

「・・・そうなんですか!?」

もう実用化が見えてるの!?

レイクスさんのドヤ顔にマジで驚いた!

私の興奮に水を差すように、テツさんがレイクスさんにジト目を投げ付ける。

「目処ってお前。偶然も偶然だし、検証もまだだし、安全性が怪しすぎるだろうが」

「新しい術式や魔法道具なんて大抵が閃きと偶然の産物だよ?」

「・・・そ、そうなんですね」

安全性に疑念ありと言われてしまうと引いちゃうけど、触手を14本も生やしてしまった私としてはレイクスさんの反論に同意する部分が有る。

どういう意味かとテツさんに目を向けてみれば、微妙そうな表情でテツさんが首を振る。

「例の死霊系の迷宮でな。その魔法道具の動力に使う魔石を集めてたんだが、何とかいう魔物が試作品に取り憑いちまってな」

「死霊系の魔石? 取り憑いた?」

お母様も首を傾げている。

「・・・魔物って幽霊ですか?」

死霊系ダンジョンで取り憑くものなんてアレしかないだろうけど、どういう状況なのかが分かんないな。

みんなが視線を向ければ、レイクスさんが嬉しそうに解説を始める。

「ああ。魔法道具を作るに当たって、ムセンもデンワも“声を届ける”道具だと聞いたからね。最初は風術式を使おうかと考えたんだけど、建物の中に居るかも知れない相手には風術式だと障害物になって届かないかと思って闇術式に決めたんだよ。そうしたら、たまたまレイスが魔法道具に憑いちゃってね。いやはや。こんなことになるとは僕も予想していなかったよ」

付喪神かな? 魔法道具に取り憑く後天的現象なら付喪神では無さそうか。

ポルターガイストは取り憑いてるわけじゃないだろうから違うし、“不幸の〇〇”とか、そんなヤツ?

予想していなかった、とか言ってるけど、メッチャ嬉しそうだよね。

頭痛を感じたのか、こめかみを指先でグリグリしているお母様が空いた手でレイクスさんを制する。