軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ㉟

「ふむ・・・。これは風の術式か?」

「・・・確かに。刻印から風属性の魔力を感じるよ」

私も魔力の手を伸ばして回路部分に触れてみれば、何となく馴染みの有る気配が感じ取れる。

普段からシカや触角ヘビの魔石を使うことが多い私にとっては、とても馴染み深い魔力の気配だ。

「放つときに籠めた魔素の強さで矢の曲がり方が変わるんだ」

「ほう。使いこなせば障害物が障害物でなくなるわけか」

気が済んだのかお母様がホイと矢を手渡してきた。

そのままバケツリレーで興味津々なルナリアの手に渡してあげる。

「本物の魔法道具って、こういうものなのね」

「・・・鏃の金属は―――、この色はテツさんが言った通り、銅っぽいかな」

ルナリアと一緒になって覗き込み金属部品の素材を推測する。

私の観察結果を聞いたお母様が首を傾げる。

「銅というと、鉄よりも柔らかい金属だったか」

「・・・地球と同じ性質なら、熱や電気の伝導率が高くて比較的加工しやすい金属、かな。あと、錆びても表面だけで鉄みたいに中まではダメにならないはず」

ウォーレス領では鉄製品が一般的で銅製品を見た記憶はないけど、知識としてはお母様も銅を知ってるみたいだね。

とはいえ、そこは思考回路が軍事を中心に出来上がっているウォーレス血統だよ。

「柔らかい金属だと鏃には向かんのではないか?」

「他に素材が無かったからね」

視線を向けられたレイクスさんが肩を竦める。

銅だって剣や防具に使われた金属素材だし、鉄器に較べれば少し柔らかいってだけで、鉛のように柔らかい金属ではないんだけどね。

剣で斬り合う戦場では少し硬くて折れにくい鉄器の優位性が生死を分けたから鉄器に取って代わられたけど、銅と鉄のモース硬度は大差なかったはず。

「ふむ。ウォーレス領は領内に良質な鉄鉱山を持っている。何かの魔法道具を作るなら、ふんだんに鉄を使えるぞ」

「そりゃあ、ロブウッドたちが喜ぶなあ」

お母様の誘い文句にテツさんが表情を緩める。

ロブウッド? 初めて出た名前だよね。

「・・・誰?」

「ドワーフ父娘の親父の名前だ」

首を傾げた私の呟きにテツさんが答えてくれる。

「・・・ほうほう。お父さんがロブウッドさんね。娘さんの方は?」

「娘の方はリットだ。あの父娘もヒト族に酷い目に遭わされて故郷に居られなくなってな。少しばかりヒト族嫌いだが悪いヤツらじゃねえんだ。仲良くしてやってくれ」

「・・・当然だよ!」

仲間への気遣いを見せたテツさんにグイッとサムズアップして見せる。

故郷がどこかは知らないけど、「ヒト族」と言っているのだから神教会勢力内の出身なのだろう。

亜人種族排斥の被害者だろうことは容易に想像が付くけど、ここは王国だよ。

ウォーレス領やピーシス領で亜人種族排斥なんて絶対に起こさせない。

テツさんたちが安堵の表情を見せたことで、脱線した話題をお母様が軌道修正する。

「それで? 新たに集落の周辺に出るようになった魔獣は何だ?」

「犬っコロだ」

「・・・バンダースナッチだよね?」

ややこしいからテツさんの答えに修正を加える。

修正を入れた私を見てテツさんが目を笑わせた。

この人、自分が言いやすいから言ってるだけで、分かっていても呼び方を変える気がないんじゃないだろうか?

人当たりは悪くないし柔軟な態度に見えるけど、どこかアリアナさんと相通ずる頑固さを感じてならない。

テツさんと私の後を引き取って、レイクスさんが口を開く。

「先日のショージョーも本当に拙かったんだけど、バンダースナッチも群れる習性を持つ魔獣だろう?」

「群れの魔獣は脅威度が跳ね上がるからな」

納得顔のお母様が理解を示す。

「・・・集落がエサ場として狙われるってことかぁ」

人間だって野生動物だって、何なら昆虫だって、効率的で優良なエサ場を見付ければ執着する。

魔獣だって同じだろう。

子供の頃から食べ物を探して山へ入っていた私だからこそ実感する。

広大な自然環境の中でエサ場というものは簡単に見付けられるものではないんだよ。

どんな生き物だって幸運にも見付けたエサ場に執着しないわけがない。

小難しい顔で眉根を寄せているルナリアが私を見る。

「ねえ、フィオレ。罠で何とかなるんじゃないの?」

「・・・バンダースナッチに関しては、だね。ショージョーは難しいと思う」

首を振ってルナリアに否定を返す。

採掘場で“実戦”を重ねたから、バンダースナッチだけなら何とか出来る自信は有る。

でも、ショージョーって猿の魔獣でしょ?

耳にした習性や特徴だけでも、ワナとショージョーとの相性は最悪と言って良い。

猿という生物の棲息形態は、大きく地上型と樹上型の2つに分けられる。

かと言って、地上型も木に登れるし、樹上型も地上へ下りられる。

猿とオオカミが同じ地域に棲息しているとすれば、地上型と樹上型のどちらを選ぶだろうか?

個体や群れの強さに大きな差が有れば別だけど、敵と遭遇するリスクを避けようとするのが生物の本能というものだろう。