軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ㉜

「それ、もの凄~く興味あるんだけど」

「・・・行ってみます? 安全に観察できますよ」

「行く! 魔獣発生の謎が解けるかも知れない!」

食い付いたレイクスさんが明るい声を上げた。

あっ! そうじゃん!

お母様と顔を見合わせる。

「魔獣発生の謎、か・・・。そう言えば、バタバタしていて観察に行けていなかったな」

「・・・ずっと忙しかったからね」

お母様が西部地域から帰ってきたら、お母様と一緒に採掘場のシカを観察しようと思ってたのに、ピーシスガードの選出やら育成やらで忙殺されて忘れてたよ。

レイクスさんが深刻な表情で私たちを見る。

「実を言うとね。森の中に僕らの郷―――、生き残ったエルフ族の集落を置いておくことに限界を感じているんだ」

「ふむ?」

「・・・限界?」

お母様がレイクスさんに真っ直ぐ目を向けて、私も姿勢を正す。

恐らくは、今から話そうとしていることが、他の人類との接触を断っていたエルフ族が今になって姿を現した本当の理由なんだろうね。

そんな気がする。

「魔獣の生態系に異変を感じたことは?」

「「―――、!!」」

レイクスさんが静かに告げた言葉にお母様も私も息を呑む。

魔獣か。

異常に獲れるバイコーンの数から始まって、バンダースナッチの南下とか、思い当たることはいくつも有る。

今日に至ってはイエーティまで南下してきたからね。

森の畔に暮らしているウォーレス領もピーシス領も他人事じゃないし、エルフ族が森の奥で暮らしているのなら、もっとダイレクトに影響を受けていてもおかしくない。

お母様の真摯な目がレイクスさんを見つめる。

「聞かせてくれるか? エルフ族がどうやって生き延びてきたのか」

「想像は付いていると思うけど、神教会勢力から逃れたエルフ族は、“魔の森”に逃げ込んだのさ」

レイクスさんが肩を竦める。

「旧エルヴィン王国の領土は大陸西岸から1国を隔てた位置だったな」

「そうだね。黒龍山脈を越えるための通商路の入口だよ」

お母様たちの話を聞きながら、頭の中に大陸西部の地図を思い浮かべる。

確か、ノーアの故郷が大陸西岸の国で、旧エルヴィン王国はその東隣に有ったはず。

聞き慣れない単語にルナリアが首を傾げる。

「つうしょうろ?」

「・・・魔族領域側へ抜ける山道のことだよ。勇者様と逆侵攻軍が通った道」

「ああ~」

地図を思い出したらしいルナリアに目を細めてから、レイクスさんが続ける。

「全ての国民が国を脱出するまで神教会勢力の攻撃を耐え忍んだお祖父様たちは、王都に火を放った後、最後の最後に脱出して“魔の森”へ逃げ込んだそうだよ」

「西方諸国にも“魔の森”が有るの?」

「一応は有るよ。黒龍山脈の麓に薄くへばり付く形でね。そこから多くは、黒龍山脈に入って行った者たちと、お祖父様と共に森の中を東へ向かった者たちに分かれたんだ」

目を丸くするルナリアにレイクスさんが頷き返す。

そう言えば、そうだね。

地図上にも黒龍山脈と各国の領土の間に細い空地が有ったように記憶している。

あの空地が“魔の森”の続きか。

ウォーレス領が面している森のように奥行きはなくても、“魔の森”は“魔の森”だ。

同じ名前を冠している以上、魔獣も棲息しているのだろう。

でも、大陸西部からリテルダニア王国まで、途方もない距離が有ったはず。

「・・・何千キロメテルも森の中を?」

「いや。万単位だな」

「あ。そっか」

お母様の指摘で思い出す。

ノーアを故郷へ帰すのに片道2年ぐらい掛かると言われたんだった。

荷馬車が1日40キロメートル進むとしても、700日で2万8000キロメートルだよ。

痛みを堪えるような表情でレイクスさんが頷く。

「多くが魔獣に食われたり、森から出てヒト族に捕まったりで、とても過酷な道程だったそうだよ」

「アダレー王とリテルダニア王家はレティア卿を通じて懇意だったはずだ。本当に、なぜ、リテルダニア王国を頼らなかった?」

静かな声で、でも、怒りを抑え込むようにお母様が問う。

「僕の歳では当時を知らない。当時を知る者は、もうお祖父様しか残っていないしね。郷の大人たちから話を聞くことは有ったけど、犠牲が多すぎて、もう、ヒト族を信じられなくなったんだろうね。森から出ようという案は何度も出たらしいけど、結局、ヒト族への恐怖が勝ったんだと思うよ。お祖父様も民に無理強いは出来なかったと言っていた」

レイクスさんはゆるゆると首を振る。

ああ。エルフ族が王国を頼れなかった気持ちは分かる気がする。

裏切り続けられたからこそ、どうせまた裏切られると思っちゃうんだよ。

日本に居た頃の私も、人間なんて誰1人として信じていなかったからね。

腕を伸ばしてテツさんが元気付けるようにレイクスさんの肩をポンと叩いた。

「俺がレイクスとケイナと初めて会ったときも、大怪我を負って意識が無いレイクスを背負って郷へ近付いたら、郷の場所を教えたケイナを追放しようとしたぐらいだからな」

「む・・・」

エルフ族がどんなだったかの証言にお母様が口を噤む。

自分たちのお姫様まで追放しようとしたの!?

勝手なイメージだけど、「村の掟じゃ~!」とか言って、鎌や 鍬(くわ) と燃える 松明(たいまつ) を持って追い立てるお百姓さんたちの姿を想像しちゃったよ!